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[2022実証-1] エアロダインジャパン:広域災害発生時における、みちびきを利用した洋上風力発電所の点検事業

2023年06月20日

内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。今回は、2022年度に企業枠の実証事業としてエアロダインジャパン株式会社が実施した「広域災害発生時における、みちびきを利用した洋上風力発電所の点検事業」を紹介します。
エアロダインジャパンは、2014年にマレーシアのクアラルンプールで創業したドローン・ソリューション・プロバイダー企業であるエアロダイン社が、2018年に設立した日本法人です。電線網や通信鉄塔などのインフラ設備、火力・風力発電施設や橋梁などにおいてドローンを使って効率的に点検・モニタリングを行い、集めたデータを解析してクラウド型プラットフォームにて提供しています。今回の実証事業の詳細を、同社の鹿谷幸史CEOに聞きました。

鹿谷氏の顔写真

鹿谷CEO

陸地から洋上の風力発電機へドローンを飛ばす

洋上風力発電所

洋上風力発電所

2021年10月に策定された「第6次エネルギー基本計画」では、再生エネルギーの中でも風力発電の成長が期待されており、2050年に90GW相当の洋上風力発電と40GW相当の陸上風力発電が設置される計画となっています。
洋上風力発電では、海外では船で風車(風力発電機)の近くまで寄り、そこからドローンを飛ばして点検するのが一般的ですが、日本の場合は台風や地震、津波などさまざまな広域災害の恐れがあり、災害直後に船舶で近寄れない可能性を勘案すると共に、メンテナンスコスト削減のためもあり、陸上からドローンを飛ばして風車の点検を行えるシステムが求められています。

そこでエアロダインジャパンは、5~10km沖合に設置された風車までドローンを自動航行させ、発電施設を近距離で飛行・撮影し遠隔で異常箇所を把握できるシステムを実現するために、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を活用する方法を検討しました。
ドローンが数km沖合に設置された風車まで飛行し、発電施設に近づいて撮影する作業は目視外飛行で行う必要があるため、高精度の位置制御が必要です。通常のGPSでは測位誤差が10m以上となる場合があり、この精度では風車のブレードに当たってしまう危険性がありますが、CLASを使うことで測位誤差を数cmに抑えることができます。
鹿谷氏は測位方式にCLASを採用した理由について、「洋上ではモバイルネットワーク圏外となりRTK(リアルタイムキネマティック)の補正信号を受信できない恐れがあるため、沿岸の海域でも高精度測位が実現できるみちびきを使いました」と説明します。

点検時のドローンの飛行経路図

陸上からドローンを飛ばして点検

CLASとRTKの測位精度を比較

ドローン

実験に使用したドローン

今回の実証では、株式会社Drone Work Systemのドローン「Eagle 15」に三菱電機株式会社のCLAS対応受信機「みちびきロケータ」及びRTK対応受信機を搭載し、CLASとRTKの測位精度を比較しました。Eagle 15は30インチのプロペラを搭載し、アーム展開時の軸間が1m60cmのドローンで、機体重量はバッテリー込みで15.9kgです。試験飛行の際にCLAS対応アンテナをドローンの筐体に取り付けたところ、大きなノイズが発生し測位精度が低下したため、治具を取り付けてアンテナと筐体を離した状態で固定したそうです。

ドローンのフライトコントローラーにはオープンソースのオートパイロットソフトウェア「ArduPilot」を使用しています。同ソフトを使ってあらかじめ地図上で飛行ルートを指定することにより、ルートに沿ってドローンを自動航行させられます。なお、ドローンの飛行の遠隔監視には株式会社A.L.I.Technologiesの運航管理システム「C.O.S.M.O.S」、風車の映像データをもとに要修復箇所などを分析するツールにはエアロダインジャパンのウェブアプリケーション「Vertikaliti WIND」を使用しました。

Vertikaliti WINの画面例

風車点検アプリ「Vertikaliti WIND」

島根県の風力発電所で飛行実験を実施

キララトゥーリマキ風力発電所

キララトゥーリマキ風力発電所

今回は、島根県出雲市にあるキララトゥーリマキ風力発電所を洋上風力発電所に見立ててドローンの飛行実験を実施しました。実験は、災害時に一時停止した風車の復旧可否を判断するために点検を行うという想定で行われました。
キララトゥーリマキ風力発電所は海沿いにあり、前半の実験では、飛行ルートは陸地(多伎海水浴場)から海上に向かって離陸し、海上を海岸線に沿って飛行した後に海上から風車に向かって飛行し、風車がある場所まで正しく飛んでいけるのかを検証すると共に、CLASとRTKの測位精度を比較しました。
続いて後半の実験では、風車点検用の撮影データを取得できるかを検証しました。災害時に緊急停止した状態を想定して、低速で風車の周囲30~50mほど離れた位置を旋回するルートをフライトコントローラーで設定し、このルートに沿って自動航行しながら動画撮影して風車の損傷の有無を判断できるかを確認しました。

