パスコ 坂下裕明:高精度の衛星測位を活用し、より良い測位を安く提供する
株式会社パスコ 研究開発本部 本部長 坂下裕明
私たちの生活を支える地図作りの基礎となる「測量」には、いまや衛星測位が欠かせません。高度な地理情報システム(GIS)を目指して電子化と高度化が進む地図整備に対して、みちびきが果たす役割について株式会社パスコ 研究開発本部の坂下裕明本部長にお話を伺いました。
みちびきにはGPS信号の補完・補強の両面で期待
── 人工衛星を使って取得した位置情報を分析・提供する会社と伺いましたが、具体的にどのような事業をされているのでしょうか。
坂下 昨年、創業60周年を迎えましたが、創業以来「測量」を事業の柱にしております。測量というのは地図のベースにあるもので、わが社では、測量の電子化と共に地図の情報化にも取り組んでいます。
日本で作成されている地図には何種類かあり、まずは5万分の1や2万5000分の1地形図という、これは領土、領海、地名を定めるための地図で、国土地理院が作成しています。わが社は国土地理院からの委託を受けて測量を行い、地図データを作成します。もう少し縮尺の細かい2500分の1、1000分の1、500分の1といった地図は、都市計画や固定資産税の徴収を行う自治体や、上下水道、ガス、電気、道路といったインフラの管理者などの方が基幹業務に活用しております。私たちは、測量を実施して、そういった地図の基になるデータを作成しています。
── では、その測量とみちびきの関わりについて教えてください。
坂下 測量業界で衛星測位が活用できるようになったというのは、大きな改革でした。測量というのは、特定の地点について「国家基準点」という国が整備した三角点を基準として「位置」を特定する作業で、かつては国家基準点か、「公共基準点」という市区町村が作っている参照点のいずれかの場所から「トラバース」といって線を引きながら長さを測り、もう1回戻して誤差を配分するということをせざるを得なかったのです。それが、衛星測位を使うことで「現場で座標が分かる」ようになりました。
現在の測量には、GPSのアンテナを車両の屋上に搭載したMMS(モービルマッピングシステム)を活用しているのですが、条件さえ良ければかなりの精度は実現できても、都心部ではビル陰などGPS測位には条件が悪い場所があって、そういう場所は結局、昔ながらの方法で測位する必要があります。また、北海道のような高緯度地域では、衛星の高度が低く、そもそも測位できる時間が非常に短かったりします。
みちびきが4機体制になれば、高精度の衛星測位ができる地点と時間帯が拡がると聞いていますので、上手く活用することで私たちのサービスのコストダウンにつながり、より良い測位を安く提供できます。それによって、市町村や民間企業などがより正確な地図を活用した事業展開をすることができます。みちびきによるGPSの補強と補完の両面について、大きな期待をしています。
「オープンデータ」など活用して高精度の地図が流通する仕組みを
── 精度が向上した測位データをGISで十分活用するには、GISに使用する地図も同程度の精度が必要ですが、そのためにどんなことに取り組んでおられますか。
坂下 サービスで使用する地図の整備は当然、重要ですが、そのためにはまず大もとになっている国、自治体、インフラ施設管理者などが作成している地図の精度が上がること、そして、それらが流通することが大事だと思っています。
2007年に地理空間情報活用推進基本法が制定されて、都市部の2500分の1地図については、市町村が作成した電子化された地図を国が集約し、国土地理院が公開するという流れができています。インターネット上のポータルサイトで提供される地図サービスもこれをベースにしており、このレベルでサービスできるものはどんどん始まっています。
ですが、数cmから数十cmの測位サービスを展開するための地図は、2500分の1ではまだまだ精度が足りず、たとえば車いすの自動制御をするようなサービスなら500分の1ぐらいの地図が必要になります。水道や道路の管理に使用している1000分の1や500分の1の地図は、現場にいくとまだまだ紙の地図が残っており、産官の連携などさまざまな工夫をしながら整備を進めていく必要があると思っています。
海外のGNSSと連携した世界標準の災危情報システムに期待
── みちびきの災危通報(災害・危機管理通報サービス)を利用した実証実験(RedRescueプロジェクト)に参加されていますが、これは御社の事業にとってどういう位置づけになるのでしょうか。
坂下 パスコはこれまで地方公共団体の防災計画や企業のBCP(事業継続計画)など防災や自然災害を意識したサービスを展開するなど、「事業を通じて、安心で豊かな社会システムの構築に貢献する」という企業理念のもと、事業を行っています。今回の実証実験もその延長で、慶應義塾大学大学院の神武直彦先生にご指導いただき、株式会社NTTデータなどと一緒に2009年よりその設計から実証実験まで行っています。
この実証実験では、「津波が来ます」「地震が発生しました」「噴火が発生しました」という情報をみちびきから配信します。テレビ、ラジオ、インターネットなどに代わるのではなく、あらゆる条件下の人に届くようさまざまな手段で情報を流す、その1つとして使えないかということです。
RedRescueプロジェクトの実験はすでに5、6回行っていて、私たちは災害のユースケース(Use Case)を想定して、実験計画のタイムラインを作る役割を担当しています。昨年、一昨年の実験では、東日本大震災時に地震発生から2時間ほどの間、日本気象協会が毎分発信し続けていた情報を活用して、「そこからどのような情報を抜粋して配信すれば上手に避難できるか」といったことを検討しました。
海外でも実験しているのですが、災危通報のメッセージ領域に海外まで含めて地区コードをうまく付けられるかという問題があります。ヨーロッパの測位衛星であるGalileoやEGNOSでも同様の実験をしているそうなので、神武先生には、RedRescueプロジェクトとヨーロッパの関係者の方々と協力して世界的な標準の検討をしようという呼びかけをしていただいており、検討が進んでいます。
実現すれば、複数のGNSSがそれぞれ得意な地域の災危情報を受け持つことで、ユーザは衛星の違いを意識せず1つのアプリケーションで世界中どこでも利用できることになります。
── 準天頂衛星システム株式会社に、どのようなことを期待されていますか。
坂下 測量事業者にとっては、まさに事業の基幹部分を支えるインフラを提供いただく会社ですので、とにかく安定して高品質なサービスを継続的に提供してほしいと思っています。
ある日突然、「インフラが変わりました」と言われても困るので、「いつ、このサービスがこのように変わります」といった情報はぜひ計画的に提供してほしいと思います。ふつうの国民が水道に対して望む「きれいなお水をいつもかならず提供してほしい」という気持ちと同じかもしれません。
── ありがとうございました。
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