経済産業省 武藤寿彦:企業を中心にみちびきのビジネスモデルを構築する
経済産業省 製造産業局 宇宙産業室 室長 武藤寿彦
今回は、経済産業省がみちびきの開発に関わってきた経緯や、みちびき4機体制に向けて求められる日本の宇宙産業の取り組み、今後の海外展開の可能性などについて、同省宇宙産業室の武藤寿彦室長に話していただきました。
ユーザーの広がりが、宇宙産業が成長する起爆剤
── みちびきに関する経済産業省の取り組みの経緯について、お話しください。
武藤 宇宙産業の振興という観点から、経済産業省はこれまで機器産業における衛星開発を中心に支援してきました。実証機みちびきの開発においても参画しています。みちびきの機器は、日本においては全く新しい機器であり、各省の開発でさまざまな技術的課題を克服する必要がありました。こうした取り組みは日本の産業が測位衛星の技術を取得し、育てていく基盤となったと思います。また、同じタイプの衛星を何機かまとまって製造するという点においても、一つの新しい取り組みになっているのではないかと思います。
さらに私たちは、ユーザーとなる幅広い産業に測位技術を使っていただき、これを産業振興に結び付けるための支援もしてきました。2011~12年にかけて、経済産業省で「準天頂衛星を利用した新産業創出研究会」を開催し、ここでみちびきを基盤とした産業の高度化とか、国際競争力強化のための戦略などを検討しました。これを受けてその後、実証事業を支援してきたところです。
── 新産業創出研究会について、もう少しお話を伺いたいと思います。
武藤 この研究会はユーザー側の産業、そして、これまで宇宙にあまり関係がなかった、あるいは関心なかった産業の方々に参加していただいたところに大きな意味があったのではないかと思います。自動車や建設機械を始め、幅広い産業界の人たちに参加していただき、検討した結果を報告書にまとめました。こうした検討の中で、宇宙にいろいろな分野の産業が参画するという流れができてきたと思います。
── ユーザーコミュニティが大事だということですね。
武藤 まさにそれが重要だと思います。海外を見ても、やはりユーザーコミュニティをしっかり作って取り組んでいます。新産業創出研究会の一つの成果が、昨年設立された高精度衛星測位サービス利用促進協議会(QBIC)に結実していったと思っています。ここには約200社が集まっていますが、そこで企業からお話を伺うと、「宇宙の情報をこういう地上の情報と組み合わせたら、こんなことができるのではないか」といった新しいアイデアがどんどん出てきているように思います。
こうしたユーザーが広がることで、宇宙機器産業自体についても成長が促進されることが期待できます。衛星測位サービスの可能性は本当に広いものだと思います。測位衛星だけでなく、G空間全体の数字ではありますが、最近の試算では2020年度には最大で市場規模が約60兆円、という試算もあります。現在、日本は労働力が減っていく段階に入っています。そうした中で、これからの社会問題の解決という点でも、測位衛星を利用した生産性の向上が期待されますし、そうした活用が市場を拡大するのではないでしょうか。
将来のビジネスにつなげるには、実証が大事
── 経済産業省が支援されている実証事業について、お聞かせください。
武藤 将来のビジネスにつなげていくには実証が大事であると私たちは考えています。昨年は国内での事業について実証事業を公募しました。結果、個人ユーザーが衛星測位技術をどのように使えるか、という観点での実証実験をSPACとソフトバンクで行っていただきました。この事業は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)にも協力いただいて、種子島で行うことができました。
一般の方を中心に400人くらいの方にご参加いただいて、宝探しのようなゲーム感覚で測位システムを使ってもらいました。参加された方には好評でしたが、同時にいろいろとこれから対処していかなければいけない課題も分かりました。また、こうしたシステムは、東京オリンピックでの道案内などにも有効なツールになってくるのではないかと期待しています。
── みちびきの4機体制が整備される時期を考えると、あまり時間がないですね。
武藤 そうですね。利用実証を行い、それに合わせて制度やビジネスモデルを調整し、サービスを開始すると考えると、それぞれを1年ずつやっても3年かかるわけですから、残りの時間はほとんどないですね。ですから、案外急いで実証していかないといけないことだと思います。
── 次の実証事業は何を目指すものになりますか。
武藤 今年は、海外での展開を考えたいと思っています。日本の企業がみちびきを活用したビジネスを拡大していくには、海外でのビジネスに繋げていくことが必要です。みちびきが4機そろう前に、そういったビジネスモデルがちゃんとできてくるということが必要だと思っています。
── アジア地域でのビジネスの市場規模はかなり大きいとお考えですか。
武藤 アジアは人口が世界のおよそ半分で、約40億人となっている上、これからも経済が発展していく有望なマーケットです。みちびきのシステムが確立すれば、地上でこれを利用したビジネスチャンスが広がっていくでしょう。みちびきを日本国内だけで使うだけではどうしても成長に限界があります。海外でも上手く使っていただき、市場を獲得できるようになることを期待しています。
衛星の機能をうまく組み合わせたアプリ開発が重要
── 海外では、どのような形で使われていくとお考えですか。
武藤 みちびきの得意分野である補強信号ですとか、メッセージ機能とか、そういったものを上手く組み合わせていくことが重要だと思っています。そのためには、地上側でそれを上手く使えるアプリケーションの開発が重要になってくる訳で、私たちはそのために実証実験をやっていかなければいけないと思っています。どういうビジネスモデルを考えるのかという点については、企業の皆さまに、国よりも一歩も二歩も先んじるような仕組みを考えていただきたいと思っています。
── 海外の企業と競争しながら、海外でビジネスを展開するための技術を、日本企業はすでに持っているでしょうか。
武藤 自動車、地図、建設機械を始め、日本には強い分野がいくつもあります。それらに上手く合致していく仕組みを作れれば、利用の幅は広がるものだと思います。宇宙と地上のつなぎ方というところでは、まだ実証していくべきことが沢山ありますが、そういった部分を残された時間で効果的に行っていくことが重要です。
── みちびきの利用で、特に注目されている分野はありますか。
武藤 あくまで私見ですが、やはり測位精度が高くなるという点で、個人用携帯のアプリケーションなどの分野では、新しいものが広がる可能性があるのではないでしょうか。そうした新しい分野とは別に、今あるシステムについて、みちびきを活用したシステムで置き換え、効率的にするかという方向性もあると思います。たとえば、今のシステムでは人手がかかりすぎる、あるいは設備費がかさむといった場合に、みちびきの利用が解決策になるかもしれません。また、みちびきは位置情報だけでなく、正確な時間も提供しますから、時間を正確に計らなければいけないけれども、大がかりな時計を搭載することはできないような機器にも応用できると思います。
── ありがとうございました。
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