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第3回準天頂衛星シンポジウム[開催レポート]

2014年11月21日

産学官が連携し「人を育て」「企業を呼び込む」視点での利用拡大推進を議論

第3回準天頂衛星シンポジウム会場(東京海洋大学)

準天頂衛星システムサービス株式会社は2014年10月30日、「第3回準天頂衛星シンポジウム(QZSS産学官利用拡大プラットフォーム会議)」を東京・江東区にある東京海洋大学で開催しました。

今回のシンポジウムは、準天頂衛星システムの利用拡大には産学官の連携が重要であるとの認識から、一般社団法人測位航法学会が主催する「第19回 GPS/GNSSシンポジウム2014」と同時開催の運びとなりました。また、初めての試みとして、産学官それぞれの分野の有識者が準天頂衛星システム利用に関する動向や今後について語るパネルディスカッションも実施。会場には150名近い来場者が詰めかけました。

来賓挨拶

内閣府宇宙戦略室 田村栄一企画官

内閣府宇宙戦略室の田村栄一企画官は、現在政府で見直しを検討中の宇宙基本計画について、現在の計画では「準天頂衛星は2018年までに4機体制をつくり、将来的に7機体制を目指す」としているが、改訂案を調整中であることを明らかにしました。

測位衛星システムでは、アメリカのGPS、ロシアのGLONASSが有名だが、すでに一番少ないインドのIRNSSでも3機打ち上げており、日本のQZSSも「現在の整備中の4機より、もっと必要」という意見がある現状を紹介。産業発展の効果があることを期待して、皆さんと意見交換したいと挨拶しました。

準天頂衛星システムの最新状況について

日本電気株式会社 曽我広志氏

続いて日本電気株式会社の曽我広志が、最新の設計状況に基づく準天頂衛星システムのサービス仕様について報告しました。

3つの準天頂軌道を回る衛星と、東経127度に静止する静止衛星の計4機で構成される準天頂衛星システムは、「衛星測位サービス」「サブメータ級測位補強サービス」「センチメータ級測位補強サービス」の3つの測位系サービス、「災害・危機管理通報サービス」「衛星安否確認サービス」の2つのメッセージサービス、新技術による測位信号実証のための環境を提供する「測位技術実証サービス」の計6つのサービスを提供すると説明しました。

準天頂衛星システムのサービス仕様について

講演「身近な防犯から「地域の知」のデータ化へ:準天頂衛星システムの利用拡大に向けた1つの提案」

科学警察研究所犯罪行動科学部 原田豊部長

続いての講演では、準天頂衛星システムの利用実証の実例が2つ紹介されました。まず、科学警察研究所 犯罪行動科学部の原田 豊 部長が、防犯の観点から、準天頂衛星による測位を活用した「聞き書きマップ」作成支援を提案しました。

警察サイドでは、刑法犯による事件数が戦後最悪となった2002年ごろから市民ボランティア団体による自主防犯活動の支援を進めており、現在では全国で4万7千もの団体が、防犯パトロール、子供の見守り、危険個所の点検といった活動を行っています。そこでの課題は、屋外での活動実態把握と情報共有が困難であるという点です。そこで活動のデータ化と共有のツールとして、原田部長が中心になってGPS、デジタルカメラ、ICレコーダーを活用した、まちあるき記録作成支援ツール「聞き書きマップ」を開発しました。

現場で写真を撮りながらつぶやくだけで、デジタルカメラの撮影時刻をキーに位置情報と音声の頭出しを行い、「防犯まちあるき」の記録を簡単にデータ化できます。

準天頂衛星システムの利用実証の実例紹介風景

講演「国土交通省『G空間社会における山岳遭難防止対策モデル構築事業』について」

「聞き書きマップ」を準天頂衛星システムに対応させることで、「防犯活動」への適用性が劇的に向上すると期待されています。犯罪は都市問題なので、防犯活動は都市でこそ求められますが、GPSによる測位ではマルチパスに起因する測位精度に限界があります。実証実験では、GPSでは正確にたどれないマンションの間の道を通る軌跡も、準天頂衛星を利用すれば正しく測位できることが示されました。

ジェイエムテクノロジー株式会社IT事業本部 羽染智担当部長

続いてジェイエムテクノロジー株式会社 IT事業本部の羽染 智 担当部長が、長野県などと共同で行っている北アルプスの山岳遭難防止対策モデル構築事業を紹介しました。このプロジェクトは、国土交通省が公募実証事業として採択したもので、地理空間情報(G空間情報)の高度活用による防災・減災の取り組みで、団塊世代の登山ブームや外国人観光客の増加により近年増えている山岳遭難事故を防止し、遭難時の救助に役立てようという試みです。

遭難時には、行動履歴に基づいて現在位置を推定すれば、迅速な捜索が可能になります。登山計画を出さずに入山する登山者も数多くおり、行動履歴がわかれば、遭難時の捜索範囲を絞り込むことができ、効率的な捜索活動が可能になります。

北アルプスの山岳遭難防止対策モデル構築事業の紹介

夏に行った実証実験では、iBeaconの発信器を登山者に配布し、ビーコンに反応するスマートフォンを通過ポイントに設置することで、登山者の行動履歴を記録しました。遭難まで行かなくても登山中にはぐれかけた時にiBeaconで警告を発信するといった実験を行い、成果が得られました。

