東京大学 中須賀真一:将来型の社会インフラで社会をどう変えるか検討する
今回は、大学宇宙コンソーシアム(UNISEC)などを通じた教育活動や超小型衛星CanSatやCubeSatの開発、さらには宇宙産業の振興にも長年尽力してこられた東京大学航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授(工学博士)に、みちびきの利用拡大に向けての方策を伺いました。
みちびきは、重要な社会インフラをつくる道具
── みちびきについて、先生はどのようにお考えになっていますか。
中須賀 みちびきとは、宇宙をベースにした社会の重要なインフラを作るための道具であると考えています。内閣府宇宙戦略室が中心になって、それを整備していく方向に舵を切りました。したがって、これから国を挙げてやっていかなくてはなりません。
これまでは、地上をベースにした社会インフラがあった訳ですが、これからは宇宙ベースの社会インフラ、すなわち将来型の社会インフラを作っていくことになります。それによって、どのように社会を変えていくのかを追求することになります。それを上手い方向に持っていければ、産業化にもつながるし、世の中の人たちの利便性向上や幸福につながっていきます。そういう可能性が出てきたと思っています。
── 宇宙は、将来の社会インフラ作りのための重要な場所になるとお考えになりますか。
中須賀 もちろん。明らかにそうですね。宇宙でしかできないものは、今も多く行われていますが、地上で行っていることの中でも、宇宙でやった方が効果的なもの、効率的なものはたくさんあるのです。これからは、それらをどんどん宇宙ベースのインフラに変えていかなくてはなりません。
日本で今、大事なのは、みちびきを打ち上げただけではなくて、それによって社会インフラを変えていくというオールジャパンの体制を作ることです。たとえば中国では、GNSS(全球測位衛星システム)関係の学会があると数千人規模で人が集まります。企業展示もたくさん行われています。それを超えるぐらいの盛り上がりを実現する策を考えていかなくてはいけません。
宇宙に関係なかった人たちに働きかける
── みちびきに関する情報がもっとオープンになると、全く新しいアイデアが出てくる可能性があるとお考えですか。
中須賀 このシステムを気楽に使える状況を作れば、少し考えてみようかという人はかならず出てきます。そういう仕掛けが必要です。ですので、コンテストなどももっとやるべきだと思います。そのコンテストもただ良いものを表彰するだけでなく、ちょっとした事業を始めるための資金を付けるのもいいと思います。ヨーロッパではそういうことをしています。 要は、これまで宇宙に関係なかった人を入れていかなければならないということです。そのための努力をもっとやっていかなくてはなりません。
── みちびきにはいろいろビジネスチャンスがあるというお考えですね。
中須賀 ありますよ。たくさんあります。ただし、規制をいろいろ変えていかなくてはならないでしょうね。今、地上で行っていることを宇宙でやろうとすると、法律で制限されてしまうことがいろいろあるはずです。そのためにも省庁も含めた推進体制が必要な訳です。
── そうした中で、準天頂衛星システムサービス株式会社にはどのような期待をされていますか。
中須賀 地上局のシステムや情報配信システムあたりは、たぶん問題なく行われるだろうと思っていて、そこはあんまり心配していないのです。やっていただきたいのは、利用拡大の核になってほしいということです。これまで宇宙と関係のなかった人たちに働きかけることです。本当にこれでビジネスをやろうという人を集めるためにはどうしたらいいかということを徹底的に考えてほしいですね。1つはさっき言った多くの人たちにインセンティブを与えるコンテスト、それからもう1つは海外市場。これはすごく大事です。
インフラがない海外でこそメリットを活かす
── それでは、海外展開について伺います。
中須賀 海外展開にはいろいろな議論があります。日本で実証したパッケージを海外に持っていくという考え方がありますが、私はそうではないと思っています。なぜかと言うと、日本はインフラが整い過ぎている面があるからです。それよりも、インフラが全然ないところにいきなり持っていった方が、みちびきのメリットを活かせるのです。
