国土地理院 辻 宏道:国土の状況を迅速に把握・共有するには衛星測量が欠かせない
国土交通省 国土地理院 測地観測センター 課長 辻 宏道
位置情報を活用するために不可欠な地図の作成に必要な作業が「測量」ですが、日本では測位衛星を活用した衛星測量が主流となっています。今回のインタビューでは、衛星測量に欠かせない「電子基準点」を管理・運用する国土地理院 測地観測センター 衛星測地課の辻 宏道課長に話を伺いました。
衛星で国土を測る電子基準点
── まず最初に、測地観測センターの業務内容について教えてください。
辻 国土地理院というと、皆さんは地図を作っている役所だと理解されていると思いますが、地図を作るため、正確な経緯度と高さが設定されている「基準点」という位置の基準を提供するのも仕事の1つです。測量をされる方は、基準点の経緯度と高さを基準にして、新しく測りたい場所の位置を算出します。
測地観測センターは、GPSなどの測位衛星の連続観測を行う基準点である「電子基準点」の運用を行っています。また、電子基準点以外にも、高さの基準となる平均海面の観測など地球を測ること(測地)に関する連続観測と、施設の維持管理、さらにはそうして集めたデータをさまざまな分野で活用していただくために提供という役割を担っています。
── 電子基準点とはどのようなものなのか、もう少し詳しく教えてください。
辻 電子基準点の運用が始まったのは1996年ですが、役割は大きく2つあります。1つめは、公共測量のための位置基準を決めるということです。測量というのは基準点からの相対的な位置関係を測って新しい場所の位置を出すという仕組みになっています。電子基準点では、GPSを観測することで、原点に相当するつくばの電子基準点との相対的な位置関係から経緯度や高さを算出しており、測地観測センターのウェブサイト上で、衛星の観測データをすべて公開し、測量をする方はどなたでも利用できます。
もう1つの重要な役割が、毎日測量を繰り返すことで基準点がどのように動いているか、地殻変動を観測することです。地面の動きを毎日把握するということは地震の調査研究にとても重要で、政府の地震調査委員会にデータを提供しています。もともとGPSの連続観測は、地殻変動の常時観測を目的として1993年に東海地域に100点の連続観測点を置くところから始まったのですが、その後1995年の兵庫県南部地震の分析にも大いに役立ったこともあり、最終的には電子基準点が全国約1,300カ所に整備されました。
マルチGNSS対応で広範囲で安定した測位を可能に
── GPSを使った測量というのは、従来の測量とどう違うのでしょうか。
辻 測量というのは水平方向を測る測量と、高さを測る測量で系統が分かれているのですが、GPSで大きく変わったのは前者です。従来の測量は山の上など見通しの良いところに設置されている三角点間の距離や角度を測定して測っていたのですが、人の目で覗いたりレーザー光を使ったりと、三角点が見通せる必要がありました。そのために山頂にある三角点の上に隣りの三角点を見通すための高いやぐらを組んだりと、大変な手間がかかりましたが、雨が降ったり霧が出たりで視界が悪くなると測量はできませんでした。
GPS測量では電波を用いますので天候や見通しに関わらず測量が可能になるため、大幅に作業がラクになります。また、精度についても、10kmの距離を1センチの精度で測るのに1時間程度、現地に滞在すればできるようになりました。2002年の測量法改正で日本の経緯度基準がGPSに沿ったものに改められたこともあり、GPSが測量の主流になったのです。高さを測る測量ではまだ従来の水準測量という方法が主流ですが、こちらも最近は衛星が使えるようになりつつあります。
── 電子基準点ではもともとGPSの電波を受信していましたが、他の測位衛星システムの電波を受信する電子基準点網が構築された経緯を教えてください。
辻 電子基準点が整備されると共に、電子基準点の情報をもとに作成した補正データを利用して、1点の測位だけで正確な測量を行う「ネットワーク型リアルタイムキネマティック測位(RTK)」というサービスが生まれました。民間でこのシステムを利用してリアルタイム測位をしている方から、「GPS衛星だけでは場所や時間帯によって見える数が少なく測量ができないことがあり、もっと安定的にリアルタイム測位ができるようGPS以外の衛星も使いたい」という要望が出てきました。そこで、ロシアのGLONASSなどGPS以外の測位衛星システムに着目し、電子基準点をGPS以外の測位衛星にも対応させるマルチGNSS化に着手しました。
当初は2010年度から徐々に対応させる計画を進めていたのですが、2011年の東日本大震災で被災地復興のためにマルチGNSS基盤の整備を急ぐということになり、2013年には全点でGPSに加えてロシアのGLONASS、そして日本のみちびきに対応した電子基準点網の整備が完了しました。複数の衛星に対応するだけでなく、GPSからもL5信号を取り出すなど、測位の高度化に対応できるようになっています。
4機体制では都市部での測位精度の安定に期待
── 電子基準点が対応したことで、みちびきの利用は進んでいるのでしょうか。
辻 すでにみちびきのデータを使った補強情報を提供している企業が1社あります。また、2013年に行われた公共測量作業規程の準則の改正で、みちびきが公共測量にも活用できるようになりました。みちびきのデータを含めて解析できるソフトウェアも市販され始めました。
今までの衛星測位はアメリカやロシアの衛星に頼っていましたが、日本の衛星が出てきて、スペックも明確で将来の運用も国が保証するものが実用化されているというのは、利用者にとって安心して使える、うれしいことだと思っています。今後4機体制になって、常に(天頂に近い)準天頂にいることになれば都市部でも安定して測位ができるようになるでしょう。
測位補強については、どのようなサービスが提供されるかもう少し明確になった後、測量に使えるかどうかを検証していくことになると思います。電子基準点のデータも使っていただけると聞いておりますので、ぜひ活用できればと期待しています。
── ありがとうございました。
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