コンテンツです

「はやぶさ2」帰還カプセル回収を支えた「みちびき」の貢献

2020年12月14日

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は12月6日、オーストラリアのウーメラ砂漠において探査機「はやぶさ2」の帰還カプセル回収に成功しました。その回収ミッションにおいて「みちびき」が果たした重要な役割を紹介します。

小惑星リュウグウで2回にわたるサンプル採取

2014年12月に打ち上げられた「はやぶさ2」は、3年半かけて到達した小惑星リュウグウ(Ryugu)で2回にわたる表面の試料(サンプル)採取を行いました。リュウグウは炭素分の多いC型と呼ばれるタイプの小惑星に分類されており、サンプルの詳細な分析により、太陽系の進化史や生命の起源につながる新たな知見が期待されています。また小惑星からのサンプル回収は、初号機「はやぶさ」に続き人類にとって10年ぶり2度目となる貴重なものです。

小惑星リュウグウ全景(左)と着地した小型探査機による画像(右)

探査機搭載のONC-Tカメラで撮影した赤道直径約1000mの小惑星リュウグウ(左、©JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研)と、着地した小型探査機による画像(右、©JAXA)

この回収ミッションにおける最後の関門が、広い砂漠で帰還カプセルの着地位置を特定する作業でした。宇宙空間で機体から分離された帰還カプセルは、相対速度約12km/秒という超高速で大気圏に突入します。流星などと同様に大気の圧縮加熱で光る「火球」となり、速度が低下したところでヒートシールド(熱防御材)を分離、パラシュートを開いて緩降下します。
そのパラシュートが風に流される点が、着地点推定における最大の誤差要因でした。宇宙空間での探査機の挙動は計算どおりでも、地上の天気や風を人間が制御することはできないからです。

カプセル分離と大気圏突入の流れ

カプセル分離と大気圏突入の流れ(提供:JAXA)

ウーメラ砂漠に5つのDFS(方向探索局)を設置

DFSの設営

DFSの設営。砂漠での作業は、気温が47度Cに達することもあった(画像提供:JAXA)

カプセル着地点の探索手順

カプセル着地点の探索手順

JAXAはオーストラリア当局と調整し、広大な着地予想エリア(150km×100km)を設定。そのエリアを取り囲むように5つの方向探索局(DFS)を設置しました。DFSでは帰還カプセルが発するビーコン信号を受信し、その「方角」を本部に報告します。地図上に引かれた各局の電波到来方向の交わるところが、カプセルの着地点となります。

右図GIFアニメ(※ページ再読み込みで繰り返し再生します)に探索手順を示します。1)砂漠の中の着地予想エリアに、2)5つのDFSを設置して正確なアンテナの「位置」を確認します。3)帰還カプセルのビーコン信号が到来する「方角」を報告し、4)本部で地図上にプロットし、探索位置を決定。ヘリが出動します。

ビーコン信号によるカプセル現在位置推定の概念図

ビーコン信号によるカプセル現在位置推定の概念図(提供:JAXA)

この際、もっとも重要になるのが高精度なビーコン信号の方角計測です。ここでみちびきが欠かせない役割を果たしました。
事前準備として、DFSアンテナの方角校正を行うため、5つのDFSそれぞれから約200mへだてた場所に、校正用の電波を発するコリメーション(collimation)局を併設しました(*)。このDFS、そしてコリメーション局の位置座標を精度よく求めるために、みちびき対応受信機が使われたのです。位置を正確に決めることで、コリメーション局とDFSアンテナの相対位置関係、ひいてはDFSアンテナの絶対方角を精密に求めることが可能となりました。
人員やリソースの限られる中、衛星からの信号だけで高精度な位置決定ができる「みちびき」の存在は、回収チームの作業負担を大きく軽減することとなったのです。

(*)DFSはお互いに数10kmのオーダーで離れているため、それぞれの局にコリメーション局が必要となります。

みちびきのサービスを利用して無事回収

回収に飛び立つヘリコプター(左)と発見されたカプセル(右)。パラシュートが灌木に引っかかっている(画像提供:JAXA)

初号機の現地回収ミッションで指揮を執った、JAXA宇宙科学研究所の國中均所長は、回収成功の記者会見でみちびきの活用についてこう紹介しています。
「当時みちびきは打ち上がっておらず、米国のGPSのみを利用しましたが、今回はオーストラリアでもみちびきのサービスを利用できました。MADOCAという精密な位置決定の手法により、DFSの位置(及びアンテナの絶対方角)を精密に決めることができました」

ちなみに初号機ではDFSは4局体制でした。コロナ対策で渡航するチームの陣容にも制約がかかる中、DFSが1局増やされたということは、それだけミッションの成否に大きく影響する部分であったわけです。

回収隊が使用したのと同型のみちびき対応受信機

回収隊が使用したのと同型のみちびき対応受信機(画像提供:マゼランシステムズジャパン株式会社)

みちびき対応の受信機を提供したマゼランシステムズジャパン株式会社の岸本信弘・代表取締役は、「ウーメラ砂漠のDFSの位置を正確に求める作業は、前回の回収ミッションでは、砂漠の中を移動しながらの5日がかり(1局あたり約1日。DFSとコリメーション局を結ぶベクトルの方角を、GPSを使った事後処理キネマティック測量で算出)の大仕事だったと聞いています。回収隊の方々の負担を減らし、少しでもミッションのお役に立てたのであれば大変名誉なことです」と語りました。

回収された帰還カプセルはチャーター機で12月8日早朝に日本に到着、JAXA宇宙科学研究所(神奈川県相模原市)にある「地球外試料キュレーションセンター」に運び込まれ、はやぶさ2による小惑星リュウグウ探査ミッションは成功裏に終了しました。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

関連ページ

※ヘッダ画像提供:JAXA(国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)