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GNSSトラッカーでみちびき利活用を拡げるフォルテの戦略

2023年07月18日

青森市を拠点とする株式会社フォルテは、GNSSトラッカーなどのIoT機器の開発のほか、人流/車両解析・文字認識などのAI事業も手がけるICTベンチャー企業です。2010年代前半にGPS機能を備えた簡易端末と骨伝導イヤホンを使った音声ガイド付き自転車レンタルサービス「ナビチャリ」を開発し、2016年に現在の社名に商号変更した後、翌2017年にみちびきのSLAS(サブメータ級測位補強サービス)に対応したGNSSトラッカーの販売を開始しました。
同社の特徴は、受信機メーカーでありながら常に新たな用途を探り、課題を解決しながら商品開発を進めている点にあります。商品開発を通して徐々に位置情報の利活用を拡大してきた同社の葛西純代表取締役CEOと取締役の阿部裕氏、営業部の鹿内大輝氏に今後の製品戦略を伺いました。

取材写真

左から鹿内氏、葛西氏、阿部氏

携帯用、車両用など用途別に対応機種を用意

GNSSトラッカーとはGNSS受信機に無線通信機能を付加した端末のことで、衛星測位によって取得した位置情報を携帯電話会社のモバイル回線などを使ってサーバへ送信できます。フォルテが提供するGNSSトラッカー「FBシリーズ」は、小型軽量の携帯用や給電可能な車両用など用途別に対応機種があり、大容量バッテリーと低消費電力を搭載した4G通信対応の携帯用「FB2020」、小型軽量タイプの「FB2003」の2機種がみちびきのSLASに対応しており、バッテリー非搭載の車両用「FB1000」はみちびきの衛星測位サービスに対応しています。

フォルテの受信機

左からFB2020、FB2003、FB1000

除雪や農業、スポーツイベントなどに活用

同社のGNSSトラッカーがみちびきを活用して位置情報を管理している事例には、除雪車両の位置情報管理や、農機や建設車両のガイダンスシステムなどのほか、祭りの山車・神輿の位置管理、スポーツイベントでの利用などがあります。

▽祭りの山車・神輿の位置管理

青森ねぶた祭り

青森ねぶた祭り(左)とアプリの画面イメージ(右)

各地のお祭りで街を練り歩く山車や神役などの位置情報を見物客に共有するために携帯用GNSSトラッカーが活用されています。東北三大祭りの一つで毎年8月に開催される「青森ねぶた祭り」や、愛知県豊橋市で毎年2月に行われる「豊橋鬼祭」では、見物客がアプリを通じて山車や神役の位置をリアルタイムに確認することができます。

▽スポーツイベントでの利用

サイクリングイベント

びわ湖を周回するサイクリングイベント

自転車レースやオリエンテーリングなどのスポーツイベントにおいて、選手や監視車両の位置情報を管理するために携帯用GNSSトラッカーが採用されました。日本最大の湖である琵琶湖を周回するサイクリングイベントでは先導車やサポートカーに、福岡県の博多湾で開かれたヨット競技会では支援船やマークブイに、そして大学対抗で俊足を競う駅伝競技でも監督車に搭載されるなど、さまざまな大会で選手やスタッフの位置情報管理に活用されています。山野を舞台に地図とコンパスを用いて設置ポイントを巡るオリエンテーリング競技では、学生の日本選手権大会に端末30台を提供し、実行委員会が選手の動きを把握するために利用しました。

オリエンテーリング

オリエンテーリングの日本学生選手権に端末を提供

▽ポスティングスタッフの位置情報管理

ポスティング管理システム

ポスティング管理システムの仕組み

北海道・札幌市でポスティング業務を行う会社では、広告ちらしなどを各戸に配布するポスティング管理システムに携帯用GNSSトラッカーを活用しています。ポスティングスタッフに端末を持たせて配布状況を正確かつリアルタイムに可視化し、一元管理により配達漏れ等を防止すると共に、各戸単位で訪問実績を把握して依頼主への配達証明の信頼性を向上させ、配布ルートも効率化しました。

