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「農業Week」でスマート農業に関するセミナーを開催

2019年10月21日

10月9日~11日の3日間、千葉市の幕張メッセで開催された農業の総合展「第9回 農業Week」において、北海道大学大学院農学研究院 副研究院長の野口伸教授によるセミナー「ロボット×ICTによるスマート農業の現状と課題」が開催されました。同セミナーのレポートをお送りします。

Society 5.0の取り組みとしてデータに基づいたスマート農業を推進

北海道大学の野口伸教授

北海道大学の野口伸教授

野口氏は、まず農業におけるSociety 5.0の取り組みとしてスマート農業について語りました。野口氏は今年の3月までに、内閣府のSIP(戦略的イノベーションプログラム)の「次世代農林水産業創造技術」として5年間、スマート農業を推進してきました。農業従事者が大幅に減少し、高齢化が進む中、日本政府は、すべての農業従事者がデータを活用した農業を実践し、生産コストの削減や食品輸出額の増加を実現できるように、日本の農業を強化することを目指しています。

Society 5.0のしくみ(資料出典:内閣府)

Society 5.0のしくみ(資料出典:内閣府)

「Society 5.0では、サイバー空間とフィジカル空間を融合させて、人間中心の豊かな社会を実現することを基本的な考え方としています。これを農業において実現するのがスマート農業です。人手不足で高齢化が進む中では、経験と勘に基づく農業ではもう立ちゆかなくなり、ノウハウが継承されずに消えてしまうことが大きな課題となっています。これを1日も早くデータに基づいた農業に変えることが大切で、そのためにはまず良質なデータを低コストで集める仕組みを作る必要があります」(野口氏)

たとえばトラクターや田植機、コンバインなどを運転している人は、ただ農機を運転しているだけでなく、周りの様子を観察しています。スマート農業では、そのようなさまざまな情報をデータとして集めて、実際の作業に反映させることを目指しています。

野口氏は、このような情報の可視化の事例として、衛星観測により圃場ごとの作物・農地診断情報を作成し、それを作業者のタブレットに提供するシステムや、UAVリモートセンシングによる地形や土壌の可視化、水田の水管理を遠隔・自動制御できる給排水システムや最適水管理アプリなど、さまざまな取り組みを紹介しました。

スマート農業(資料提供:北海道大学大学院農学研究院 野口伸教授)

スマート農業(資料提供:北海道大学大学院農学研究院 野口伸教授)

みちびきにより低コストでセンチメートル級の測位が可能に

続いて野口氏は、スマート農業を実現するために必要となる農作業のロボット化について、政府が目標としているロードマップを説明しました。現在、GNSSによるオートステアリングの機能を持つレベル1の農機が普及しつつあり、さらに2018年には、自動走行機能を持つレベル2のロボット農機の販売がスタートしました。

レベル1の農機は、高精度測位による手放し運転が可能です。GNSS受信機やモーターを後付けで取り付けることにより、手持ちのトラクターや田植え機を自動操舵にすることも可能です。農機を手動で真っ直ぐに走らせることは難しいですが、こうした技術を使うことによって簡単に作業できるようになります。

「このようなGNSSによるオートステアリングは、これまでは補正信号を別に取得する必要がありましたが、みちびきでは、空から補正信号を得られるため、低コストでセンチメートル級の測位が可能となります。また、衛星が常に天頂付近に位置するため、防風林の近くや中山間地域など衛星電波を受信しにくいエリアでも安定して測位することができます」(野口氏)

こうした技術を使うことにより、完全無人で動く農機も実現する見込みで、複数の農機を同時に1人で動かして作業することも可能となります。

さらに、現在のロボット農機は基本的には目視監視が必要ですが、2020年に実現予定のレベル3の農機では、離れたところにある農機を1カ所で監視することが可能となります。遠隔監視システムでは、管制室からロボットの作業状況を確認しながら制御し、問題があればすぐにロボットの動作を停止させることができます。また、周辺状況の画像を伝送して作物の生育状態を把握することも可能となります。

これにより、農地が飛び地になっている場合でも、1カ所で監視しながら同時に作業させられます。さらに、農機が公道を通って圃場間を移動する技術が可能になれば、1カ所で作業を終えたあとに、自動的に次の圃場に移動して作業を継続することができます。
このようなことを実現する鍵となるのは電波による通信技術であり、野口氏は現在、NTTグループと共同で、5GネットワークやAIをスマート農業に活かす取り組みを行っています。

セミナー会場の様子

セミナー会場の様子

スマート農業の実践だけでなく地域のビジョンを考えることも必要

野口氏は、今後のスマート農業の課題として、小型でスマートなロボットを作っていくことが必要であると語りました。今のロボット農機は、どちらかといえば平場で大区画を対象としたものであり、中山間地域で使いづらいですが、日本は中山間地域が4割を占めており、このような地域にこそスマート農業を導入するべきであると考えています。

「スマート農業を実践することは必要ですが、少ない人間で地域が成り立つようになると、町そのものも成り立たなくなるため、新しい雇用の場を作る必要があります。将来の地域のビジョンもきちんと作らないと、スマート農業を導入したために地域が発展しなくなる恐れがあります。そこでスマートフードチェーンを実現すれば、地方にいながらも日本全国や世界の動向を見て、世界を相手にビジネスすることが可能となります。第2期SIPではこれを進めています」(野口氏)

北海道大学の野口伸教授

北海道大学の野口伸教授

野口氏は最後に、テレビドラマ「下町ロケット」において、高精度衛星測位を活用した無人農業ロボットが登場したことについて触れるとともに、TBSと協業して、東京ドーム1.6個分もの広大な畑に、12時間かけて2台のトラクターを使って絵を描いたことを紹介しました。これはテレビ番組として放送されるとともに、その動画がYouTubeでも人気を集めたそうです。「農業に関わっていない人に対して、農業ロボットはこんなに精密な動きができることを知ってもらえたことは、非常に重要だと思っています」(野口氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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