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JIPDEC坂下哲也:身近なアイデアを実現すれば、みちびきはもっと便利になる

2016年12月19日
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)常務理事/電子情報利活用研究部 部長/認定個人情報保護団体 事務局長 坂下哲也

今回は、みちびきの事業推進委員会で委員長代理を務め、みちびきについて、産業界のニーズを集めつつ、学官のプロジェクトチーム会合や専門家ワーキングループ、研究会などさまざまな検討活動に参加しているJIPDEC常務理事の坂下哲也氏に、日々の幅広い活動の中で感じたみちびきへの期待を話してもらいました。

位置情報の精度が上がればビジネスは変わる

── みちびきが4機体制となる2018年度が近づいてきましたが、みちびきがもたらす高精度測位は、社会においてどのような役割を果たすのでしょうか?

時刻情報と位置情報、つまり「いつ」「どこ」という情報はデータを利用する際に必須のものです。人間は脳の中で「ここは東京都○○区の○○駅の近くで、○○会社○階の会議室にいる」と簡単に把握できますが、機械には時間と場所の正確な情報を与えてあげないとデータを識別できません。データを利用したり、サービスを組み立てる場合は、かならず「いつ」「どこ」がスタート地点になるので、その情報の精度が向上すればビジネスは大きく変わります。これまでは10~30m程度の誤差があったサービスが、誤差1~3mの精度に向上すれば、情報の到達コストがかなり圧縮されます。そうすればサービスの質も向上しますから、それを実現するみちびきは今後、かならず使われるようになると思います。

── みちびきには、GPS衛星を「補完」する機能と、これまでより高精度の測位を行う「補強」の2つの機能がありますが、それぞれどのような効果を社会にもたらすのでしょうか?

たとえば要人警護や現金輸送車の管理、プローブデータ(=自動車が走行した位置や車速などから生成される道路交通情報)などでは、数分ごとに位置情報が取得されるため、誤差数m以内の精度が求められ、補強と補完のいずれの機能も必要となります。一方、運送車両の管理や営業や調査に使う車両、介護・医療などの現場では、補完機能によってDOP(Dilution of Precision=衛星配置の偏りを表す指標)が改善されるだけでも効果があり、補強機能によって高精度化すれば、さらに効果が高まります。みちびきによってDOPが上がることへの期待と、補強によって精度がさらに高まるというニーズは、サービスごとにきちんと存在していると思います。

インフラ維持や災害時の情報配信に役立つ

── インフラの維持・管理や防災への利用についてはいかがですか?

これからの日本は人口減少とインフラの老朽化が進み、インフラを維持・管理するのに、今までのやり方だとコストがかかり過ぎてしまいます。これを解決するため、たとえば地下埋設物の管の中にセンサーを付けてデータを収集し、AI(Artificial Intelligence、人工知能)を使って経年劣化を判断し、壊れる前にみちびき対応のロボット工作機械が夜中に自動で修繕するといったシステムが必要となります。また、災害発生時には、みちびきを使って安否情報や避難場所の情報を防災対策本部に送り、ご家族の方がそれを検索するといった使い方が考えられます。

── みちびきのメッセージ機能には、どのような効果があるでしょうか?

激甚災害が起きた場合、地上のネットワーク網が止まると通信手段が何もなくなってしまいます。そのため、宇宙空間から情報を発信するという手は有効だと思います。測位衛星が通信機能を兼ね備えるということは、「津波が来るからすぐ逃げてください!」といったメッセージを、エリアを絞って送信できるということは、これは非常に効果があると思います。

── その他では、どのような使い方が考えられますか?

東南アジアでは、魚が流木に集まる習性を利用したパヤオ(浮漁礁)という漁具が使われています。日本でも、沖縄に100基以上のパヤオが設置されていますが、この位置を探すのに測位衛星を使うのは有効だと思います。衛星測位を行って位置情報を簡単に取得できる通信ユニットをパヤオに付けておけば、船から現在地を確認でき、船はパヤオを回避し、漁場を荒らさないように航行できます。パヤオは東南アジアの国々で使われており、APEC(Asia-Pacific Economic Cooperation、アジア太平洋経済協力)やASEAN(Association of South-East Asian Nations、東南アジア諸国連合)の域内を飛んでいるみちびきは最適だと思います。

── 高精度測位で取得したデータを集めれば、ビッグデータとして活用できますね。

スマートフォンで取得した位置情報や、街中の防犯カメラで撮影した画像データを使って人流を可視化し、それによってデジタルサイネージの広告を動的に変更したり、イベント時の人流を解析するなど、さまざまな使い方が考えられます。今後、移動の高速化とシームレス化が進む中で、各都市に配置されたさまざまなセンサー群が取得した位置情報付きのデータを集積し、ビッグデータとしてAIが解析した上で社会にフィードバックするという作業が始まるでしょう。

JIPDECは認定個人情報保護団体でもあり、そのようなデータを使えるようルール化する役割も担っています。みちびきで情報の到達コストが圧縮されれば、そのデータを使うリスクも増える訳ですから、利便性とリスクの両方を見て対応していく必要があります。

高精細地図を整備し、受信機を小型化する

── みちびきが普及する上で、課題は何でしょうか?

測位精度が向上するということは、地図が今より精細にならないと使えない訳で、2500分の1の縮尺でなく、最低でも100分の1程度の縮尺の地図を作る必要があります。それを全国規模でやってはたいへんでお金もかかるので、どう作るかの議論が必要です。

自治体が保有する都市計画図や固定資産台帳の付図などがオープンデータとして公開されれば、全国レベルで細かい地図を作成できます。また、みちびきの補強機能を利用できる受信機のチップも、スマートフォンに内蔵できるくらい小型化する必要があります。地図の高精細化や受信機の小型化が進めば、サービスのマーケットが広がります。たとえば「ポケモンGO」でモンスターを探す時、精度10mのレーダーでなく、3mくらいのレーダーで探せるなら、きっとビジネスも活性化すると思います。

── なるほど。インフラの整備が課題ということですね。それが解決すればみちびきの利用は拡大すると。

JIPDECでは今、業種・業界を横断して企業の出会い場をつくる「IoT(Internet of Things)推進ラボ」という取り組みを行っています。新しい発想を生み出すには業種や業界の壁を越えて取り組む必要があり、内閣府が創設した「S-NET(スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク:宇宙関連の新産業やサービス創出に関心を持つ企業・個人・団体が参加するネットワーク組織)」のような取り組みにはとても期待しています。

大学などの研究者と産業界の方々がより交流を深めたり、オープンデータを使ったアイデアソンなどで、自治体や民間企業、市民が一緒に議論することも必要です。たとえば保育園バスが近くに来たら親のスマートフォンに通知するサービスがあったとして、GPSでは100m以上離れた場所で通知が来るけど、みちびきだともっと近くて、冬の朝でも寒い思いをしなくて済むとか。また、ごみ収集車の位置を通知する仕組みでごみが外に出ている時間を減らし、カラス等に荒らされる被害を少なくする、といった身近な例をアイデアソンで考え、どうすればそれを実現できるかを考えれば、みちびきを使ったサービスはもっともっと便利なものになると思います。

── ありがとうございました。

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