他にも、みちびきの高精度位置情報と時間と複数のセンサーを活用した保全作業支援や、産廃車両の位置管理など、生活の中のさまざまなシーンで活用されています。

SLASによる差別化は有効な戦略

ある位置情報管理ソリューションを提供する企業が、スマートフォンとフォルテのFB2020を比較して精度検証を行ったところ、スマートフォンでは10m程度の誤差が発生したのに対して、FB2020は1~2m程度の誤差に収まったといいます。オリエンテーリングの大会でも、森林地帯において一般的なGPSに比べて安定した測位結果が得られた点が評価されるなど、さまざまな分野でSLASの精度の高さが評価されています。

測位精度比較

SLAS対応トラッカーとスマートフォンの測位精度比較

先に挙げた事例でも、ポスティングサービスは歩道で建物の壁際を進む場合が多く、GPSによる測位では誤差が大きくなってしまうため、利用者には「測位精度を良くしたい」というニーズが強くあります。高い建物に囲まれた都市部で使用する際も安定した測位精度を実現できる同社のSLAS対応GNSSトラッカーは人気の製品となり、営業を担当する阿部氏も「SLASによる差別化はとても有効な戦略になっている」と話します。

トラッカーにはワイヤレス充電が不可欠

GNSSトラッカーの運用で課題となっているのが充電作業です。日々の業務やスポーツイベント時に同時に数十台のGNSSトラッカーを充電する場合、1台ごとに充電ケーブルの付け外しを繰り返すのは手間と時間がかかります。そこで力を発揮するのが、ワイヤレス充電(非接触給電)に対応したGNSSトラッカーです。
ワイヤレス充電というと電磁誘導による充電規格「Qi」などが知られますが、フォルテではマイクロ波を使った方式を検討しています。マイクロ波による無線充電は、充電器と端末との距離が最大10m離れても充電することができ、電磁誘導方式よりも大量の機器をまとめて充電できるメリットがあります。フォルテでは実用化に向けた開発の取り組みを進めており、製品化できればさらに用途が拡がると期待されています。

また、衛星測位は屋内では位置情報を取得できないため、同社ではUWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線通信)機能を内蔵したGNSSトラッカーを新たに開発しています。UWBは屋内に基地局を設置することで位置情報を取得できる技術で、アップルの紛失防止タグ「AirTag」にも採用されています。SLAS対応GNSSトラッカーにUWB機能を搭載すれば、屋内外シームレスな測位を実現することができます。他にも、LPWA(Low Power Wide Area:低消費電力で広い地域をカバーする)への対応や、端末の更なる小型軽量化など用途拡大に向けた取り組みを進めています。

みちびきの信号認証機能に期待

同社は近年、コロナ禍を契機としてAI(人工知能)関連の事業を展開しており、既設カメラのAI化による施設管理の効率化、AIによる顔認識やサーモグラフィーを活用した体表温度の検知、光でエアロゾルを検知して声の大きさを警告するAI機器などの製品やソリューションを提供しています。
AI技術を活用して、運転手に速度制限標識への注意喚起を行ったり、移動体の運行管理を行ったりといった開発も進めており、将来はSLAS対応のGNSSトラッカーと組み合わせて、位置情報とAIを組み合わせたソリューションの研究も行いたいと考えています。

葛西氏は、今後みちびきへの期待として、2024年度サービス開始予定の信号認証サービスに興味を寄せています。
「信号認証機能によって人やモノの位置を証明してくれる仕組みができれば、たとえばクレジット端末機に測位機能を搭載して不正を防止するといった使い方が可能になります。みちびきのことを知らないお客様はまだまだ多いですが、当社は高精度な位置情報にさまざまな価値を加えることで、今後もみちびきをアピールしていきたいと思います」(葛西氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※記事中の画像提供:株式会社フォルテ

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