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本田技術研究所がSLAS対応の見守りロボット端末を開発中

2020年10月12日

公益財団法人交通事故総合分析センターの調査によると、2015年に発生した歩行中の交通事故による死者数は1,534人で、これに負傷者を加えた死傷者数は56,962人。そのうち約3割を65歳以上の高齢者が占めていますが、年齢をさらに細かく1歳刻みに集計すると、もっとも多いのが7歳児の死傷者数で、他の年齢は500~1000人前後なのに対し1,492人と突出しています。

桐生氏

本田技術研究所の桐生氏

小学校入学時に歩行中の事故が急増するというこの課題を解決するため、Hondaグループの研究・開発機関である株式会社本田技術研究所は、みちびきのサブメータ級測位補強サービス(SLAS)を活用した見守りロボット端末「Ropot(ロポット)」を開発しています。

このRopotが参考出展された9月16~18日の教育ITソリューションEXPO(千葉市・幕張メッセ)に、開発者である本田技術研究所ライフクリエーションセンターの桐生大輔氏(完成機開発室 知能・制御ブロック チーフエンジニア)を訪ね、開発に至った経緯を聞きました。

みちびきのSLASで交通安全の注意喚起

ランドセルの肩ベルトに装着可能

ランドセルの肩ベルトに装着可能

Ropotは、SLAS対応のGNSS受信機を搭載した小型ロボット端末で、ランドセルの肩ベルト上部に固定し、子どもの肩に乗せた状態で使用します。保護者は、注意が必要なポイント、たとえば通学路の途中で一時停止が必要な横断歩道や、車が多いエリア、周囲から死角になりやすい地点などを、事前にアプリを使ってこの端末に登録しておきます。それにより、スマートフォンやタブレットと連携し、子どもが登録地点に近づいた時に振動で安全確認のリマインド(注意喚起)が行われる仕組みです。子どもは、路上で注意しなければいけない場所を覚えられ、自発的な安全確認を促すことが可能となります。

画面表示2点

登下校の途中にリマインドしたい地点を登録(左)、行動履歴で一時停止したかどうか確認できる(右)

Ropotには4G LTEに対応したモバイル通信機能が搭載されており、子どもの行動履歴が自動的にクラウドへ保存されます。自宅や学校への到着時間が記録されるほか、登録地点でちゃんと停止したかどうかも記録されるので、帰宅後に親子で一緒に行動を振り返ることもできます。

桐生氏によると、みちびきのSLASに対応したGNSS受信機を採用したのは、歩行中の子どもの位置情報を取得するのに高精度測位を必要としていたことが理由だそうです。

開発の初期段階において桐生氏は、SLAS対応の受信機を使って住宅街で測位精度を検証しました。一般的なGPSでは、現在地とは反対側の歩道に飛んだり、隣りのブロックに飛んでしまったりと、大きな誤差が出たのに対し、みちびきのSLASでは左右の歩道を正確に認識し、いきなり別の場所に飛んでしまうこともなく、極めて安定したログを取得できました。
「必要なのは、子どもが交差点を渡る前にリマインドすることです。渡り終えてからリマインドが来ても遅いし、ずっと手前から通知が来ても何だかよく分からなくなってしまいます。そのために“ほしい精度”を出すのにSLASを使いました」(桐生氏)

道路のどちら側を歩いているかどうかを判別可能

Ropotは1秒間に1回の頻度で測位し、地図上で位置の違いが明確になる10秒に1回の頻度で位置情報をログとして記録します。また、クラウドへの行動履歴の送信は、バッテリー消費に配慮して、100秒に1回の頻度で行われます。位置情報の取得にはWi-Fiや携帯基地局などの情報は一切使用せず、衛星測位のみを使用します。SLASの高精度測位を活用することで、登録地点をすばやく、そして確実に検知して子どもに注意喚起を促し、交通安全に対する意識を高めます。行動履歴は1カ月間クラウドに保存されるので、いつでも見返すことができます。
「Ropotが完成してから実際に街中で装着して歩いてみたところ、ほぼ失敗することなく登録地点を検知できました。高層ビルが建ち並ぶところなどではさすがに精度が落ちますが、Ropotは住宅街で使うものなので、実用にはSLASの1~2mの誤差で十分使えます」(桐生氏)

いつも持ち歩きたいと思えるキャラクターデザイン

Ropot

Ropot

Ropotには、一般的なGNSSトラッカーのように、子どもの現在地をクラウドを介して伝える機能も搭載されています。保護者のスマートフォンやタブレット上で、地図上のどこに子どもがいるのか表示されるので、子どもの現在地を簡単に把握できます。

また、自動車の安全運転支援システムにも用いられるセンサー技術を活用して、背後から接近する車両を内蔵のセンサーが検知した場合に振動で通知をする機能も搭載しています。みちびきのSLASによる高精度測位を活用したリマインド機能とセンサーによる後方確認機能を組み合わせることで、より多くのシーンで交通安全の意識向上が図れます。

「開発時には、ランドセルに内蔵したらどうかとか、ランドセル自体を作るのはどうかという意見もありましたが、それでは既存のランドセルに後付けすることができず、すでにランドセルを持っている子どもたちが使えないため、現在の形にしました。車両を検知するセンサーを高い位置に置くために、ある程度、製品のサイズを大きくする必要があったので、デザイン面では、この大きさを利用して、子どもが“相棒”だと感じて愛着を持ってくれるようなキャラクター性のあるものにしました。温かみのある丸いフォルムで、目の部分をLEDにして生き物に見えるようにしてみました」(桐生氏)

展示中のRopot

展示中のRopot

今回の教育ITソリューションEXPOの開催中、ブースを訪れた数多くの人がRopotに注目したそうです。桐生氏も、「多くの教育関係者の生の声を聴くことができ、これからの開発に活かしていきたいと思います。また、皆さんからとてもいい反響が得られました。中には『ぜひ売ってほしい。自分の子どもに使わせたい』と言ってくださる方もおられました」と話します。これまでにないコンセプトのRopotは、来場者から好評価を得られたといえます。

Ropotはまだ試作段階で、製品としての具体的な発売計画は未定ですが、同社は今後も、安心・安全につながる製品の研究・開発を進めていく方針です。
「現状でSLASの精度には満足していますし、準天頂付近に常に測位衛星があることには安心感を覚えます。今後7機体制になることで、さらにインフラとして安定性が高まることに期待しています。また、Ropotでみちびきの災危通報(災害・危機管理通報サービス)を受信し、子どもにいち早く災害情報を知らせる機能を追加することも可能なので、ニーズがあれば検討していきたいと思います」(桐生氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※ヘッダ及び本文中の端末表示画像提供:株式会社本田技術研究所