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LBJ 2021で内閣府・杉村技術参与がみちびき利活用事例を紹介

2021年05月10日

空間情報の活用に焦点を当てた展示会・セミナーを行うロケーションビジネスジャパン(LBJ)が、今年はオンライン配信と、4月14~16日の千葉・幕張メッセでのリアルイベントの二本立ての形で開催されました。今回は「ニューノーマルで活きる位置情報ビジネス」をテーマに、コロナ禍以降の新たな生活様式を模索する時代だからこそ生まれる新技術や新ビジネス、社会貢献を取り上げました。

幕張メッセ 国際展示場

幕張メッセ 国際展示場

SLAS/CLASや災危通報を活用した利活用事例

そのリアルイベント2日目となる4月15日、内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の杉村徹 技術参与が「準天頂衛星システム『みちびき』の最新利活用事例と今後の取り組み」と題して、みちびきの最新の利活用事例や海外におけるサービス拡張の取り組みなどを講演しました。

内閣府の杉村技術参与

内閣府の杉村技術参与

杉村技術参与が取り上げたみちびきの利活用事例は、ゴルフナビ、物流管理、運転支援技術、除雪作業支援、ドローン、ヨットレースなど多岐にわたります。ここではその概要を紹介します。

1)SLAS/災危通報対応の腕時計型ゴルフナビ

株式会社MASAが提供する、みちびきのサブメータ級測位補強サービス(SLAS)及び災害・危機管理通報サービス(災危通報)に対応したゴルフナビゲーション用ウェアラブル端末は、高精度測位とあらかじめ端末に保持されているコース情報を組み合わせてグリーンまでの距離を表示し、ゴルフプレイをサポートします。今年3月には、現行機種の「A1-II」に災危通報の警報を表示する機能をファームウェアアップデートで追加しました。

2)SLAS対応の無線ICタグによる物流管理

株式会社エクスプローラが提供する、みちびきのSLAS対応の無線ICタグモジュールと管理者向けアプリにより、コンテナやシャーシの駐車位置情報をスマートフォンアプリで管理します。コンテナを探す手間を省力化することで物流の効率化を図ります。

3)CLASを活用した運転支援技術

日産自動車株式会社が2021年に発売予定の電気自動車「アリア」では、運転支援技術「プロパイロット2.0」の位置情報取得にみちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を活用し、車載センサーや高精度3次元地図と組み合わせることで、道路と自車の正確な位置関係や先の道路の曲率、勾配などの道路形状を把握して、高速道路のナビ連動ルート走行やハンズオフ走行を実現します。

4)CLASを活用した除雪作業支援システム

東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)や広島工業大学では、CLASを活用してオペレーターの運転操作を支援する除雪作業支援システムの実証実験を開始しています。NEXCO東日本の取り組みは、YouTubeで動画が公開されています。

5)CLASを活用したドローンによるプロジェクト

ドローンの有人地帯における目視外飛行(レベル4)の2022年中の実現に向け、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」において、必要な技術を開発中です。2020~21年にかけては、マゼランシステムズジャパン株式会社と共にみちびきのCLAS対応受信機及びアンテナの小型・軽量化、低消費電力化に取り組んでおります。

6)みちびきを活用した水上スポーツの動向

船とブイにみちびきのCLAS対応受信機、選手にはSLAS対応の受信機を装着することにより、データ判定による競技支援を行う取り組みがN-Sports Tracking Lab合同会社によって行われています。リアルタイムの順位や選手間の距離からレースの“見どころ”を自動判定し、SLAS搭載ドローンを自律移動させて撮影する観客向けライブ映像提供サービスや、CLAS/SLAS対応のブイで波高・潮流などを計測して開催者や選手に提供するサービス、ジオフェンスを活用した開催者向けエリアマネジメントサービスなども提供します。大規模国際大会での活用を前提に、国内で開催される競技大会で実証実験を実施しています。

7)CLASを活用した建設MRのシステム開発

株式会社インフォマティクスは、みちびきのCLASによる測位とMR(Mixed Reality=複合現実)の連携システムを開発しました。造成工事現場に実寸大の3次元モデルを導入したCIM(Construction Information Modeling/Management)データを、MRデバイス「Microsoft HoloLens 2」を使って重畳する実証を行いました。ARマーカーなどを使用する従来手法に比べ、CLASを活用することで自動的な位置合わせが可能となりました。結果、業務の大幅な効率化につながることが実証できました。

8)はやぶさ2のカプセル回収にMADOCAを活用

昨年(2020年)12月にJAXAがはやぶさ2の帰還カプセルをオーストラリアで回収した際、カプセルの位置推定にビーコン信号の到来方位角を用いる方向探索システムが使われました。カプセル位置を高精度に推定するには受信アンテナの絶対方位角校正が重要であり、通信手段のない砂漠地帯において、高精度測量を衛星測位信号のみで実現できるみちびきの高精度測位補正技術(MADOCA)が活用されました。

MADOCA-PPP海外展開など、みちびきの今後の取り組みも

講演する杉村技術参与

杉村技術参与は、みちびきの今後の取り組みについても紹介しました。みちびきは現在、2023年度を目途とする7機体制の運用開始に向けて、(現行の4機に追加する)3機の開発整備を実施中です。7機体制になることで日本付近において常時5~7機のみちびき衛星が利用可能となり、米国のGPSを併用せずに持続測位が可能となります。

センチメータ級の測位精度を海外でも実現するMADOCA-PPPについては、2019年からアジア・オセアニアの6カ国での性能評価を実施しており、実用サービス開始に必要なシステム整備を行っています。これに伴って、課題の一つである初期収束時間短縮のための広域電離層補正生成・配信機能等の必要な機能拡張を2023年度までに実施する計画です。

また、現在提供中の災害・危機管理通報サービス(災危通報)の機能拡張も行う予定で、Jアラート情報(ミサイル発射情報)及びLアラート情報(避難指示)の配信に必要なインターフェースの改修や信号生成機能拡張などを2023年度までに実施する予定です。加えて、豪州や東南アジア諸国においても災危通報による配信ニーズが高いことから、必要なインターフェースの改修や配信エリア切り替え設定、現地実証などを2024年度までに実施し、海外展開を図ることを計画しています。

このほか、測位信号への妨害技術に対する懸念の高まりを受けたスプーフィング(なりすまし)対策として、「測位信号に含まれる航法メッセージが本物である」と電子署名技術により証明する信号認証機能の開発・整備を、2023年度までに実施する計画です。みちびきに加えてGPS及びGalileoの測位信号を認証対象とする予定で、これにより位置情報及び時刻情報の信頼性・安全性が高まります。

杉村技術参与は最後に、今年度のみちびきを利用した実証事業公募の詳細が発表されたことを紹介し、「今年は将来的な利活用拡大につながり得る基礎的な実証実験を行う大学や研究機関なども募集するので、ぜひ応募をご検討いただきたい」と来場者に呼びかけました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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