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東洋建設、人工魚礁の築造システムにみちびきを導入

2021年02月15日

海洋関連の建設・土木事業を多く手がける東洋建設株式会社はこのほど、マウンド礁と呼ばれる海洋での人工魚礁の築造にみちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を活用する「漁場築造システム-QZSS」を発表しました。

底開式バージによるマウンド礁の築造

底開式バージによるマウンド礁の築造

マウンド礁とは、海底に石材やコンクリートブロックを山積みに設置して築造する大規模な人工の山脈です。湧昇流(深層から表層への上向きの流れ)を発生させることでプランクトンが増殖するため、漁獲量の向上が期待できます。海底にコンクリートブロックを投下する際の船の測位は、従来はディファレンシャル方式(Differential GNSS、D-GNSS)で行っていましたが、これをみちびきのCLASに置き換え、沖合における施工の高精度化を目指します。
みちびきを使った漁場築造システムの開発を担当した東洋建設株式会社の草刈成直氏(土木事業本部 機械部 課長)に話を聞きました。

東洋建設の草刈氏

東洋建設の草刈氏

水産庁「フロンティア漁場整備事業」で安定供給へ

1984年にピーク(1,282万トン)を迎えた日本の漁業・養殖業の生産量はその後、減少傾向に転じ、現在は当時の約3分の1(2018年は442万トン)にまで落ち込んでいます。水産庁の「フロンティア漁場整備事業」は、そうした状況下で日本の沖合域に漁場を整備し、水産資源の生産力を向上させて安定供給を確保しようという取り組みです。海洋へのマウンド礁の整備はこの事業の一環として行われています。

フロンティア漁場整備事業の実施箇所

フロンティア漁場整備事業の実施箇所(出典:農林水産省ウェブサイト)

水深約100~150mの海底に石材やコンクリートブロックを山積みに設置して作るマウンド礁は、高さが水深の5分の1程度になります。水産庁のウェブサイトには、2015年に完成した五島西方沖地区のマウンド礁は体積が約35万立方メートルで、東京ドームの約3分の1の大きさがあるとの記載もあります。

1辺2mのコンクリートブロックを60個積載

底開式バージ

底開式バージ

東洋建設では「底開式バージ」と呼ばれる運搬船を使って、マウンド礁を築造しています。この船には1辺が約2mのコンクリートブロックを60個ほど積載でき、目的地点の海上で船底を開いてコンクリートブロックを複数回に分けて海中に投入します。こうして船の位置をずらしながら膨大な数の石材やコンクリートブロックが海中に沈み、それが積み重なってマウンドが形成されます。築造はシミュレーションや測量を繰り返しながら綿密な管理のもとに行われ、その築造期間は1カ所で約3年に及びます。

ブロックの運搬・投入・投入完了

底開式バージによるブロックの運搬(左)・投入(中央)・投入完了(右)

いったん海中に投入されたコンクリートブロックは、あとは海の流れに任せて沈んでいくだけなので、海底のどの位置にたどり着くかを人の手で変えることはできません。潮流の速さや沈下速度などをもとにシミュレーションした上で決定したブロック投入位置の緯度・経度へ、いかに正確に船を誘導するかが重要となります。そこで東洋建設が注目したのが、みちびきのCLASでした。
「沿岸から遠く離れた沖合ではRTK(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで位置を測定する方法)の補正データを公衆通信で取得することが困難なので、これまでは誤差が50cm~1m程度のディファレンシャル測位を用いていました。みちびきのCLASなら通信不要で誤差10cm程度の高精度測位が可能となると知り、検討の上、導入を決めました」(東洋建設・草刈氏)
草刈氏によれば、周りに何もない大海原でも高精度で測位でき、既存システムを大きく変えることなく、受信機を入れ替えるだけで簡単に導入できる点も大きなメリットになったといいます。

潮流などの影響をシミュレーションして投入位置を決定

潮流などの影響をシミュレーションして投入位置を決定

D-GNSSに比べ高精度で安定した測位を実現

同社は、まず陸上においてD-GNSS受信機とCLAS対応受信機の測位精度を比較した上で、鳥取県沖合で実際に精度検証を行いました。検証の際は、D-GNSS受信機とCLAS対応受信機の両方を設置しました。CLAS対応受信機として使用したのは、マゼランシステムズジャパン製のマルチGNSS受信機です。
「システムとしては単純に受信機を変更するだけでしたが、(陸上と違って基準局のない)沖合ではRTK測位が行えないため、どちらの受信機の値が正解となる位置に近いかを判断するのが課題となりました。そこで今回はPPP-AR方式(基準点が不要の精密単独測位をベースに、衛星や搬送波初期位相に関する補正情報を与えて行う高精度測位)を用いて測位し、これを正として確認したところ高精度で安定した結果が得られました」(草刈氏)

D-GNSSとCLASの2アンテナを設置

D-GNSSとCLASの2アンテナを設置

草刈氏は、検証時に10秒程度測位不能状態にしてから再収束までの時間を測ったところ、60秒から80秒で再FIXすることが確認できたので、この性能にも満足しているといいます。CLASは陸上にある電子基準点のデータを基に補正情報を生成するため、海上で使用できるエリアは限られますが、沿岸部から20数km離れたマウンド礁で行った今回の精度検証でも、特に精度の低下は見られなかったそうです。
「沖合での作業においてCLASは他の測位方式に対して大きなアピールポイントになりますし、今後この分野においてCLASが広く普及し、スタンダードな存在になるのではないかと考えています。当社は遠隔離島で仕事をすることもあり、CLASが使えないエリアではMADOCA-PPP(みちびきのL6E信号で配信される技術実証用補正情報を利用した高精度測位補正技術)の使用も検討しています」(草刈氏)

決定した投入位置へ船を正確に誘導

決定した投入位置へ船を正確に誘導

マウンド礁の築造過程では、コンクリートブロックの投入後、マルチビームソナーを搭載した測量船を使って施工結果を検証しています。東洋建設では、この作業においても今後、CLASの導入を検討しています。
「コンクリートブロック投入の際の測位精度ももちろん大事ですが、投入した結果を正確に検証する測量の測位精度も、同じくらい重要です。測量の結果が次のシミュレーションに反映され、船の誘導にも反映されていく訳ですから。誘導と検証という2つの測量精度をCLASで向上させることは非常に有効だと思います」(草刈氏)
同社は今後、みちびきを使った漁場築造システムを強いアピールポイントとして、顧客へ訴求していく方針です。
(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※ヘッダ及び本文中の画像・図版提供:東洋建設株式会社