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[2020実証-9] イームズロボティクスが熊本で物流用ドローンの実証実験

2021年11月15日

内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。
イームズロボティクス株式会社は、福島県南相馬市を拠点に農業用ドローンや測量用ドローン、自律航行無人ボートなどの開発・製造を手がけています。今回は、同社が2020年度みちびきを利用した実証事業で行った、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)とLTE-RTKを組み合わせた物流用ドローンの実証実験を紹介します。イームズロボティクスの塙正典氏(R&Dセンター プロジェクトマネージャー)に話を聞きました。

塙氏の画像

イームズロボティクスの塙氏

CLASとLTE-RTKの2つの測位システムを搭載

小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会において示された「空の産業革命に向けたロードマップ2021」では、ドローンのレベル4(有人地帯での目視外飛行)を2022年度に実現することを目標に掲げています。物流におけるドローンの活用を想定したレベル4の実現には、離着陸や飛行ルートでの高い精度が要求されます。
GNSSによる高精度測位システムをドローンの自律制御に採用して、これまで数々の実証実験を行ってきたイームズロボティクスは、衛星位置などの条件によって精度が低くなることを課題として認識してきました。そこで同社は今回、みちびきのCLASと、携帯電話会社が提供する高精度位置情報サービスのそれぞれに対応した受信機を同じドローンに搭載して、互いの受信状態を補完して高い精度で飛行する実証実験を行いました。

実験に使ったドローン

実験に使ったドローン

2アンテナを搭載したドローン

LTE-RTK(左)とCLAS用(右)の2つのアンテナを搭載

携帯電話会社が提供する高精度位置情報サービスは、独自の基準点によって得られた補正情報を自社のLTE(次世代高速携帯通信規格)回線などで端末に送信し、RTK測位(固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで位置を測定する方法)を行うもので、イームズロボティクスはこれを「LTE-RTK」と呼称しています。
LTE-RTKはCLASと同様にセンチメータ級の高精度測位が可能ですが、携帯電話回線がつながらないエリアでは補正信号を受信できず、精度が落ちてしまいます。イームズロボティクスは今回の実証実験により、1)CLASとLTE-RTKの受信機同士の電波で受信障害が発生するかどうか、2)双方の位置情報がスムーズに切り替えられるか、3)長距離で運用可能か、の3点を検証しました。
「当社では、地上車両やドローンでCLASとLTE-RTKのいずれの測位方式も利用したことがあります。社内でどちらを使えばいいかを検討した時に、両方搭載して精度を比較し、2方式の切り替えをスムーズに行えるか試してみようと考えたのが、今回の実証事業に応募したきっかけです。このような取り組みは国内では例がありません」(塙氏)

元期と今期のデータをリアルタイム補正

Pixhawk(上)とCLAS対応受信機(下)

Pixhawk(上)とCLAS対応受信機(下)

イームズロボティクス製ドローンのフライトコントローラーは、ソフトウェアにオープンソースのArdupilot、ハードウェアにはPixhawkを採用しています。PixhawkはGNSSの位置情報を2系統入力できるため、今回はCLASとLTE-RTKの受信機両方の情報を同時に接続して飛行させました。2方式は別のアンテナを使用するため、電波が干渉しない配置を探りながら取り付け位置を決めました。

海岸の画像

事前実験を行った福島県の海岸

事前実験として、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールド東側の海岸で片道1kmの往復飛行を8回行ったところ、CLASとLTE-RTKのどちらもFIXして良好な精度が得られましたが、2方式の切り替えが自動で行われないという問題が発生しました。そこで、LTE-RTK受信機を遠隔操作でスイッチオフにして強制的に切り替えたところ、電波干渉の問題も起こらず、タイムラグも発生せず、スムーズに切り替わりました。
ただ、切り替わりの際、高度に急激な変化が起き、水平方向にもずれが生じる現象が起きました。調べたところ、高度の急激な変化は、CLAS対応受信機とLTE-RTK受信機で「ジオイド高」(地球を仮想的に表した楕円体表面から平均海面を仮想的に陸地延長した面=ジオイドまでの高さ)の算出の仕方が異なるのが原因で起きたと分かりました。また、水平方向のずれは、CLAS対応受信機は座標情報に「今期」(観測時点)における位置座標、LTE-RTKの受信機は「元期」(2011年の基準日)における位置座標(2011年以降の地殻変動を差し引いた位置座標)を採用しているために起きた事象でした。
そこで、まずフライトコントローラーにより、2つの受信機のジオイド高と同じに設定しました。その上で、LTE-RTKで受信した「元期」の測位データをマイコンでリアルタイムに「今期」の測位データへ補正するリアルタイム・セミ・ダイナミック補正システムを新たに開発し、受信機が切り替わる際に高度と水平位置に大きな変化が起きないようにしました。

