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日立ソリューションズが豪州でみちびき活用したスマホ土量計測

2021年05月24日

株式会社日立ソリューションズは3月29日、みちびきの補強信号とスマートフォンを用いた「土量計測」の実証実験をオーストラリア・シドニー郊外の新空港建設現場で実施し、実用上十分な精度が確保できたと発表しました。この実証実験は、総務省の「豪州における準天頂衛星を活用した効率的土量計測システムの実証に係る請負」として実施されたものですが、その仕組みと詳細について、システム開発を担当した同社の賀川義昭氏(スマート社会ソリューション本部フィールドソリューション部)に聞きました。

賀川氏

賀川氏

みちびきの高精度測位補正技術MADOCAを活用

空港の建設予定地

ニューサウスウェールズ州の西シドニー国際空港(ナンシー=バード・ウォルトン空港)建設予定地

今回の実証実験では、全世界を対象とした測位補強情報としてみちびきの高精度測位補正技術MADOCA(L6E信号)を活用し、次のような流れで進められました。

実証実験の概要図

実証実験の概要図

1)現場事務所に、みちびきL6信号対応の受信機をRTK基準局として設置

基準局のアンテナと、受信状況及び位置情報を示すPC

みちびきのMADOCA信号を受信する基準局(左)とその受信状況を表示するPC画面(右)

2)RTK演算処理に対応したGNSS受信機をスマートフォンに装着
3)基地局の補正情報をスマホで無線受信しながら、集積土砂の周囲を歩き動画撮影

空港建設予定地の盛土

空港建設予定地の盛土を計測

4)撮影データをクラウドに送信、処理済みの3Dモデルをスマホに返送
5)スマホ上で対象範囲を指定し、体積を計算する

3次元モデル

計測により作成された3次元モデル。クラウド側での演算処理は日本で行った

この手法により、レーザースキャナで得られた体積と比較しても誤差1~3%という高い精度で体積を求めることができました。また、MADOCA補強情報の利用により位置座標の絶対精度が向上したことで工事の進捗管理などに有益な情報が得られることも確認でき、同時に行われた内蔵GPSで自律飛行するドローン撮影による求積と比較しても、大幅に少ない手間で正確な求積が行えました。

3次元モデルの体積値誤差

スマートフォン計測システムで作成した3次元モデルの体積値誤差

Androidスマホを用いて土量計測を簡単に行う仕組み

土木工事の現場では工程管理や進捗把握などのため、仮置きされた土砂の体積を推定する「土量計測」が頻繁に行われています。その際には「土砂の形状を整えて寸法を計測する」「測量用のトータルステーション(TS=Total Station、対象物までの距離と角度を正確に取得する測量機器)やレーザースキャナを用い精密に形状を取得する」などの求積手法が用いられてきました。最近では、複数枚の撮影画像から対象物の形状を再現するSfM(Structure from Motion)技術を応用し、ドローン撮影で3Dモデルを構築し求積する手法も広がり始めています。
日立ソリューションズが開発した「GeoMation スマートフォン活用3D計測ソリューション」では、Androidスマートフォンを用いて画像データを取得し、クラウド側でSfM処理を行うことで、現場の負担を削減しつつ容易に土量計測が行える仕組みを構築しています。

GNSS受信機とアンテナを装着したスマートフォン(左)で歩きながら動画を撮影(右)

スマートフォンに2周波対応GNSS受信機とアンテナを装着し、歩きながら動画を撮影

開発に関わった賀川氏は、GNSS受信機で得られた高精度な位置情報の活用がシステム実現の鍵の一つだったといいます。
「協業先の日立建機を通じて現場のニーズを聞き、スマートフォンを活用することで解決方法を見いだせるのではないかと考えました。カメラ、センサ、通信機能を備えたスマートフォンでデータを取得し、負荷のかかる計算処理はクラウド側で行うようにすれば、仕組みとしては実現できるでしょう。しかし得られた結果が一定の精度に達してなければ、業務での実用化には耐えられません。その際に鍵となったのがGNSSによる測位精度でした」(賀川氏)

複数画像から3Dモデルを再現するSfMでは、隣り合う画像の「ラップ率(重なり具合)」が適切でなければなりません。しかし、歩きながら撮影者が適切なタイミングで撮影をするのは非常に困難です。そこで、同社のシステムでは元データを写真ではなく動画とし、その動画ファイルから適切なラップ率で切り出した静止画をSfMの入力データとしています。

「そして、切り出した静止画にはGNSSで得られた位置情報を付与しています。GNSS測位は1Hz、静止画は30枚/秒と取得インターバルが違うため、切り出された静止画には内挿で得られた位置情報をExifデータ(画像用メタデータの標準形式)に書き込んでいます。ここでの位置精度が高いほど、得られる結果は向上します」(賀川氏)

システムは、すでに新技術としてNETIS登録済み

「Solution Linkage Survey」のウェブサイト(日立建機株式会社)

このシステムはすでに国土交通省のNETIS(New Technology Information System、新技術情報提供システム)に登録済みで、協業先の日立建機株式会社から「Solution Linkage Survey」の名称で国内ユーザーに提供されています。日立建機はGNSS測位の種類と求積精度について「SBAS補強情報を利用した場合は(基準値との誤差が)8%前後、ネットワーク型RTKサービスを利用した場合は5%前後」としており、GNSS測位の精度が上がるほど求積精度も向上することが分かります。

実験実施はリモートで 現地スタッフからも高評価

今年2~3月にかけて行われた今回の実証実験。コロナ禍で渡航制限がかかる中、同社では国内の準備実験で詳細に作成した手順書と共に機器を発送、準備作業もリモートで行いました。実証実験は現地スタッフのみで行われましたが、現場作業者からは「これまでRTK測位が難しかった場所でも高精度測位技術が使えるようになった」、「RTK測位のコストが小さくなった」とシステムの有効性を確認することができ、作業負担も小さいため非常に歓迎されたといいます。
みちびきの補強信号を活用することで、通信環境が未整備の建設現場などでも高精度測位やそれを応用した土量計測などが高精度に行えることを示す事例となりました。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

参照サイト

※ヘッダ及び本文中の画像提供:株式会社日立ソリューションズ