セイワ 田邉正明:自社設計・海外調達生産による安価で高機能なカーナビを提供
株式会社セイワ 代表取締役社長 田邉正明
2011年にカーナビゲーション市場に参入した株式会社セイワは、その3年後、2014年4月に発売した製品からいち早くみちびきに対応しました。競争の激しいカーナビ市場でフットワーク軽く開発を進められる秘訣は、いったいどこにあるのか。株式会社セイワの田邉正明社長に話を聞きました。
自社設計でカスタマイズ対応可能な製品を生産
── まず最初に御社の事業についてお聞かせください。
田邉 私どもセイワは創業以来50年間ずっと、車内アクセサリを中心とするカー用品を企画・製造・販売してきました。2011年に、「海外メーカーと組んで日本市場向け製品を作る」というコンセプトで、カーナビゲーション市場へ参入しました。当初は韓国メーカーのOEM(original equipment manufacturer、他社ブランド商品の製造)からスタートしましたが、現在は製品企画は自社で行い、生産のみを韓国、中国、台湾などのメーカーに委託しています。
── 御社が取り扱うのは、内蔵型のカーナビでなく、後から取り付けるPND(Portable Navigation Device)と呼ばれるタイプですよね。
田邉 イエローハット、オートバックスといった大手チェーンのカー用品店がメインの販売先です。PNDメーカーは国内、海外とも何社かあって、やはり価格で評価されるのでコストダウンを優先すると、他社と差別化を図るのは難しいのですが、同じ価格帯の製品の中で機能を充実させ、クレームが少ないという点を評価につなげていくようにしています。
── 具体的にはどんなことをされているのですか。
田邉 まず部品の一点一点まで吟味します。基盤も、安易に汎用ボードや安いパーツを使わず、オリジナルの基盤を開発し、300~400点あるパーツも担当者が品質を一つずつチェックします。測位チップも、ユーブロックス製の最新のものを使用しています。
次に販売店の要望に合わせて、細かく仕様をカスタマイズします。たとえば画面サイズを8インチにするならテレビはワンセグではなくてフルセグがいい、といった要望にきめ細かく対応し、最初は受注生産に近い形で作った製品を、小売店のお勧め商品として売っていただいたりします。
位置情報の正確さはナビの正確さに直結
── PIXYDAシリーズは昨年からみちびきに対応していますが、そこに至る経緯を教えてください。
田邉 測位チップを開発しているユーブロックスが、みちびきに対応したのがきっかけです。日本の市場は位置の精度をとても重視していますし、単にナビソフトを入れただけのスマートフォンやタブレットとは違う、カーナビ本来の良さを引き出せると思いました。
── みちびきに対応したことでお客様の反応はどうですか。
田邉 GPSに加え日本の真上を通過するみちびきに対応したことにより、ビル街や山岳部などの受信しにくい場所での測位率が向上しております。測位精度が高い事はカーナビの基本性能として絶対的な条件となりますので、みちびき非搭載のナビと比べたら大きな差別化となり、ご好評をいただいております。
この価格帯のカーナビはジャイロセンサが入っておらず、衛星の位置情報の正確さはそのままナビの正確さにつながります。私どもの製品はメインボードと測位用の基盤を分離してシールドすることで、測位チップの感度が安定するように設計しています。
目的地を設定してルート計算している時なら、トンネル内などでも速度をもとに現在位置を計算して表示する「トンネルアシスト」という機能を使えます。ただ、トンネル内やビル陰、山間部などで、時々電波が受信できなくて位置が飛ぶのは、発生頻度と価格のバランスを考えるとある程度、仕方がない部分もあるとは思います。
── 価格帯に応じた設計の考え方というわけですね。
田邉 たしかにジャイロを付けてほしいという要望もありますが、それで本体価格が上がれば、価格が左右する市場では売れなくなってしまいます。どうしてもジャイロがないと位置が取れない状況はさほど多くないし、設計やソフトウェアで上手くサポートできるようにカバーしています。測位チップに合わせたオリジナルの基盤とアンテナを開発し、その配置も実車で走行試験をして決めました。製造も、スマートフォン用や船舶用の測位アンテナを製造している工場を選んでいます。
強みは、アクセサリで培った国外生産の実績とノウハウ
── 自社設計で、部品も吟味するというディテールへのこだわりは、御社のものづくりに対する姿勢なのでしょうか。
田邉 常にそういうスタンスだと、価格が折り合わなくなってしまうこともあります。カーナビに関しては後発なので、単に安いものを海外メーカーから調達するだけでは他社と同じになってしまうし、高価な機能を入れただけでは、大手メーカーの商品には勝てません。現在のPIXYDAは、大手メーカー並みの設計やパーツで、その半分ぐらいの価格でできていると思います。
それは日本で企画と製品管理をして、調達と製造は中国や韓国などの海外を利用するという、カーアクセサリでずっと培ってき実績とノウハウが強みになっています。付属品を取り付けるアダプタやDC電源は、もともとカーアクセサリでも扱っていたパーツですから。
── 今後は海外展開も考えているのですか?