12~1月の冬山で、登山者に準天頂衛星の受信機を持たせて実証実験を行います。従来よりも詳細な位置情報を取得することで遭難対策を行ったり、準天頂衛星から緊急情報を一斉送信することで登山者の正しい判断を促すことが可能になります。
羽染 担当部長は、「御嶽山の噴火時にこのシステムが実用化されていれば捜索活動がもっと迅速に行えたという声を多数いただいた」として、冬の実証実験では、県警の協力を得た上で、火山灰に埋めたビーコンや受信機がどのように作用するかなどの実証も行いたいと語りました。

パネルディスカッション「準天頂衛星利用拡大に向けた取り組み」

本シンポジウムでは初の試みとなるパネルディスカッション

続いて日本電気株式会社より、準天頂衛星の利用拡大に向けた取り組みとして、「準天頂衛星システム 2018年までの事業計画 最新情報」、「利用拡大活動 情報収集・情報発信」、「準天頂衛星システムを利用した利用実証」についての活動が紹介された後、本シンポジウムでは初の試みとなるパネルディスカッションが行われました。

今回は「準天頂衛星の利用拡大をどのように進めていくか」をテーマに、産・学・官の各分野の有識者として、内閣府宇宙戦略室の田村栄一企画官、東京海洋大学の安田明生名誉教授、日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)電子情報利活用研究部の坂下哲也部長、日本電気株式会社の神藤英俊の4氏が登壇。日本宇宙フォーラムの吉冨進常務理事をモデレータとして、準天頂衛星システムの利用拡大に向けた取り組みについて議論を交わしました。

日本宇宙フォーラム 吉冨進常務理事、内閣府宇宙戦略室 田村栄一企画官、東京海洋大学 安田明生名誉教授、日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)電子情報利活用研究部 坂下哲也部長、日本電気株式会社 神藤英俊

まず「官」の立場から語った田村企画官は、宇宙基本計画が安全保障などの観点から見直しが必要になっており、「準天頂衛星が7機体制になれば他のGNSSと併用することなく、自国の測位衛星システムだけで測位ができる」というメリットを説明し、「準天頂衛星の利用が広がらなければ、計画通りの整備が不要ということになりかねないので、利用拡大を図っていただきたい」と期待を述べました。

安田教授は、「学」の役割は人材育成であり、「受信機開発などはヨーロッパやアメリカの企業に負けないものが出来てきそうだと感じており、準天頂衛星は人材育成という点では成功している」と述べました。

パネルディスカッション風景

坂下部長は、官と民を俯瞰する立場から、「産業界は自国の測位システムを所有することで、位置情報を『保証できる値』としてサービスに利用できる」と指摘。2020年のオリンピック・パラリンピックに向け、実証実験を積み重ねてブラッシュアップすることが重要だと語りました。また、運用に当たっての課題は、地図の高精度化が準天頂衛星の高精度な測位を活用するために十分でない点だとして、国や自治体の持つ高精度地図(固定資産管理用の地図など)をオープンデータとして活用することが有効だとしました。

NECの神藤は、産業界の中でも感度の高い企業とそうでない企業で温度差があり、オールラウンドで全ての業界で活用してもらうのは難しいとした上で、産業界以外にも大学と連携した利用拡大企画を提案したり、受信機メーカーと協力して受信機の価格を下げる努力などを行ってきた経緯を説明しました。

モデレータの吉冨進常務理事

吉冨常務理事は、PFI事業として20年間継続が国に担保されている準天頂衛星は、日本の宇宙プロジェクトの中できわめて稀有な存在であり、予算を国が担保する中で「人」と「もの」をどう組み合わせるかが議論すべき点であると述べました。

パネルディスカッション後半の風景

後半は「人を育てる」「企業を呼び込む」という視点からの提案をテーマに議論が進み、まず坂下部長から、「2020年のオリンピックを想定して、来日する選手や家族を対象に、東京から地方に旅行するルートを整備しナビゲーションを多言語で提供する」というアイデアが提案されました。

田村企画官は、7機体制への見通しについて、「早い時期に整備できるようにしたい。」としつつ、「事業が続くことを政府が担保することでビジネスが育ち、そのために7機体制の構築が必要になる。」という流れを期待したいと語りました。

安田教授は、人材育成について現在、測位航法学会で衛星測位をテーマに実施しているサマースクールを紹介。また、中国、韓国を始めとするアジア諸国に比べ、日本ではGNSS専門家を養成する教育カリキュラムが整備されていない点に言及しました。これに対し田村企画官は、人材育成は宇宙関係の各分野において必要と考えていると同意し、「準天頂衛星システムを活用して測位の研究を進めることで、測位人材の育成を図っていただきたい」と述べました。

パネルディスカッション会場の全体風景

最後にモデレータとして吉冨常務理事が、「準天頂衛星システムのベースが出来上がりつつあるので、日本がやってよかったと思えるよう、まずは2018年の4機体制を迎えたい」と締めくくり、パネルディスカッションは終了しました。