解説図版

実験の流れ

飛行コース図2点

飛行コース

実証の結果、離陸地点を飛び立ったドローンは洋上を通過し、風車に近づいて周回飛行まで行うことができました。CLASのFIX率は1回目の飛行は100%、2回目も99.5%と良好な結果でした。また、RTK測位の位置を基準としたCLASの水平精度は、1回目は6.4cm、2回目は6.3cmとなりました。一方、垂直精度は1回目は13.3cm、2回目は5.9cmとなり、移動体におけるCLASの仕様である“水平12cm、垂直24cm”の精度に収まることが確認できました。

評価結果

RTKの測位解を真値とみなし、CLAS対応受信機の測位解との精度評価を実施した。なお、2回目飛行に対し測位アルゴリズムの調整不足が判明し、再調整を実施した。数値は1回目、2回目とも調整後の結果(提供:三菱電機株式会社)
※1:垂直方向についてはRTKアンテナの位相中心が不明のため、数cmの誤差を含む

1回目

誤差の時間変化(1回目)(提供:三菱電機株式会社)

2回目

誤差の時間変化(2回目)(提供:三菱電機株式会社)

さらに風車の点検用の撮影データについても、良好な結果が得られました。鹿谷氏は、「撮影用のカメラには、ミラーレス一眼カメラに比べて画素数が少ないソニーのDSC-RX100を使ったのですが、このカメラの画質と撮影距離で、緊急時の復旧可否を判断するのに十分なデータを取得できると確認できました」と結果に満足しています。

ドローン点検ソリューションの海外展開めざす

実験中の様子

実験中の様子

実験結果に対しては、風力発電設備の点検事業者から「ブレードの損傷がしっかり捉えられている」「より長距離を飛べるのであれば検討したい」といった好評価が得られました。
一方、洋上風力発電所では、地震や津波、台風などよりも落雷のほうが頻繁に起こるため、ブレードの損傷を引き起こす恐れのある“落雷痕”の有無を判別できるようにしてほしいという要望も寄せられました。今回の実験では災害時の復旧可否判断を想定しましたが、落雷痕の判別ができるようになると、日常的な定期点検でのドローン活用が現実的になってきます。

他の課題として鹿谷氏はドローンのバッテリー持続時間を挙げました。今回の実験では往路に加えて風車周囲の旋回飛行を行い、計約5kmの飛行となりましたが、往復した場合は9km近く飛行する必要があり、現在のバッテリー性能では実現が難しくなってしまいます。
また、今回の風車はブレード長20mの中型風車でしたが、大型風車を点検する場合は離隔距離を100mまで伸ばし、点検用カメラも解像度の高い大きなモデルを使う必要があります。加えて、落雷痕を判別するためにサーモセンサーの搭載を検討しなければなりません。

実験中の様子
実験中の様子

実験中の様子

鹿谷氏は、これらの課題を踏まえた上で今後もドローンによる風力発電所の点検ソリューション開発を続けていく方針で、今回使用したEagle 15以外の機体での飛行実験や、大型カメラやサーモセンサーを搭載しての飛行実験などを行った上で、2024年中の実用化を目指したいとしています。
「みちびきはアジア太平洋地域をカバーしており、海外においてもRTK測位が使えない途上国などでMADOCA-PPPによる高精度測位が利用できます。風力発電の点検ソリューションは日本で作り込んだものをアジアやオセアニアに展開したいと考えており、みちびきの高精度測位は圧倒的な差別化ポイントになると思います」(鹿谷氏)
同社は今後、実用化に向けて点検手法、機材の改善、省力化できる点検項目を検討しつつ、災害で道路寸断された陸上風力発電所の復旧点検にもみちびきの高精度測位を活用していく方針です。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※本文中の画像・図版提供:エアロダインジャパン株式会社、三菱電機株式会社

※内閣府は準天頂衛星システムサービス株式会社と連携して毎年、みちびきの利用が期待される新たなサービスや技術の実用化に向けた実証事業を国内外で実施する企業等を募集し、優秀な提案に実証事業の支援を行っています。詳細はこちらでご確認ください。

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