ニコン 小宮山 桂/山野泰照:位置情報は撮影した画像の楽しみ方を拡げてくれる
マーケティング統括部 第一マーケティング部 グループマネジャー 小宮山 桂
開発統括部 第一開発部 第四開発課 主幹研究員 山野泰照
ニコンが2015年の春に発売したコンパクトデジタルカメラでは、COOLPIX S9900、COOLPIX P610、COOLPIX P900、COOLPIX AW130の実に4機種がみちびきに対応しています。小型高倍率、高倍率、超高倍率、そして本格アウトドアと幅広いジャンルのカメラに測位機能を持たせた、特徴あるラインナップはどういう意図で生まれたのか。ニコン映像事業部の小宮山 桂氏、山野泰照氏のお二人に伺いました。
ハードルはあっても、チャレンジしなければ始まらない
── いつ頃からデジタルカメラに測位機能を持たせたのでしょうか。
小宮山 2008年に発売した、コンパクトデジタルカメラの当時のハイエンド機種COOLPIX P6000にGPSモジュールを搭載したのが最初でした。そもそも位置情報は、日付と同様に画像にとって重要な情報です。古い写真アルバムに、いつ、どこで撮影したか、写真の脇に書き込まれているのをご覧になったことがある方も多いはずです。「いつ」を表す日付に関しては、ご存知のとおりすでに当たり前の機能ですが、「どこ」を表す位置情報も、画像にとって本質的に欠かせない情報であり、デジタルカメラの機能として浸透し始めています。
── 最初はハードルも高かったと思いますが...
小宮山 当初は、GPSモジュール自体が大きく、消費電力もそれなりに必要で、たしかに使い勝手がよいものではありませんでした。しかし、ハードルはあっても、チャレンジしなければ始まらない、という考えが根底にありました。ただ、結果的には、市場の反応も踏まえた社内での評価は、「成功だった」とは言えないものでした。
── よい評価を得られなかった原因は?
山野 1つは測位にかかる時間です。衛星を捕捉して測位を完了するまでにそれなりに時間がかかってしまい、しかも、その間にカメラが移動すると、また最初から測位をやり直すことになってしまう。お客様にまどろっこしい思いをさせてしまっていました。
── 当時の製品レビューでは「都市部では測位しにくい」といった手厳しいコメントもありました。しかし、これは測位機能に関する不満であり、かならずしもニコンのせいではなかったのでは?
山野 測位機能を搭載した製品をお客様に提供している以上、メーカーとして言い訳はできません。そういった厳しいコメントは、われわれが何をどのレベルまで達成しなければならないかを教えてくれます。厳しい指摘は次に目指すべき目標のヒントになりますから、たいへん貴重な情報なのです。
画像の持つ深みや品質を追求するのがカメラメーカーの仕事
── その後の状況はいかがでしたか。
小宮山 2011年に測位機能を本体に搭載した次のモデルCOOLPIX AW100という本格アウトドア仕様のカメラを発売しました。その頃にはGPSモジュールの性能は大幅に向上しており、使い勝手でお客様を困らせるようなことも少なくなっていました。
山野 アウトドア志向の高まりという追い風もあり、撮影後の画像の楽しみ方を提案しようと検討を重ねました。画像に緯度・経度の情報を付けるだけでなく、当社の画像閲覧・編集ソフトウェアに地図を連動させる機能を付加しました。実際に移動したルートに沿って撮った画像を見るといった使い方を提案し、自分でも使ってみて位置情報は画像の楽しみ方を確実に拡げてくれるということを実感できました。撮影した画像と地図とを連動させると「実はこんな場所だった」という楽しみが増し、「すぐ近くにこんな絶景ポイントが!」という、また行きたくなる悔しい発見があったりするわけです(笑)
── 一方で、スマートフォンがあれば容易に位置情報付き写真を撮れる時代です。そうしたアイテムとの競合や棲み分けは、どのように考えていらっしゃいますか。
山野 スマートフォンを含めたスマートデバイスの台頭により、撮影という行為へのハードルは低くなり、裾野が拡がりました。お客様の、撮影や画像の活用に対するニーズも拡大しており、カメラメーカーとしては、スマートフォンで画像や映像を経験されたお客様が、さらなる表現、さらなる活用といったところに期待が移ってきた時に、スマートフォンにはできない、カメラならではの価値をお客様に提供していかなければならないと考えています。
その中には今回注目していただいているCOOLPIX P900のような超望遠レンズの世界もありますし、写真文化の中で培われた画像の持つ深みや質の高さといったものも含まれると考えています。スマートフォンによって多くの経験を積まれたお客様の期待を超えるカメラを提供するのがカメラメーカーの役割でしょう。
── 将来はすべてのデジタルカメラに測位機能が搭載されるのでしょうか。
小宮山 すべての製品に標準装備されるとは言いにくいですが、最近増えているWi-Fi機能などと同様、搭載されるカメラが増えていく可能性は十分にあると思っています。
天体写真には、とりわけ正確な場所と時刻が必要
── アウトドアのほかに、位置情報の強みを活かせるジャンルはありますか。
山野 アウトドアに含まれるジャンルですが、とりわけ、正確な位置と時刻が必要とされるのが一部の天体写真の世界です。たとえば皆既日食は、撮影する位置によって現象が始まる時刻が変わるため、撮影を計画する上でも位置情報と正確な時計は必須です。また撮影した画像を分析する上でも位置と時刻の情報は必須ですので、みちびきやGPS衛星からの情報がきわめて有効です。また、星が月に隠れたり、月から出たりする「星食」も、位置と時刻が深く関係している現象なので、位置と時刻が重要な情報の一つです。
※いずれもクレジット表記以外は未加工の撮ったままの写真
── マニアックなジャンルですが、お気持ちはよく分かります。
山野 一般的な用途ではないかもしれませんが、私自身も天体写真を撮っており、1ユーザーとして測位機能の重要性を実感しています。他にも、めずらしい鳥などの動物を撮影した時には位置情報が大きな価値を持つと思います。
── 測位衛星を使えば、位置情報だけでなく正確な時刻情報も得られます。これを利用する仕組みはあるのですか。
小宮山 メニュー操作により、カメラに内蔵した時計をGPS時に合わせる機能は備えています。こうしておくと、複数台のカメラを使って撮影した画像を整理する時にも、時系列で並べることができます。ユーザーが意識しなくても、常に、正確な時刻と場所が画像に記録されていることが理想です。また、消費電力などの面でさらなるモジュールの性能向上が求められています。今後とも、お客様にとって価値ある画像を提供できる機能である限り、積極的に導入していきたいと思います。
── みちびきへの対応には、どのような期待や判断があったのでしょうか。
小宮山 みちびきに対応するため、開発負荷が特別に増加するようなことはありませんでした。測位モジュールの大きさもほぼ同等で、データ形式が変わるわけでもない。消費電力も以前に比べれば格段に小さくなっており、採用の際に迷いはありませんでした。GPS互換ということは、メーカー側にはとてもありがたいことです。
社内で検討した際には「衛星がまだ1機しか上がっていないのに十分な効果は見込めるのか」と心配する声もありました。ただ、実際に測位してみると、都市部での測位開始にかかる時間がずいぶん早くなったと実感しました。
── ありがとうございました。
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