インフラがないアジアの国々に、いかにこのシステムを拡げていくかですが、そのためには、現地で本当に真剣にビジネスをやろうという人をたくさん作れるかが大事です。そうすれば、あちこちに基地局を置けるといった可能性も出てきます。準天頂衛星システムサービス株式会社にはそういうトータルの活動の拠点になってほしいと思います。
やる気のある企業と組んで一緒に仕事をして、どういうところに障害があるかを見極めたり、場合によっては法律を変えなくてはならないという提案を政府にしたりするくらいになってほしいと思います。やらなければいけないことはたくさんあります。
── アジア各国ではみちびきはどんな捉え方をされていますか。
中須賀 まだあまり知られていないのが現実ではないでしょうか。政府レベルのGNSS会議などでは話が出ていますが、一般の人たちには知られていませんので、まずはそこから始めないといけません。
それと、本当にみちびきでビジネスをやろうと思っているアジアの人が、どれだけ日本に勉強に来てくれるかによります。日本に来たら何か良いことがあるというワクワク感みたいなもの、それがほしいですね。自分の国でビジネスをして儲けたいと思う人たちが、たくさん日本を向いてくれなければいけない訳です。
海外から日本に来ることに関して問題となるのは、海外から日本に勉強に来たいと言っても、日本の大学におけるGNSSの研究者が非常に少ないことです。ですので、日本の中に研究拠点を作らなければならない。それはバーチャルでもいいのです。いくつかの大学との連携でもいいです。今、東京大学、慶應義塾大学、東京海洋大学などいくつかの大学で、文部科学省のお金をもらいながら細々と外国人研究者に紹介をしているのですが、その規模が小さいのです。その活動をもっと大きくして、たくさんの留学生が来たいと思うよう、外からもはっきり見える研究組織の形にしなければいけません。みちびきの研究者がいろんな国から出てこないといけない訳です。その人たちが自国にやがて戻って事業化に乗りだす、そうしないと利用は拡がらないですから。
── ヨーロッパのGalileoや中国のBeiDouなど、他の測位衛星にはないみちびきの利点を知ってもらわなくてはならないですね。
中須賀 みちびきには良いところがいっぱいあります。ただそれをプロモーションするのがまだ上手くいっていない。CLAS(センチメータ級測位補強サービス)の精密測位などは相当おもしろいです。
平時にQ-ANPIを使うビジネスがあってもいい
── 衛星安否確認サービス(Q-ANPI)機能はいかがですか。
中須賀 衛星安否確認はいいと思います。これは世界の測位衛星にもない機能なので有効活用すべきです。災害時に使うのはいいと思いますが、平時においても、上手く活用されるといいですね。平時に使ってないと、いざという時に使えないことがありますから。平時の安全確保みたいなことだけでなく、もっとエンターテインメント的な利用があっていいと思っています。もっと楽しく考えて、ニーズを掘り起こしてもいい。
── もっとたくさんの人に利用法を考えてもらいたいですね。
中須賀 大事なのは私たちが考えるのではなく、考える人を外から入れるということなのです。私も、超小型衛星の戦略は何かとたずねられると、「宇宙で何かをやろうと考える人の数を100倍にしましょう」といつも言っています。その人たちが新しい利用法を考えてくれます。彼らがこっちを向いてくれなければいけません。私たちの仕事はそのために敷居を下げることです。それで初めて、彼らはこっちを向いてくれます。つまり、それと同じようなことをみちびきでもしなくてはいけません。
よく言われていますが、2020年の東京オリンピックでは、日本がGNSSのショーケースになるべきだと思っています。みちびきがあるから都市や交通システムがこんなふうになる。会場への誘導もこんなに便利になる。これが将来型の社会インフラなのだという強烈なインパクトを世界から来た人に与えられるかどうかですね。そのためにオールジャパン体制で臨む必要があります
── ありがとうございました。
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