シチズンTIC 斎藤貴道:国産衛星で正確な時刻を受けることが、安心につながる
シチズンTIC株式会社 東京第一営業部 部長 斎藤貴道
測位衛星から発信される信号には正確な時刻情報が含まれており、電波を受信することでさまざまな機器の「時刻合わせ」をすることが可能です。今回は、GPSに加えてみちびきにも対応し、ネットワーク上の機器に正確な時刻を提供するタイムサーバーを発売したシチズンTIC株式会社の斎藤貴道氏に話を伺いました。
「正確な時刻を求められる時計」に特化したシステムを提供
── まず、御社の事業内容と主要製品についてお話いただけますか。
斎藤 私どもが扱っている主要製品は、「設備時計」です。これは、建物や施設の中のすべての時計をぴったり合わせることができる「親子時計」というシステムのことです。
建物の中に「親時計」を1つ置き、各部屋の「子時計」と配線で接続し、親時計から時刻信号を配信します。それで親時計につながった施設内のすべての子時計の時刻をぴったり合わせられます。親時計は、昔は振り子式でしたが、今は水晶式の精度の高いものを使い、人工衛星や標準電波(JJY)*などで正確な時刻に合わせます。そこから30秒に1回、直流のパルスを流して子時計のモーターを動かし、全部の時計がきっちり同じ時刻を指すのです。
*日本標準時を広く全国に知らせるため、情報通信研究機構(NICT)が運用している電波。福島県と九州の2カ所の標準電波送信所から送信している。
よく使われるのは、学校や鉄道の駅です。学校は、各教室の時計が合っていないと、たとえば試験の時に不公平が出てしまったりします。鉄道も、正確な運行のためには当然、正確な時計が欠かせません。そこから派生して、公園にあるポールの上に乗っている大時計とか、モニュメント時計とか、駅の広場にあるからくり時計とか、そういった屋外に設置する大きな時計を扱うことも主要な事業になりました。皆さんがご存じのものでは、代々木にあるNTTドコモビルのてっぺんにある時計で、これは直径が15mもあります。
── 単に「大きな時計」というだけでなく、正確さが求められる時計ということですね。
斎藤 今は腕時計や一般家庭の室内にある時計も、ほとんどがラジオやJJYに対応しています。設備時計もここ3年ほど、GPS対応をセールスポイントにしてきましたが、これをみちびきにも対応させ、さらに広げようとしているところです。
監視カメラや工場などで、セキュリティと正確な時刻を両立
── では「タイムサーバー」は、いったい何に時刻を提供するのでしょうか。
斎藤 非常にざっくりとした言い方をすれば、タイムサーバーは、ネットワーク上にあるコンピューターや機器の時計を合わせる機械です。タイムサーバーは常に正確な時刻を保持していて、ネットワーク上の各機器が、タイムサーバーに決められた通信フォーマット、NTP(Network Time Protocol)やSNTP(Simple Network Time Protocol)と呼ばれるプロトコル**を使って時刻を取得し、ネットワーク機器内部の時計を合わせます。
**NTPは、各機器の時計を正しい時刻に同期させるため、正しい時刻情報を配信しているNTPサーバ(タイムサーバー)にネットワークを通じて問い合わせる手順を定義したプロトコルのこと。その簡易版がSNTP。
── ネットワーク経由でコンピューターの時刻を合わせるサービスでは、NICT(情報通信研究機構)が日本標準時に直結した公開NTPサーバーを提供しています。わざわざ組織内にタイムサーバーを置くメリットは、遅延がないことでしょうか。
斎藤 遅延がないというより、セキュリティ上の理由で「インターネットに接続したくない」ネットワークだからです。工場などのネットワークでも使われますが、一番多いのは監視カメラです。監視カメラをインターネットに接続すると中の様子が筒抜けになる危険がありますが、それと同時に「時刻は正確に合わせておきたい」というニーズもとても強いのです。実際、数年前には監視カメラの時刻がずれていた事が原因で誤認逮捕が起きて、話題になった例もありました。録画データの正確性・信頼性を担保するには、正確な時刻がとても大切なのです。
── その時刻合わせに、今は人工衛星の電波を使っているのですか。
斎藤 時刻合わせには、衛星のほかにJJYやFMラジオ、地上波デジタル放送などの電波を使う方式があります。ただ、特に都市部ではFMや地上波デジタルを受信できない場所があったり、長波で日本全国カバーしているJJYも、福島と九州の2カ所ある送信所のどちらからも距離が遠い近畿地区では受信しづらいといった問題がありました。
私どもが扱っている設備時計は、「設備」ですから、腕時計や置き時計のように「受信できなければ移動してください」とは言えないわけです。その点、衛星なら場所を問わず受信でき、精度も高いので、私たちは衛星方式をお勧めしています。
「国産で、正確な時刻が手に入る」ことに意義がある
── 御社が今年春に発売したタイムサーバーは、みちびき対応とPoE(Power over Ethernet)給電***が特徴です。新たにみちびきにも対応された理由は何かあるのですか。
***イーサネットの通信ケーブルを利用して、接続する対応機器(無線アクセスポイント、ネットワークカメラ、IP電話など)に電力を供給する技術。
斎藤 部品メーカーからみちびき対応の受信モジュールが出てきたこと。そして、アンテナを屋内に設置したいというお客様の要望に対応するためです。私たちはできれば屋外にアンテナを設置してほしいのですが、既存の建物に壁を貫通させたりすると費用がかかって難しく、室内の窓際などに設置したいという要望が多く寄せられます。それには、常に高い場所にあるみちびきに対応すれば受信環境が改善します。今後、4機体制になればさらによくなるのではないかと期待しています。
── 常時高いところにいる衛星を使えば、設置場所の自由度が上がるということですね。
斎藤 もう1つ理由を挙げると、みちびきが国産の衛星であることです。設備時計やタイムサーバーを導入する際、どの方式で時刻合わせをするかという話をお客様とする時、私たちは精度の高い衛星方式をお勧めしています。そうした時、お客様から「公共性の非常に高い施設に導入する時計の時刻が、アメリカのGPS衛星を基準にしているのはいかがなものか」と言われて、JJYに決まったことも過去にありました。国産のみちびき対応であれば、そういう方にも国産の信号を基準にした精度の良い時計として勧められるので、非常にメリットとなります。2018年から4機体制になり、24時間ずっと国産の信号に対応できるのは安心感があります。無償で正確な時間が手に入る、しかも国産で、というのはすごいと思います。
── PoE給電に対応された理由は何でしょうか。
斎藤 監視カメラのネットワークにはPoE対応の機器が多く、以前から「PoE対応ならそのままハブに接続できるのに」という声があって、今回対応しました。屋外などコンセントのない場所でも簡単に配置できるので、今まで以上に設置がしやすくなります。
── では最後に、今後の展望や測位衛星に期待する点をお話しください。
斎藤 みちびきとPoE給電に対応して価格が10万円を切ったことで、小規模事業者の方でも導入しやすくなりました。これまでは、タイムサーバーを使っていないお客様のところは、定期的に技術者が出向いて時計合わせをすることもあったので、弊社にとっても省力化につながりました。
あとは屋内での時刻取得が課題です。地下や屋内でも奥まったところは、GPSもJJYも受信できず、地デジの配線をしてそこから時刻情報を取ったりしています。でも、これは衛星方式よりも精度が低く、今後、地上補完システムの整備が進み、地下でも衛星互換の電波で正確な時刻が得られるようになればと期待しています。
── ありがとうございました。
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