リアルタイム・セミ・ダイナミック補正用マイコン

補正用のマイコンシステム

離島の診療所へドローンで長距離輸送

地図

(地図出典:国土地理院)

実証実験の場所は、熊本県内の上天草総合病院(上天草市)と御所浦島診療所(天草市)を結ぶ海上6kmのルートです。病院の離着陸場は駐車場で、飛行実施日は駐車場全体を駐車禁止にして安全を確保しました。御所浦島でも診療所近くのグラウンドを離着陸場としました。

上天草総合病院の駐車場

離着陸場は、上天草総合病院の駐車場

2020年12月19日、御所浦島が高潮と津波で被災したという想定で、ドローンで島の被災状況を確認するため上天草の病院から飛行し、御所浦島の診療所へ一度、着陸してから復路を戻る実験を行いました。さらに、上天草から御所浦島へ救急医薬品を搬送する想定での片道飛行や、御所浦島で感染症の疑いのある患者の検体を上天草の病院に運び、検査を依頼する想定での片道飛行なども行いました。

御所浦島診療所

御所浦島診療所

御所浦島診療所のグラウンド

御所浦島診療所のグラウンド

「いずれも目標ポイントにドローンがスムーズに離着陸できて、長距離での運用が可能と確認できました。ただ、この時はCLAS受信機のファームウェアに不具合があり、CLASがFIXして切り替わった時間は飛行全体のわずかでしたが、受信機が切り替わった時の挙動と、元期と今期の測位データをリアルタイム補正するシステムの動作は確認できました」(塙氏)

今後、ドローンで測位システムを二重化するかどうかについて、塙氏は次のように説明します。
「現在のCLASアンテナは大きく重量もあり、ドローンのペイロード(積載量)制限を考えると、測位システムの二重化は現実的には難しいです。今後、双方のアンテナや受信機の小型軽量化が進むことを期待しています」

海上タクシー

ドローンを追尾した海上タクシー

SLAS対応受信機を使った誘導機も開発

SLAS誘導装置

SLAS誘導装置

SLAS誘導装置

今回の実証事業では、みちびきのサブメータ級測位補強サービス(SLAS)対応受信機に、シングルボードコンピュータのRaspberry pi(ラズベリーパイ)とSLAS対応アンテナを組み合わせた「SLAS誘導装置」を使って、予め設定したルートを飛行するドローンに位置情報を送信し、着陸方向を変更する実験も行いました。
これは、たとえば災害時に緊急避難所にドローンで医薬品を運んだが、避難してきた人が多く着陸予定スペースにあふれて着陸できないようなケースを想定しています。飛行中に目的地を変更したいが、着陸地点にドローンを操縦できるオペレーターがいなければ航路変更が不可能となるため、SLAS誘導装置を付近の安全な場所に置いてスイッチを入れて電波を受信することで、ドローンがそちらに向かうように誘導できます。
実証では、ドローンが着陸地点周辺の一定範囲内に近づいた時に限って着陸地点の変更に従うように設定し、SLAS誘導装置から西に2m、北に3m離れた地点に降下するように変更指示を出しました。実験の結果、ドローンは、狙いどおりの着陸指定位置にほぼ正確に着陸できました。

着陸指定位置

誘導装置から少し離れた場所へ着陸

「SLASの測位をもとに予想以上に正確に着陸できることが確認できました。実用化に向けて、ドローンとSLAS誘導装置がどのくらい離れた場所から誘導電波を受信できるようにするか、誘導装置と着陸位置の距離をどれくらい遠くに離せるか、といった点を検証しなくてはなりませんが、装置を実際に使えることは今回、実証できたと思います」(塙氏)

最後に、塙氏に今後どのように開発に取り組んでいくかを話してもらいました。
「みちびきには利用料などの運用コストが不要で、宇宙から降りてくる衛星電波だけで完結するメリットがあります。当社はドローンだけでなく農機やローバーなどの地上車両も開発しており、求められる精度は地上の方がシビアなので、CLASを含めて測位方式を二重化する取り組みは、空と陸の両方で継続していきたいと考えています」

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

※本文中の画像提供:イームズロボティクス株式会社

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