田邉 カーナビの場合、ネックになるのは地図です。たとえば中国では軍事的な理由で地図の管理がものすごく厳しいので、現地の事情を調査しているところです。現在の製品をそのまま持って行けるわけではなく、そんなに簡単ではないですね。
── では最後に、みちびきに対する期待をお聞かせください。
みちびきが4機体制になって24時間利用できれば、位置情報の精度が高くなり、ジャイロなしでも高い精度でやっていけるでしょう。PNDの市場自体は徐々に縮小していますが、「電源につなげば、手軽にナビゲーションでき、テレビも見られる」というメリットがあればPNDがなくなることはありません。低価格でコストパフォーマンスがよい製品をつくることで、生き残っていきたいと思っています。
── ありがとうございました。
※所属・肩書はインタビュー時のものです。
-
2017年03月27日
NICT門脇直人:みちびきの通信機能の使命は、重要な情報を確実に伝えること
-
2016年12月19日
JIPDEC坂下哲也:身近なアイデアを実現すれば、みちびきはもっと便利になる
-
2016年11月01日
ゼンリン竹川道郎:地図情報は、自動運転を支援する“第2のセンサー”
-
2016年09月28日
科学警察研究所 原田 豊:防犯情報を地図に記録する『聞き書きマップ』を推進
-
2016年08月22日
防衛大学校 浪江宏宗:有益なシステムになるよう専門的見地から関わりたい
-
2016年06月06日
慶應大学 神武直彦:位置情報が様々なイノベーション創出に貢献する社会を実現したい
-
2016年04月04日
海上保安庁 石川直史:衛星測位と音響測距で海底の地殻変動を観測
-
2016年03月28日
ナビコムアビエーション 玉中宏明:ヘリコプターの測位でもSBASは重要になり得る
-
2016年03月14日
セイコーウオッチ 千田淳司:時計の3要素を満たすため、みちびき対応は必然だった
-
2016年01月07日
日本大学 藤村和夫:自動運転は、立場により考え方が違うからこそ法整備が必要
-
2016年01月03日
日本宇宙フォーラム 吉冨 進:アジア・オセアニアの重要インフラとして定着してほしい
-
2015年11月05日
東京海洋大学 久保信明:アカデミズムの立場からみちびきを浸透させたい
-
2015年08月19日
横浜国立大学 高橋冨士信:孤軍奮闘のみちびきをスマートフォンから見守る
-
2015年08月06日
ニコン 小宮山 桂/山野泰照:位置情報は撮影した画像の楽しみ方を拡げてくれる
-
2015年07月27日
電子航法研究所 坂井丈泰:高い測位精度を実現する信号として普及を支援していきたい
-
2015年07月14日
シチズンTIC 斎藤貴道:国産衛星で正確な時刻を受けることが、安心につながる
-
2015年07月07日
国土地理院 辻 宏道:国土の状況を迅速に把握・共有するには衛星測量が欠かせない
-
2015年03月23日
測位衛星技術 鳥本秀幸:みちびきに最も必要な事は、ユーザー基盤の創造
-
2015年02月27日
ヤマハ発動機 坂本 修:衛星測位の信頼性向上で、無人ヘリのシステム設計も変わる
-
2015年01月13日
アイサンテクノロジー 細井幹広:測位精度の向上で、誰もが高度空間情報を使える社会を目指す
-
2014年12月22日
大林組 松田 隆:衛星測位の即時性を、施工管理や災害時の避難誘導に役立てる
-
2014年12月01日
パスコ 坂下裕明:高精度の衛星測位を活用し、より良い測位を安く提供する
-
2014年10月21日
測位航法学会 安田明生:世界トップレベルの衛星測位技術者の養成に貢献する
-
2014年09月16日
セイコーエプソン 森山佳行:ポジショニングをコア技術として、測位精度向上に期待する
-
2014年07月01日
経済産業省 武藤寿彦:企業を中心にみちびきのビジネスモデルを構築する
-
2014年05月23日
日本無線 脇 友博:みちびき対応の純国産ICチップを積極的に提供する
-
2014年04月16日
東京大学 中須賀真一:将来型の社会インフラで社会をどう変えるか検討する
-
2014年03月03日
SPAC 中島 務:民間企業によるみちびきの利用を促進し、普及に貢献する
-
2014年02月03日
JAXA 平林 毅:初号機の技術をさらに発展させ、みちびきを支援する
-
2014年01月07日
内閣府 野村栄悟:高精度の測位性能を活かし、国内外で戦略的な利用拡大を目指す