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[実証2020-5] MASAがゴルフウォッチを使った災危通報の実証実験

2021年09月06日

内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。
今回紹介する株式会社MASA(=当時、現在はグリーンオン株式会社)は宇宙開発のエンジニアが集って立ち上げたベンチャー企業で、腕時計型ウェアラブル端末を活用したみちびきの災危通報(災害・危機管理通報サービス)の実証実験を2020年度に行いました。代表取締役社長の末永雅士氏と技術開発担当の新田茂男氏に、開発に至る経緯と実証実験の概要を聞きました。

末永社長と新田氏

MASAの末永社長(左)と新田氏(右)

腕時計型ウェアラブル端末初の災危通報対応

ゴルフウォッチはゴルファーのプレイを支援する機能を搭載した腕時計型ウェアラブル端末です。グリーンまでの距離や打数、トータルスコアなどの通知を一覧表示できるほか、コース図を表示してグリーンの方向やハザード(障害物)の位置をひと目で確認できます。これを使うことで、ゴルファーは次のショットをどのクラブでどの方向に打てばいいかを的確に判断できます。

MASAが発売するコンシューマー向け腕時計型端末「ザ・ゴルフウォッチ」シリーズは現在、全機種がみちびきのL1S信号を受信でき、SLAS(サブメータ級測位補強システム)に対応しています。そのため既存製品のファームウェアをアップデートしていけば、SLASと同じL1S信号を使う災危通報を利用できます。今回、災危通報への対応を図った理由を末永社長と新田氏は次のように説明します。
「これまで災危通報を受信できるウェアラブル機器は全くありませんでした。当社はゴルフウォッチでSLASにいち早く対応しており、災危通報にも問題なく対応できるため、みちびきの実証事業に応募しました」(新田氏)
「ゴルファーはプレイ中にスマートフォンを身に付ける人は少なく、大半の人が破損しないようゴルフバッグに入れたり、クラブハウスのロッカーに置いてきています。またゴルフ場は山岳部にあることが多く、電波も入りづらく、災害時に大きな被害が発生する可能性もあり、ゴルフウォッチ単体で災危通報を受信することに大きな意味があると考えました」(末永社長)

仕組み図

災危通報受信の仕組み

緊急地震速報と津波の2項目を報知

A1-II

ザ・ゴルフウォッチ A1-II

実証で使ったザ・ゴルフウォッチA1-IIは、解像度が320×300ピクセルの丸型1.34インチ液晶画面を搭載しており、災害発生地域で災危通報を受信すると警報画面を表示します。災危通報で受信できる防災気象情報には、緊急地震速報、震源、震度、南海トラフ地震、津波、北西太平洋津波、火山、降灰、気象、洪水、台風、海上などの種類があり、このうち報知する災害を「緊急地震速報」と「津波」の2項目に絞りました。
「限られたメモリサイズですべてのカテゴリを報知するのは難しく、ゴルフやアウトドアに必要なもっとも優先度の高い2項目を選びました。既存製品のリソースをどこまで使えるかを追求した結果、この選択になりましたが、今後、災危通報の有用性への認知が広がれば、ハードウェア仕様を変更してより多くのカテゴリに対応する新機種を出せる可能性もあります」(末永社長)

災危通報を受信すると、まず画面に発表日時と災害の種類を表示します。警報は赤地に黄色い文字で目立ちやすく、アラーム音も同時に鳴ります。確認ボタン「OK」を押すとアラームが止まり、さらにもう一度ボタンを押すと対象エリアを表示します。最後にもう一度ボタンを押すと元の画面に戻ります。これはゴルフプレイ中に使うGPSキャディーモードや、ランニングなどに使うGPSロガーモードと同様の動作です。

災危通報のシステム概要

災危通報のシステム概要。信号受信時に警報画面が表示される

信号出力と受信ボードを模擬して動作を再現

シミュレーターボードをPCに接続

A1-IIシミュレーターボード

災危通報に対応したファームウェアの開発に当たっては、みちびきが送信する災危通報の信号を模擬出力できるパソコン用のシミュレーターソフトとパソコンとをUSB接続して模擬GNSS信号を受信するA1-IIのシミュレーターボードを制作しました。これは全国各地のゴルフ場において、ファームウェアがアップデートされたA1-IIで正しく災危通報を受信できるかを机上で確認するためです。

シミュレーターソフトの画面例

災危通報を模擬出力したシミュレーターソフトの画面

災危通報の信号には、災害カテゴリや報知該当エリアなどのパラメーターがあり、今回制作したシミュレーターにはこれらのパラメーターを任意で設定できます。実証ではA1-IIで報知する緊急地震速報や津波警報に加えて、報知の対象外である気象や洪水などの通報や、報知エリアにさまざまなパラメーターを設定したコードを模擬出力して報知動作の有無を確認しました。
シミュレーターボードは、入力されたコードをもとに設定上の現在地が報知該当エリアだと判断した場合は警報をディスプレイ上に表示します。全国を11区分したそれぞれのエリア内において正しく警報が報知されるかを検証し、仕様どおりの動作を確認しました。

2エリアが隣接するゴルフ場で動作確認

エリアの境界図

ゴルフ場内にあるエリアの境界

実地での動作確認は埼玉県の飯能グリーンカントリークラブで行いました。ここは2番ホールのグリーン手前約100ヤード付近に災危通報で全国11区分されたエリアの2つが隣接する境界があり、エリアに応じて正しく災危通報が報知されるかを検証できます。
実証実験はみちびきの災危通報の試験配信に合わせて行いました。まずはGPSキャディーモード、またはGPSロガーモードを起動した状態で、災危通報の報知非該当エリアからスタートしました。A1-IIは災危通報を受信しているものの、報知非該当エリアであるため警報は表示されません。そのまま歩いて報知該当エリアに入ったところ、警報報知画面が表示されてアラームが鳴りました。

受信時の動作確認

ゴルフ場内を歩きながら受信時の動作を確認

これにより、GPSキャディーモード、GPSロガーモードのいずれの場合も災危通報のメッセージ受信時にそのメッセージの該当エリア内である場合は警報を報知し、エリア外である場合は報知されないことを確認できました。

受信画面

災危通報を受信した時の画面(左)とそれに続く詳細画面(右)

ゴルファーはL1S対応が当たり前

災危通報に対応したA1-II用の新ファームウェアはすでに3,000件以上のユーザーからダウンロードされており、注目度はかなり高く、同社は今後発売するザ・ゴルフウォッチの新製品にも災危通報の受信機能を搭載することを検討しています。
「今回は緊急地震速報と津波の2項目の表示に対応しましたが、屋外スポーツであるゴルフには雷などの情報も役立ちます。災危通報の新カテゴリ追加にも期待したいと思います」(新田氏)
「当社はL1Sのサービス開始時から対応製品を販売していますが、最近はみちびきの精度の高さや安定度への認知度が高まり、ゴルファーの間ではSLAS対応が当たり前になりつつあります。その分、競合他社も追従してきており、災危通報への対応がさらに差別化を図る方法の一つになると期待しています」(末永社長)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※内閣府及び準天頂衛星システムサービス株式会社は毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

※本文中の画像・図版提供:株式会社MASA

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