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東京海洋大で第21回GPS/GNSSシンポジウム開催 [後編]

2016年12月16日

内外の専門家・研究者が一同に会した「第21回GPS/GNSSシンポジウム2016」(主催・一般社団法人測位航法学会、共催・公益社団法人日本航海学会GPS/GNSS研究会)が10月25~27日、東京・江東区の東京海洋大学越中島キャンパスで開催されました。ここでは後編として、みちびきに関連するセッションや講演の内容を紹介します。

日本での「位置情報」利活用の取り組みを紹介

── 守山宏道氏(内閣府宇宙開発戦略推進事務局)
守山宏道氏

初日の25日は「準天頂衛星測位システムの現状と動向」と題したセッションが開かれ、まず内閣府宇宙開発戦略推進事務局の守山宏道氏(準天頂衛星システム戦略室長)が登壇しました。

「準天頂衛星システムの整備と利活用状況」について講演した守山氏は、民間企業の宇宙ビジネス進出に関係の深い「宇宙活動法」と「衛星リモートセンシング法」に触れました。続いて地理空間情報の利用に関わる関係府省・自治体等の連携の実情や、ドローンを使った物流実験など社会実証のプロジェクトについて紹介し、「宇宙をキーワードに、非宇宙業界の方々に宇宙を使い倒してもらう」という意図で進められているS-NET(スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク)の取り組みなども紹介しました。

さらにアニメを使った観光客招致や、スポーツ・鉄道・農業・土木建設など幅広い分野において進められている、日本における位置情報の利活用の取り組みについて、欧州など諸外国からも将来の連携も視野に入れた強い関心が示されている実情を報告しました。
最後に、衛星測位・地理空間情報活用を振興していく基盤として、大学教育の重要性を指摘すると共に、大学側としても研究資金配分に積極的に取り組んでほしい旨、指摘がありました。

みちびきの地上システム整備状況を報告

── 矢野昌邦氏(NEC宇宙システム事業部 統合システム部)
矢野昌邦氏

続いて日本電気株式会社の矢野昌邦氏(宇宙システム事業部統合システム部マネージャー)は、みちびきを運用する「地上システムの整備状況」を報告しました。

今後15年間にわたり測位・通信サービスを安定して提供するため、地上システム全体として高い可用性を確保していることを紹介しました。各拠点の配置は「ディザスタリカバリ(災害ダメージの最小化と早期回復措置)」を最大限に考慮しており、衛星管制やデータ生成の運用拠点となる「主管制局」が常陸太田(東日本)と神戸(西日本)の2局、衛星へのデータのアップロードを行う「追跡管制局」が全国に7局、測位信号を受信する監視局は国内13局・海外22局という内訳を示しました。さらに「データ伝送路の多重化」「電源設備の冗長化」「運用効率を考えた統合監視機能」などさまざまな可用性を高める施策を実施したことを示しました。

サブメータ級測位補強サービスの概要を紹介

── 漆戸隆志氏(NEC電波・誘導事業部 衛星航法システム室)
漆戸隆志氏

3番目に登壇した日本電気株式会社の漆戸隆志氏(電波・誘導事業部衛星航法システム室マネージャー)は、みちびきが提供する「サブメータ級測位補強サービス」の概要を報告しました。

サブメータ級測位補強サービスは、衛星測位に影響を与える誤差の補正情報を、ディファレンシャルGPS形式で配信するものです。データ長250ビットのL1S信号として送信される補強信号の、メッセージ構造やメッセージタイプなど信号仕様の解説に続き、国内監視局を使った測位精度のプレ評価結果について紹介。「水平1~2m、垂直2~3m(測位精度95%値)」という要求値達成の見通しを得ることが出来、さらに2017年度中の試験サービスに向けファインチューニングを進めていくと報告しました。

センチメータ級測位補強サービスを解説

── 瀧口純一氏(三菱電機 鎌倉製作所 宇宙総合システム部)
瀧口純一氏

三菱電機株式会社鎌倉製作所の瀧口純一氏(宇宙総合システム部準天頂衛星利用技術課専任)は「センチメータ級測位補強サービス」について報告しました。

センチメータ級測位補強サービスは、日本の測地系と整合可能なセンチメータ級の測位精度が得られる測位補強情報を送信するサービスです。国土地理院が運用するGEONET(GNSS連続観測システム、GNSS Earth Observation Network System)の情報をもとに衛星誤差要因を推定、約2MBのデータを2KB程度に圧縮し、L6信号を使用して日本全国に無償で配信するもので、データ構造やメッセージタイプなどを解説しました。

また、みちびき2号機以降のL6信号(Block II)では、2kbpsのチャンネルがch1とch2の2つ用意され、センチメータ級測位補強サービスはch1を使用します。ch2は、既存信号の高性能化や、国外も含むような高精度サービスへの展開を検討中と報告し、さらにプロトタイプ受信機も紹介しました。

みちびきを利用したSBASサービスの紹介

── 田代英明氏(国土交通省航空局交通管制部)
田代英明氏

国土交通省の田代英明氏(航空局交通管制部 管制技術課 航空管制技術調査官)は「準天頂衛星システムを利用したSBASサービス」の報告を行いました。

静止衛星を経由して航空機が利用可能な補強情報を提供するサービス(SBAS:Satellite-Based Augmentation System)としては、米国ではWAAS(Wide Area Augmentation System)、欧州ではEGNOS(European Geostationary Navigation Overlay Service)などがありますが、日本では運輸多目的衛星(MTSAT:Multi-functional Transport SATellite)を介してサービス提供を行うため、MSAS(MTSAT Satellite-based Augmentation System)と呼ばれています。

講演では、2020年頃に燃料枯渇で退役予定のMTSATに代わってみちびきの静止衛星等を利用して行われる日本のSBASの整備工程(案)が示されました。整備の内容としては、SBAS信号の生成と運用を担うSBASの処理装置の整備を2016年から着手し、2020年にはMTSATを利用した現行システムからみちびきを利用した新システムに移行する計画とのことでした。なお、衛星は変わっても英文略称はMSAS(MICHIBIKI Satellite-based Augmentation Service)のままで変わらないとの説明もありました。

GNSS利用の未来予測をパネルディスカッション

セッションIIIでは「GNSS利用社会での勝利への布石 ~何処に石を打つ~」と題し、専門家や研究者によるパネルディスカッションを行いました。

参加メンバー(発表順)
コーディネーター:峰 正弥氏(一般財団法人衛星測位利用推進センター=SPAC)、小暮 聡氏(内閣府宇宙開発戦略推進事務局)、久保信明氏(東京海洋大学)、曽我広志氏(日本電気株式会社)、福吉清岳氏(三菱電機株式会社)、松岡 繁氏(SPAC)、坂下哲也氏(一般財団法人日本情報経済社会推進協会=JIPDEC)

各々の専門知識や経験に基づいて5年後、10年後、さらには50年後のGNSS利用の未来予測を行い、それに向けた社会インフラ整備や研究テーマ選定などを話し合うものでした。議論を活性化するため、コーディネーターの主導によりパネリストたちはあくまで個人の見解として自由に意見を出し合い、未来志向の討議が行われ、会場とも活発な意見交換を行いました。

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