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夏休みに行こう! 地図と測量の科学館 [後編]

2016年08月16日

夏休みはホンモノにじっくり触れる格好の機会です。前編に引き続き、茨城・つくば市にある国土地理院「地図と測量の科学館」の見どころを紹介します。後編では、夏休みに機内公開を行っている測量用航空機「くにかぜ」を取り上げます。
※なお、「地図と測量の科学館」の場所や開館時間等は、下記の利用案内でご確認ください。

測量用航空機「くにかぜ」初代

測量用航空機「くにかぜ」初代

入り口から「地球ひろば」に入ると、巨大な地球儀を切り取ったかのような「日本列島球体模型」の右手に、1960~83年にかけ使われた測量用航空機「くにかぜ」初代の機体が展示されています。夏休み期間中(7月26日~8月31日)は、毎週火・金曜日の10~16時の間、機内を見学することができます。

操縦席

操縦席

胴体下部にカメラを装着

胴体下部にカメラを装着

機体は、海上自衛隊の練習機などにも採用されていた「ビーチクラフト・クイーンエア65」を改造し、胴体下部にレンズを装着。真下に向けたカメラで撮影された写真は、地形図の更新作業に役立てられました。

機内の様子

機内の様子

座席脇に装備された酸素マスク

酸素マスク

機内の空間は狭く、旅客機のような訳にはいきません。与圧されて(一定の気圧に保たれて)いない機体なので、非常用ではなく常用の酸素マスクが座席脇に装備されています。おそらく真夏でも、寒さと戦いながら作業が進められたであろうと想像できます。

立体視を行い等高線を描く「図化機」

図化機

図化機

屋内に移動し、展示館2階の常設展示室の一角には、航空測量から地図作成に至る一連の作業に使われた機器類が展示されています。「くにかぜII」(1983~2009年)に搭載されていたカメラや、幅23cm、長さ数十mに及ぶ長大なフィルム、そのフィルムを使って立体視を行い等高線を描く「図化機」と呼ばれる機械は見ものです。

幅23cm、長さ数十mに及ぶ長大なフィルム

幅23cm、長さ数十mに及ぶ長大なフィルム

「くにかぜII」

くにかぜII(出典:国土地理院ウェブサイト)

写真で撮影された情報を地図に載せていくには、写真の中に正確な位置情報を写し留めておくことが必要です。事前の準備として、正確な位置が分かっている地上の基準点(三角点や水準点)の周囲に、白い長方形の板を複数枚配置するなどして「対空標識」を用意します。これを目印に、写真から正確位置情報を読み取ることができます。

1996年、GPSを活用したカメラを導入

撮影時の飛行機の位置や姿勢に関する情報も大切です。かつては撮影した写真から飛行機がたどったルートを推定する手法が使われていましたが、1996年からは、GPS受信機と接続し、撮影時に緯度経度などの情報を直接フィルムに記録するASCOT(Leica Aerial Survey Control Tool、航空測量コントロールツール)システムを搭載した航空測量カメラが使われるようになりました。

ASCOTシステムを搭載したカメラ

ASCOTシステムを搭載したカメラ(出典:国土地理院ウェブサイト)

2005年からはPOS/AVシステムと呼ばれる、GPSとIMU(Inertial Measurement Unit、慣性計測装置)を組み合わせた装置で、さらに精度よく機体の姿勢や位置が分かるようになっています。

「くにかぜIII」

くにかぜIII(出典:国土地理院ウェブサイト)

2010年から運用されている「くにかぜIII」では、上記のシステムとデジタル航空カメラを組み合わせることで、撮影画像そのものから位置情報を読み取ることができるようになりました。

地図を見ると「自分の居場所と、世界の広がりを知る」ことができます。実利だけでなく、人間の根源的な欲求に根ざしてつくられ始めたにものに違いありません。後には戦略的な意味合いも持つようになり、その時代ごとの最高の知恵や技術や労力が注がれてきました。そうした地図の歴史の一端に触れ、さらに日本で続けられてきた地図作成のチャレンジの足跡を体感できるのが、この「地図と測量の科学館」です。

「くにかぜ」と「地図と測量の科学館」の建物

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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