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SLASを活用したエゾウィンの農作業支援システム「レポサク」

2023年12月28日

内閣官房地理空間情報活用推進室が主催する、地理空間情報を用いたビジネスアイデアコンテスト「イチBizアワード」において、エゾウィン株式会社が提供するみちびきを活用した農作業支援システム「レポサク(Reposaku)」が2023年度の最優秀賞に選ばれました。エゾウィンは北海道の標津(しべつ)町を拠点として2019年に創業したスタートアップ企業で、農協や、牛の給食センターと言われるTMRセンター(Total Mixed Ration:混合飼料)、農家から農作業を請け負うコントラクター(農作業受託組織)などにレポサクを提供しています。同社のCEOを務める大野宏氏にレポサクの特徴や開発した理由、今後の展望などを聞きました。

大野氏

エゾウィンの大野CEO

集団作業のコミュニケーションを効率化

レポサク画面例

スマホ(左)及びPC(右)で表示したレポサクの画面例

エゾウィンが提供する農作業支援システム「レポサク」は、主に集団で農作業を行う組織向けのシステムで、農業用車両にGNSSトラッカーを取り付けて作業者の位置情報をリアルタイムに共有すると共に、圃場のマップ上に走行軌跡を表示して現場の進捗情報を可視化できます。これにより農作業の進捗状況を関係者間で共有でき、無線や携帯電話による問合せや作業の進捗確認のための現場の見回り回数が軽減され、作業効率を向上させることができます。

SLAS対応のGNSSトラッカー

GNSSトラッカーの測位方式にみちびきのSLAS(サブメータ級測位補強サービス)を採用しており、取得した高精度位置情報を1秒おきに記録し、内蔵のSIMによってクラウドのサーバーへ送信されます。GNSSトラッカーを、車両のシガーソケットに接続するだけで使用でき、電源をつなぐだけで自動的に位置情報の送信を開始できるので、誰でも簡単に扱える特徴があります。
レポサクの導入効果について大野氏は、「従来は親方(管理者)がオペレーター(作業者)にそれぞれ指示を出していましたが、レポサクでコミュニケーションを効率化すれば、作業者が『自分の作業が終わりそうだから仲間のところへ手伝いに行こう』とか『ここの畑は終わりそうだから次の畑へ行こう』といった具合に先回りして判断し、協力体制を整えることができる為、スムーズに全体の作業でき、結果として作業効率があがります。」と説明します。

作業履歴を可視化し、作業面積を計算して作業状況を判断する画面例

大野氏は開発当初、位置情報の軌跡を記録する方法としてスマートフォンのGPSを使って試したところ、精度が良くなく軌跡が曲がってしまったり、防風林など高さのあるものの近くで位置が大きくずれてしまったりしたため、測位方式にSLASを採用したそうです。
「位置情報の精度を上げる何かよい方法はないかと考えていた時に、みちびきウェブサイトを見て株式会社フォルテのSLAS対応GNSSトラッカーの存在を知り、導入価格や維持費もお手頃な為、採用することに決めました」(大野氏)

大野氏

大野CEO

作業履歴の画面はログイン権を持つ作業者や管理者がスマートフォンやタブレットを使って見ることができます。マップ上ではGNSSトラッカーの端末ごとに異なる番号が割り振られており、軌跡も端末ごとに色分けされているので、車両ごとの現在地や走行履歴をひと目で判別できます。

地図上に端末番号が示され、移動した軌跡に色が付く。車両名や作業内容等も判別可能

農作業現場のニーズをもとに機能を追加

大野氏がレポサクを開発したきっかけは、牧草やデントコーンなどを発酵させたサイレージと呼ばれる牛の飼料を提供する組織「TMRセンター」のマネージャーから、日報作成システムの開発を依頼されたことでした。TMRセンターではそれまで日報を手書きで作成していましたが、レポサクを使えば走行履歴をもとに日報が自動生成されるため、手間を大幅に減らすことができます。この“レポサク”のネーミングは、“レポートをサクサクと作れる”という意味を込めて名付けられたそうです。
TMRセンターでは、牧草を刈るモアコン(草刈り機)や、刈り終わった牧草を収穫するハーベスター、収穫した牧草をバンカーサイロ(飼料貯蔵庫)へ運ぶダンプトラック、バンカーサイロに貯蔵した牧草の踏圧作業(牧草を踏みつけて空気を追い出す作業)を行うタイヤショベルなどのさまざまな車両が同時に作業を行います。牧草を刈った後に長時間放置するとサイレージの品質が落ちるため、車両ごとの進捗状況を共有しながら連携することが重要ですが、レポサク導入前は経験のある管理者が各作業者へ携帯電話や無線で進捗状況を確認して、それをもとに指示を出していました。

