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地下のライフラインを「見える化」するシステム [後編]

2017年03月06日

前編では、大手ゼネコンの清水建設株式会社が、地下に埋設された上下水道管やガス管など既設のライフラインをAR(Augmented Reality、拡張現実)技術を使ってタブレットで可視化するシステムを開発していく過程をたどりました。後編では、そのシステムを具体的にどう運用しているかを紹介します。

外環の工事事務所で「見える化」システムのデモ

私たちは「見える化」システムのデモを取材するため、システムの実証が行われてきた「外環」の清水・前田・東洋JV(Joint Venture、共同事業体)の大和田工事事務所(千葉県市川市)を訪ねました。

事業マップ

「東京外かく環状道路」事業マップ(出典:東日本高速道路株式会社ウェブサイトより)

「外環」こと、東京外かく環状道路(C3)は、都心から半径約15kmのエリアを結ぶ延長約85kmの幹線道路です。内側の中央環状線(=首都高速中央環状線C2)と外側の圏央道(=首都圏中央連絡自動車道C4、半径約40~60km)と共に「3環状」と呼ばれ、首都圏の混雑緩和などを目的に建設されている道路です。

大和田工事事務所は、三郷(常磐道)と高谷(東関道)の2つのジャンクション(JCT)を結ぶ、アナログ時計の文字盤でいうと2時から4時に当たる千葉県区間(2017年度開通予定)のうちの1工区です。ここで清水建設は、清水・前田・東洋JVとして、本線函体(かんたい)工事(道路本体となる地下の箱状の構造物)のほか、雨水を処理場に流すための地下雨水管路の付け替え工事を担当しています。

既存の主要道路と新設道路が「交差する」

都心のベッドタウンとして発展してきたこの地域は、南北方向のアクセス道路が少なく渋滞が常態化しており、渋滞回避車両が生活道路に入り込むなど交通環境の悪化が問題となっています。「外環」はそうした問題を解消する中核道路としての役割が期待されていますが、人口密集地であるだけに工事も極めて困難です。

アクセス道路が少ない方向に新たな道路を作るということは、既存の主要道路の多くと新設の道路が「交差する」ことになります。道路下にはライフラインが埋設されており、それらの付け替え工事が不可避です。“ライフライン”というからには止めるわけにいかず、機能を維持しながら移設を行う綿密な作業計画が必要だからです。地下に新設されるのは、4車線の自動車専用道という大規模構造物。都市工事の困難さを凝縮したような場所での工事となるわけです。

デモが行われた「見える化」システムの移動局側は、1)ヘルメット頂部に取り付けたグランドプレーン付きのGNSSアンテナ、2)携帯電話ネットワークに接続する機能(4G/LTE)を備えたiPad、3)GNSS受信機(センサコム社製、iPadとBluetooth接続)、4)GNSS受信機用モバイルバッテリーで構成されています。

清水・前田・東洋JV現場代理人で清水建設土木東京支店の小橋保仁氏。右手にGNSS受信機とモバイルバッテリー、左手にタブレット。ヘルメット頂部にはGNSSアンテナを装着

センサコム社製小型GNSS受信機とグランドプレーンに装着されたGNSSアンテナ

画面上で埋設物の種類(水道/ガス/電気)を選ぶと、まず「埋設図面上に自分が表示される画面」が現れ、「自分視点の映像に埋設物がオーバーレイ表示される画面」と切り替えながら表示できます。

埋設図面上に自分が表示される画面

埋設図面上に自分が表示される画面

埋設物がオーバーレイ表示される画面

埋設物がオーバーレイ表示される画面

RTK法の性質上、初期測位までに多少の時間がかかるものの、いったんFIX(=高精度の測位結果が出た状態)してしまえば、歩く動作につれてタブレット画面上の自分の位置も同じように動いてくれます。

システムを進化させ、測位演算はクラウド側で実施

共同で開発を担当した株式会社菱友システムズの石田新二氏(インダストリーソリューション事業部エネルギー・環境システム部副部長)は、次のようにコメントしています。

「図面のデータベースをクラウド上に置き、そこから情報を引き出して端末で表示させるシステムは、記者発表した昨年(2016年)3月の段階で完成していました。さらにそこからクラウド側で測位演算も行わせるよう、システムを進化させました」

移動局と基地局は、衛星からの搬送波位相の情報をクラウドに送信。図面データベースだけでなく測位演算もクラウド側で行い、位置情報だけを端末に戻すことでタブレット端末側の演算負担が軽減され、動作がスムーズになるなどの利点がありました。システムの核心部分をクラウド側に持つことで、同時多地点での利用や、車載端末など多様な形態の端末へ対応する道が開けました。

また、屋外工事現場でのインターネット接続は携帯電話ネットワークに大きく依存しますが、そもそも人口の多い都市部での工事を想定しているため、ネットワークに不安はありません。残る課題の一つは、ビルなどで空がさえぎられた場所での測位精度。ビルの谷間でも真上から測位信号が降り注ぐ、みちびきへの期待は大きく膨らみます。

図版提供:清水建設株式会社

▽茨城工業高等専門学校・岡本修氏

(電子制御工学科准教授、高精度測位のシステム構築に協力)

「衛星測位に長年関わっている者には、搬送波位相測位が可能な受信機に2ケタの価格破壊が起き、マルチGNSSでのRTK法が一気に身近になっていることは半ば常識ですが、測位以外のコミュニティにはまだそれほど知られていません。今回のシステムは、高精度測位の実用化事例としてはトップランナーでしょう。これが広く知られ、さまざまな応用事例が生まれるのではないかと期待しています」

左から茨城高専の岡本氏、菱友システムズの石田氏・西原氏、清水建設の小橋氏・西村氏

清水建設は、江東区にある同社の技術研究所にRTK基地局を設置。今年に入って渋谷区内の工事現場で利用を開始しています。この基地局を都内の複数の工事現場で共用することで、高精度な位置情報を都市内工事に役立てていくとしています。

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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