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ユーブロックス社、2周波受信チップのセミナーを開催

2019年06月17日

ユーブロックスジャパン株式会社は5月28日、2周波受信に対応したGNSSチップ「F9シリーズ」を利用した、高精度測位に関するセミナーを、東京・江東区の東京海洋大学越中島キャンパスで開催しました。

産学の実務者・研究者がテスト結果や評価を発表

会場の様子

主にL1帯のみを受ける「1周波」の受信チップ/受信機と比較した場合、「2周波/多周波」の受信機は、電離圏遅延量が単独で補正できること、測位演算に使う受信データが増えることから、測位精度と安定性の向上が期待できます。しかし、2周波/多周波に対応した受信機は、これまではほぼ測量用にしか需要がなく、価格も数百万円クラスの高級機ばかりでした。ただ近年は、高精度測位への関心の高まりと共に数万円クラスの受信チップがアナウンスされ、大きな価格破壊の兆しが見え始めています。日本無線、コア、マゼランシステムズジャパンなどのメーカーが新しい受信チップや、受信チップの製品化ロードマップを示すなど、供給側の動きも活発です。

ZED-F9P

「High precision GNSS セミナー」と題された今回のユーブロックス社のセミナーはこうした流れに沿うもので、同社が昨年発表した「ZED-F9P」を産学の専門家が試用した上で評価が発表されることから大きな関心を集め、多数の聴講者が参加しました。

リアルタイム測位で大きなメリット(静岡大・木谷准教授)

静岡大・木谷准教授

静岡大学の木谷友哉准教授(学術院情報学領域)は、「二輪車情報学研究 Bikeinfomaticsと高精度測位応用」と題した発表で、高精度測位の技術を「自動二輪車による路面状態センシング」や「車体姿勢・操縦者姿勢の計測」への応用を探る実験などを行いました。中でも二輪車の車体と、操縦者ヘルメットに装着したアンテナの相対位置から、操縦者の姿勢を推定する試みは、センチメータ級の測位を前提としたものであり、木谷氏は「2周波受信機はリアルタイム測位で大きなメリットがある。ただ、使用する衛星システムは多ければいいという訳ではなく、疑わしい衛星は使わないという戦略が必要になってくる」と検証結果を報告しました。

山陽自動車道での試験結果を報告(三菱電機・毛利氏)

三菱電機・毛利氏

三菱電機株式会社の毛利篤史氏(三田(さんだ)製作所カーマルチメディアシステム部)は、みちびきのセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)を扱う「PTC復号モジュール」試作機と、ユーブロックス社の2周波受信機ZED-F9Pを組み合わせて行った性能検証の結果などを報告しました。新CLASモジュールとも呼ばれるPTC復号モジュールは、L6帯(L6Dメッセージ)で放送されるCLAS信号を受信・復号し、データをUBXフォーマットへ変換して出力します。毛利氏は「測量用受信機によるRTK測位」「AQLOQ端末を使ったCLAS測位」「PTC+F9P(CLASユニット)を使った測位」を山陽自動車道で行い、それらの性能を比較。F9Pの測位性能やPTCモジュールの復号能力を確認した上で、「F9P/D9*受信機性能を活用した高精度地図ロケーター開発で、ハードウェアにおける走行時50cm級の測位精度実現のめどがついた」と報告しました。(*D9はPTCをベースに開発される復号モジュール)

自動運転にはコストが課題(デンソー武藤氏・古本氏)

武藤勝彦氏

古本隆人氏

株式会社デンソーの武藤勝彦氏(写真左)・古本隆人氏(写真右、いずれもAD&ADAS電子技術部)は、「F9Pを用いた移動体での高精度測位性能と車載ECU(Electronic Control Unit)への応用可能性について」と題した報告を行い、「レーンレベルの位置特定で、運転支援は進化する。そこにはGNSS測位の高精度化が求められ、コスト面の課題対応が重要となる」と解説。LTE回線で車両が受け取った、ローカル基準局やMADOCA補正情報などを用いた実証実験を踏まえ、「F9Pは測量用受信機(NetR9)に近い性能に迫っており、今後のパラメータ調整・アルゴリズム解析により目標性能を達成可能と考える」とまとめました。

高精度測位は今が変革期(茨城工業高専・岡本教授)

茨城工業高専・岡本教授

茨城工業高等専門学校の岡本修教授(国際創造工学科 機械・制御系)は、「マルチバンドRTK受信機F9Pの測位性能」と題した報告を行いました。岡本氏はF9Pと「1周波受信機M8T+RTKLIB」、「ローコスト多周波受信機」、「ハイエンド多周波受信機」の測位性能を比較した上で「F9Pはハイエンドの多周波受信機に匹敵。初期化が早く、破綻せず、ばらつきが少ないという印象だ」と報告。さらに災害復旧現場や森林の中、巡回ロボットへの応用などを紹介した上で、「みちびきの4機体制運用開始」「受信機コストの2桁減」といった背景を受け「今が高精度衛星測位の変革期」と強調しました。

ドローンなどに有効(千葉工大・鈴木主任研究員)

千葉工大・鈴木主任研究員

千葉工業大学の鈴木太郎主任研究員(未来ロボット技術研究センター)は「ロボットにおけるu-blox F9Pの利用」と題した報告の中で、F9Pに対する個人的評価として「L2帯対応がFIX率向上に大きく寄与しており、さらにGLONASSとBeiDouの同時受信(※M8シリーズでは排他利用)が非常に大きな効果を生んでいる」としました。また、移動ロボットやUAV(Unmanned Aerial Vehicle=無人航空機、ドローン)で行った実験結果を踏まえ、「新たな低価格PPP(Precise Point Positioning=高精度単独測位)というジャンルの測位手法が実現するエポックメイキングな製品。みちびきのL6信号を用いることで、衛星経由のデータのみで高精度単独測位が可能となり、UAVなどデータ通信が難しいアプリケーションに有効だ」と期待を語りました。

IMUや速度センサーとの統合が必須(東京海洋大・久保教授)

東京海洋大・久保教授

東京海洋大学の久保信明教授は「F9P受信機関連の話題」と題した報告の中で、都市の高層ビル街での測位実験や、東名高速道路を西進しながらの中長基線での性能評価、さらにはVRS(主に測量業者向けに配信されている補正データ)を使った測位や、測量用受信機との組み合わせによるRTK測位実験などの結果を紹介。「F9Pの性能は素晴らしい。あとは補正データを一般の方々がどのように取得するかが問題となる。みちびきから放送されている補正データを使うCLASやPPPも精力的に評価しており、F9Pにこれら補正データが入力されると非常によい」としつつ、「IMU(慣性センサ)や速度センサーなどの統合が必須である」と課題を提示しました。

アレックス・ナギ氏

最後にユーブロックス社のアレックス・ナギ氏(Alex Ngi、測位担当プロジェクトマネージャ)が、F9シリーズの新製品として、IMUを内蔵し30Hzで位置情報を出力できる、高精度車線測位モジュール「ZED-F9K」を紹介し、セミナーは終了しました。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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