内閣府 野村栄悟:高精度の測位性能を活かし、国内外で戦略的な利用拡大を目指す
内閣府 宇宙戦略室 参事官 野村栄悟
2018年度には4機体制でのサービスを開始するみちびき。このシステムに対応した受信機の開発や実証実験の実施などが積極的に進められており、普及機の製品化も始まっています。これら利用拡大に向けた取組の陣頭指揮をとっているのが、内閣府の宇宙戦略室です。みちびきの利点や優位性を踏まえ、今後どのように利用拡大を図っていくのかをみちびきを担当している野村栄悟参事官に伺いました。
2025年には全世界で市場規模約60兆円に
── 今日はみちびきについて、お話を伺いたいと思います。
野村 2013年1月に安倍総理を本部長とする宇宙開発戦略本部において新たな宇宙基本計画が決定されました。宇宙基本計画では、わが国の宇宙政策、宇宙の利用に関する基本的な方針として、宇宙利用の拡大と、自立性の確保の2つがうたわれています。
みちびきは、今後利用を進めていく最重要課題の1つとして、計画に挙げられ、2018年度を目途に、4機体制を整備することにしています。そして、国内でのシステムの利用の拡大、利便性の向上を図り、他の政策との連携、たとえば地理空間情報高度活用社会(G空間社会)の推進なども考えています。もちろん、日本だけではなくて海外への展開も推進します。また、技術的なところでは、次世代の衛星測位技術の研究開発が重要と考えています。
── 日本にとって、みちびきにはどのような意義があるのでしょうか。
野村 みちびきから出る信号を活用した機器、端末、あるいはサービスを提供していくことによって、産業の国際競争力を強化し、産業、生活、行政の高度化、効率化に資するものであると考えています。また、海外に対しては、アジア太平洋地域への貢献と日米協力があります。みちびきはGPSを最大限に活用し、連携して取り組んでいこうというシステムですから、米国との連携の強化につながるものと考えています。さらに、災害対応能力の向上にも資するものと考えています。みちびきは正確な測位ができる上に、メッセージの送信機能等も持っていますので、例えば災害発生時の情報提供が衛星経由で可能になります。
── 日本の産業の成長にとって大事な存在ですね。
野村 衛星測位に関する市場は大きく伸びていると認識しています。宇宙基本計画にも記載がありますが、2005年頃7兆円程度の規模であったところが、2025年には56兆円、つまり約60兆円に拡大する見込み、との分析もあります。市場規模は今後一層拡大していくものと考えています。
みちびきが整備されれば、非常に精度の高い測位ができますから、これまでの位置情報サービスのさらなる向上が可能になります。そこに、産業として大きなチャンスができてくるのではないでしょうか。
特にアジア太平洋地域への展開を図る
── みちびきの海外展開について、どのような展望をお持ちでしょうか。
野村 みちびきの軌道からして、特にアジア太平洋地域の展開を考えています。まずはみちびきだけでなく測位衛星システム全体の活用を広め、それと同時並行的にみちびきそれ自体の有用性を広く知っていただくことが重要です。そのため、東南アジアやオセアニアのいくつかの国々と会合を開き、みちびきの状況を紹介したり、利用拡大の取り組みについて議論を行ったりしているところです。
また、いくつかの国々とは、みちびきから出る信号を使った実証事業に取り組もうとしております。要は、測位衛星についての全体での大きな議論、みちびき独自の取り組みの紹介、各国との個別の検討という3つぐらいのレイヤーに分けて海外展開を図っていくことが重要と考えています。
── みちびきを利用する際の優位性、あるいは利点を、どのように説明されていますか。
野村 私どもの基本的な認識としては、GPSがこれだけ世の中で普及しているわけですから、この成果を最大源活用していくことが重要だと考えています。その意味ではまず米国とよく連携をしながら取り組んでいくことが重要だと認識しています。
世界には欧州のGalileo、ロシアのGLONASS、中国のBeiDou、インドのIRNSSがありますが、みちびきだけがGPSと同じ信号を出しており、GPSと一体となって活用でき、そこが強みだと思います。GPSと一体となって測位サービスをより良くしていこうという考え方は、アジア太平洋地域の多くの国にとっても受け入れやすいものであると理解しています。
── 今後の課題としては、どんなことがあるとお考えでしょうか。
野村 私どもでは2018年度に4機体制を実現したいと考えていますが、その段階から受信機やソフトウェアを開発したのでは遅いと考えています。2020年には東京オリンピックがありますが、それにも利用が間に合わなくなってしまいます。まずは、今飛んでいる初号機を使って利用実証を進めていき、いろいろな方にご協力をいただきながら、受信機やアプリケーションなどの開発を促していくことが、一番の課題と考えています。そのための、重要な取り組みの一つとして、ユーザー向けのサービス仕様をなるべく早く公開したいと思って準備を進めているところです。
── やはり2018年度までが大事だということになりますね。
野村 おっしゃるとおりです。それも、2018年度直前ではなく、今この瞬間から取り組んでいくことが非常に大事です。私どももできる限り早めに情報公開や、各方面との連携を図っていきたいと思っております。
2018年度実用化に向け、各省庁と連携
── 民間のユーザー以外に、各省庁とか地方自治体などでの利用は、どんな状況でしょうか。
野村 各省庁や自治体に使っていただくのはとても重要だと思っており、関係省庁などとよく連携をして2018年度の実用化に向けて頑張っていきたいと思っております。
すでに、いくつかの省庁にも取り組みをしていただいております。たとえば国内での位置の基準となる国土地理院の電子基準点はすべてがみちびきに対応済みとなっています。また、総務省は情報通信を所管されていますので、「G空間×ICT」といったお取り組みの中でみちびきの活用についてご検討していただいているところであると認識しています。
農林水産省ですと、農業の効率化、競争力強化等という観点から、無人での農機運転も含め、活用をご検討いただいているところと理解しています。経済産業省では産業界における実際的な活用の促進ということで、産業界と連携いただいているところと承知しております。また、防災関係省庁に対しては、災害・危機管理通報について意見交換をしながら活用の方策を探っていきたいと考えております。
── 準天頂衛星システムサービス株式会社には、どのような期待、あるいは注文をお持ちですか。
野村 準天頂衛星システムサービス株式会社には、いろいろとお願いをしているところです。まだ設立から1年も経っておりませんので、大変なこともあるかと思いますが、このみちびきで大事なことは、ものを作って納品すれば終わりではないということです。ものを作り、それを使ってサービスを提供することをお願いしているわけです。そういう意味で、良好なサービスをきちんと提供をしていただけるようにお願いしたいと思います。また、それと並行して、利用拡大の促進についても、しっかりと取り組んでいただきたいと考えております。 また、各省庁、産業界、あるいは個人のユーザーの方々の意見もしっかりとくみ取っていただければと思っております。
── ありがとうございました。
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