ナビコムアビエーション 玉中宏明:ヘリコプターの測位でもSBASは重要になり得る
ナビコムアビエーション株式会社 代表取締役社長 玉中宏明
大規模災害時の救援活動などで重要性を増しているヘリコプターには、カーナビと同じように地図を表示するナビゲーション装置が使われています。ヘリコプターのナビシステムの現状がどうなっているのか、そして今後、衛星測位の進展にどのように対応していくのかについて、ナビコムアビエーション株式会社の玉中宏明社長に伺いました。
「衛星測位があれば何もいらない」
── ナビコムアビエーションが販売している地図情報表示装置(マップ装置)は、いわばカーナビの航空機版といってよい製品ですが、この製品が開発された経緯をお聞かせください。
玉中 開発を始めたのはもう20年ほど前になります。当時、私はパイオニアの子会社のパイオニアナビコムという会社に所属して、GPSやカーナビをベースにした業務用の機器開発をやっておりました。一方、学生時代からグライダーをやっていましたし、自分で小型機も操縦します。もう1,600時間くらい飛んでいますから、アマチュアでは操縦経験は多い方だと思います。その私がGPSを知った時にものすごいインパクトを受けました。
それまでの小型機の航法は、地面を見ながら飛ぶ「地文航法」とか、飛んでいる方向や風向きから目的地までの航路を推測して飛ぶ「推測航法」くらいしかありませんでした。しかしGPSがあれば、もうマグネットコンパスすらいらない。目的地の緯度・経度さえ入力すれば、目的地は何度の方向にあり、何マイル離れていて、あと何分で到着するか、全部出てくるわけです。TACANとかVORといったいろいろな航空保安無線施設もいっさい要らない。
── こんな良いものはないと...
玉中 これが航空の世界で発展しないわけがないと思いました。しかし、空を飛ぶにはカーナビの地図の情報だけでは足りません。パイロットには航空図が必要ですから、飛行場、ヘリポート、航空保安無線施設などを入れようと考えました。あと、大事なのは空域です。管制圏の中に入る場合は管制官の許可が必要ですから、そういうことが自動的に分かるのは、非常に重要なのです。そういうものを入れた特別の地図をつくって自分でも飛んでみて、これは便利だということで、この業界に参入したわけです。
航空機用のGPSには厳しい基準が
── 航空機用の装置には承認が必要ですね。
玉中 航空法第10条に規定があります。安全基準に適合したことを国土交通省が認める制度があり、型式承認とか仕様承認があります。重要装備品は型式承認が必要ですが、私たちの装置はそれより少しランクの低い装備品とされ、仕様承認という形で取得することができましたが、2年ほどかかりました。筐体(外側の箱)もつくり替え、振動とか電磁干渉とか全部クリアしたものを製作しました。
── カーナビのGPS装置を使ったのですか。
玉中 米国製の航空機用のGPS装置を使いました。航空機用の場合、たとえばFDE(Fault Detection and Exclusion)と言いますが、不正確なデータを出していると思われる衛星を検出して排除した上で測位を続ける機能が必要です。また、GPS衛星の配置が悪いと測位精度が基準を満たさない時間帯ができることがあります。それを予測して、その時間に警告を出す機能なども必要とされます。
── カーナビよりかなり厳しいわけですね。
玉中 厳しいですね。
救援ヘリがどこにいるかを地上局で監視
── ナビシステムは、官公庁や報道用のヘリで普及が進んだようですが...
玉中 警察庁のヘリや総務省消防庁の消防・防災ヘリなどに購入していただきました。たとえば山岳でヘリが遭難者を救助するには、山の尾根とか、川沿いを飛びますから、どうしても地図が必要になります。当時は警察のヘリも道路地図を持って飛んでいるような状況でしたから、使っていただいているうちに、交差点名が入っていないと困るとか、もっと詳細な地図がほしいといったリクエストをもらい、それに応えて地図を改良していきました。
── 現在の会社を起業されたのは、いつ頃ですか。
玉中 2006年に事業をそのまま引き継いで、この会社を設立しました。地図を新しくして、2012年に独自のマップ装置を作り、仕様承認も取りました。
── 御社の製品には、マップ装置のほかに、ヘリの位置、航跡などを地上局のモニターに表示する「動態管理システム」があります。これについて教えてください。
玉中 GPSマップ装置とイリジウム衛星通信装置を組み合わせて、GPSで測位した情報をイリジウム経由で地上のネットワークにダウンリンクしています。
── このシステムはJAXAのD-NET(災害救援航空機情報共有ネットワーク)で採用され、現在、総務省消防庁が運用している消防・防災ヘリの「集中管理型動態管理システム」に生かされていますね。
玉中 2011年の東日本大震災でヘリの存在がいかに大切かを再認識しました。そこで、JAXAのお手伝いをさせていただいた次第です。
SBASに対応する可能性も
── 2020年以降、みちびきの静止衛星からSBAS(Satellite-Based Augmentation System、衛星航法補強システム)信号を送ることになっています。将来、御社の製品がSBAS対応になる可能性はありますか。
玉中 航空機用の装置はカーナビなどに比べて市場規模が非常に小さく、SBAS対応の計器飛行が可能な装置を開発する技術的なハードルもかなり高いので、今、大風呂敷を広げることはできませんが、可能性がないわけではありません。SBASは非常に重要な存在だと思っています。
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