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GPS反射波でハリケーンを観測する「CYGNSS」

2017年01月02日

NASAは2016年12月15日、GPSを利用してハリケーン(台風、サイクロン)の高頻度観測を行うCYGNSS(Cyclone Global Navigation Satellite System)を打ち上げました。打ち上げは、航空機と3段式の固体ロケットを使用する空中発射システム「ペガサス(Pegasus)XL」で行われました。

衛星8機で海上風を高頻度に観測する

CYGNSS衛星

CYGNSS衛星(画像提供:NASA)

CYGNSSは8機の小型衛星を使って海上の風を高頻度に観測するミッションです。一般に海上風の観測には、海面で反射・散乱した電波が使われます。風が強いほど海面は大きく波立ち、電波がさまざまな方向に散乱するからです。従来の手法では、衛星に電波の送信と受信の2つの回路が必要でした。電波を出すために大きな電力が必要となり、必然的に機体も大きくなっていました。

しかしCYGNSS衛星は、「電波を出す機能」をGPS衛星に依存します。海面で反射・散乱したGPS電波を衛星がキャッチし、海上風の推定に役立てる訳です。これがGNSS-R(-Reflectometry)と呼ばれる、海洋科学と宇宙工学を融合させた新たな観測手法です。GPSの電波は地球上のどこでも受信でき、発射された場所も正確に分かっており、直接波と反射波を容易に分離することも可能なために実現しました。

GPSを使った新たな観測手法「GNSS-R」

CYGNSSミッションにおける「海面風速の推定」

CYGNSSミッションにおける「海面風速の推定」(著作:University of Michigan)

衛星を電波受信に特化させることで機体を28.9kgまで小型化し、複数衛星化を低コストで実現しました。これにより編隊飛行する8機による高頻度観測(同地点を12分間隔)も可能となります。衛星の軌道傾斜角は35度と浅くなっているため、観測エリアをハリケーンの存在する北緯35度~南緯35度の熱帯域に限定することなどで、従来は数日間隔だった観測が数時間のインターバルで可能になります。
CYGNSSの高頻度観測により、ハリケーンの科学的な理解と予測をより正確に行えるようになります。とりわけこれまで空白域だったハリケーン中心部での海上風観測により、台風の「強さ」をより正確に見極めることができると期待されています。

なおミッション名のCYGNSSは、ハリケーンのインド洋地域での名称サイクロン(CYclone)の「CY」2文字とGNSSを組み合わせて、星座の「はくちょう座(Cygnus)」と同じ読みを当てはめて名付けられました。
このミッションには、日本からも文部科学省の宇宙科学研究拠点形成プログラムの支援を得た研究チーム「GNSS反射信号を用いた全地球常時観測が拓く新しい宇宙海洋科学」(研究代表者:九州大学 市川 香准教授)が参加しています。

(文:喜多充成・科学技術ライター)

参照サイト

※記事中の画像提供:NASA、ミシガン大学

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