コンテンツです

秋田・横手市で排雪作業の軽減対策(2)CLASで排雪車両の位置を高精度モニタリング

2019年05月20日

前回に引き続き、秋田県で有数の豪雪地帯、横手市で行われた除排雪作業に伴う課題解決の実証実験について紹介します。実証実験を行ったのは「雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム」で、秋田県のIT企業である株式会社デジタル・ウント・メアを代表企業として、横手市、NTT空間情報株式会社など7組織が参画しています。内閣府と準天頂衛星システムサービス株式会社が公募した「みちびきを利用した実証実験」の1つとして採択され、昨年秋から今年3月まで行われました。

実証実験の様子(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

実証実験の様子(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

排雪時の車両挙動を明らかにする取り組み

実証実験では「排雪車両の挙動学習」として、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を受信可能な受信機と、排雪車両の前方と、車両内部のオペレーター2名の車両操作を記録するビデオカメラを取り付け、排雪時の車両挙動を明らかにする取り組みも行いました。

デジタル・ウント・メアの岩根氏

デジタル・ウント・メアの岩根氏

コンソーシアムの代表を務める株式会社デジタル・ウント・メアの岩根えり子社長は、このテーマを取り上げた理由を次のように説明します。
「横手市の人口は今後減少していくと予想されますが、当然ながら積もる雪の量は変わりません。だからこそ、高年齢化していく排雪オペレーターの方たちのノウハウを上手く引き継いで、若いスタッフを育成できる仕組みを作りたいと考えています」

排雪車にCLAS対応の受信機を設置(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

排雪車にCLAS対応の受信機を設置(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

CLASによる測位結果(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

CLASによる測位結果(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

排雪車両の高精度な位置情報をモニタリングするために、みちびきのCLAS信号を受信します。排雪車の運転席屋根の車外にアンテナを設置し、受信状況をリアルタイムに確認できるように受信機とパソコンを接続してモニタリングしました。

NTT空間情報の千葉氏

NTT空間情報の千葉氏

排雪車両の挙動を分析したNTT空間情報株式会社の千葉繁氏(ビジネス開発部アライアンスグループ)は、CLASを活用した理由について、「排雪車は時速10km程度と遅く、排雪作業も細かい動きを1秒ごとに追う必要があるので、時間分解能を考えるとCLASによる測位が不可欠でした」と説明します。

排雪車の車内にカメラを4台設置(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

排雪車の車内にカメラを4台設置(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

排雪車両には、車両前方、及び排雪オペレーターの作業を記録するビデオカメラを4台設置しました。市販品のドライブレコーダーを流用し、SDカードに動画を記録しました。記録した動画には、作業時間と共にオペレーション内容に作業内容を記述したタグを付与する「アノテーション化」を行いました。

車両には、運転レバーやハンドルに加えて、排出する雪の方向をまとめる「シュート」(整流装置)や積もった雪を掻き取る「オーガ」(集雪装置)など、排雪作業を行うためのさまざまな機器を操作するスイッチやレバーが搭載されています。これらについて、「レバーを上下左右のどの方向に動かしたか」「ハンドルをどちらの方向へどれくらい回したか」「スイッチをどの位置に切り替えたか」といった細かい操作内容を、分析者が動画を見ながら目視で判断して記録したのです。

車内の操作レバーやスイッチ(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

車内の操作レバーやスイッチ(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

撮影結果(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

撮影結果(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

そして、今回の実証実験の作業でもっとも苦労したのは、このアノテーション化でした。
「1時間の動画を6人ものスタッフが時間をかけて、レバーやスイッチなどの操作を判別しました。こうしたアノテーション化は今まで行われた例がなく、たとえばハンドルを切って道路に幅寄せする操作は、どんな言葉で簡潔に表現したらよいかなど、標準化する作業の手間もかかりました」(デジタル・ウント・メア 岩根社長)

アノテーション化した結果から作業の流れを分析(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

アノテーション化した結果から作業の流れを分析(画像提供:雪国よこて排雪作業軽減対策コンソーシアム)

さらに、市が保有する道路台帳などをもとに、車道や歩道のほか、ガードレールや下水道マンホールの位置など排雪車両の障害となり得る情報を収集してデータ化し、地図上に排雪車両の挙動を可視化しました。

必要な位置精度によりSLASとCLASを使い分け

今回の実証実験では、市内に積もる雪の堆積状況把握にはSLAS(サブメータ級測位補強サービス)、排雪車両の挙動学習にはCLAS(センチメータ級測位補強サービス)と、衛星測位の利用の仕方により必要な位置精度を見極めた上で、サービスを使い分けました。
NTT空間情報の千葉氏は、その経験を踏まえて次のように語ります。
「みちびきの高精度測位はとても有用な技術なので、私たちとしては、地理空間情報とセットにしてソリューションを提供し、『このようなケースではみちびきをこう使うと付加価値が付く』『コストが下がる』というように、ビジネス展開しやすい形にして顧客に提案していきたいと考えています」

これまで排雪車両の運転技術は、徒弟制度による伝承が基本でしたが、同コンソーシアムは今後、今回の成果を踏まえて、操作手順の教材化を検討していく方針です。また、街路樹やガードレール、マンホールなど、雪の堆積で隠れてしまう障害物について、オペレーターにナビゲーションできないかも引き続き検討するとのことです。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

関連情報

関連記事