レポサク導入前の作業風景

作業中に車両ごとの進捗状況を携帯電話で確認(レポサク導入前)

大野氏はもともとレポサクを日報作成ツールとして開発しましたが、こうしたTMRセンターやコントラクターの現場の声を聞き、管理者や作業者同士が音声で互いの進捗状況を共有するのに結構な手間がかかっているという課題を知り、その解決にレポサクを使えると考えたのです。そして、現場のニーズをヒアリングして、進捗状況の共有に必要な機能を追加していきました。
ただ、開発当初の大野氏はサイレージに関する知識がほとんどなく、3年間時間をかけてTMRセンターの現場に入りながら勉強し、何に困っているかを聞きながらニーズを探り、見つかった課題に対してソフトウェアで解決するという作業を繰り返していったそうです。
こうして時間をかけながら地道な改良を重ねて、指定の場所に運搬物を何回運んだのかを速報値として表示する機能や、作業した面積を測定する機能などの便利機能を追加すると共に、過去の現場の動きを動画で学習したり、作業プロセスを検証したりすることで今後の作業計画に役立てられるようにしていきました。

レポサク導入後の作業風景

レポサク使用中の様子

レポサクを導入した顧客からは「ラクになった」「作業計画を立てやすくなった」という声のほか、農機の故障や天候不順など不測の事態が起きた時のリカバリーが容易なことや、作業後のミーティング時間がなくなった点も評価されているそうです。現在、北海道内にTMRセンターは約90カ所ありますが、エゾウィンはそのうち4割近くのシェアを獲得しており、TMRセンターだけでなくコントラクターや畑作でも活用が進んでいます。

「レポサクを導入する費用対効果には、定量化できない部分がかなりあります。たとえば作業中に親方から頻繁に電話がかかってきて『いま何しているの?』と聞かれるのと、自分で判断して動くのではストレスがまったく異なり、それは実際に使って体験してみなければ分かりません。レポサクの場合は、まず期間限定で無料テストしてもらい、試しに使っていただく形をとっています。そして皆さんから『こんな便利なものはない』という感想をよくいただきます。たとえて言うなら、今までぼやけていた視界がメガネをかけるとすごくクリアになるようなもので、もうメガネをかけていなかった頃には戻れなくなるのと同じことです」(大野氏)

CLAS対応の新サービスも来春に提供予定

大野氏はエゾウィンを設立する前にトレーディングカードを扱う会社を立ち上げた経歴があり、コンシューマー向けサービスを提供していた頃の経験が現在のBtoBの事業にも活きており、今でも常に「顧客が使いやすいか」「本当にニーズはあるのか」という視点を大事にしながら開発を行っています。
レポサクがイチBizアワードで最優秀賞を受賞した後も、受賞を聞いたお客様が『おめでとう』と喜んでくれたことがとてもうれしかったとコメントしており、レポサクの開発では、農家の皆さんが「こういう機能があったほうがいい」とか、「この機能は良かった」とかいろいろと協力してくれたことが大きく、現場からさまざまなフィードバックを得たことがプロダクトにつながったと説明します。
「皆さんの協力にはとても感謝していますし、お客様に愛されているプロダクトだと思います」(大野氏)

プレゼンの様子

イチBizアワードでの大野氏のプレゼン(2023年11月7日)

レポサクは今後、過去の作業履歴を蓄積することでシミュレーションを行ったり、作業の効率化に役立てられる機能を追加したいと考えています。また、現在のGNSSトラッカーはSLAS対応ですが、CLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応のGNSSトラッカーを開発中で、これをレポサクで使えるようにするほか、この新端末を使って位置情報の共有に特化したシンプルなサービス「ミルトッカ(miltocca)」も2024年4月にサービスを開始する予定です。

新端末の外観

CLAS対応の新端末

「今後、人口が減っていく中で作業効率を上げていくには、データに根拠があるかどうかがとても重要であり、そのためにより高精度な測位が必要です。RTK(リアルタイムキネマティック)は基準局が必要でコストもかかるため、CLASを採用したいと考えています」(大野氏)
さらに、その先には農業の無人化も見据えています。北海道では2040年頃に人口が半分になると言われており、それまでには自動化農場を立ち上げたいと考えています。大野氏は、北海道を拠点にするメリットとして、圃場が大きく人が密集していないために自動運転のリスクが少ないことを挙げており、他地域よりも早く農業自動化を実現できると考えています。

最後に今後のみちびきに対する期待を聞くと、次のように答えてくれました。
「みちびきが活用できる分野は農業のほかにもまだたくさんあると思いますし、今後7機体制になって、より測位が安定することにも期待しています」(大野氏)

展示会ブースにて

展示会にも積極的に出展(2023年11月、アグリビジネス創出フェアにて)

集合写真

エゾウィンの社員と共に

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

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