アイサンテクノロジー 細井幹広:測位精度の向上で、誰もが高度空間情報を使える社会を目指す
アイサンテクノロジー株式会社 研究開発知財本部 システム開発部 部長 細井幹広
今回は、名古屋でシステム開発を手がけるアイサンテクノロジー株式会社で、測位受信機の観測情報を表示するソフトウェアを開発したり、車両の自動運転に向けた実証実験を5カ年計画で行うなど、準天頂衛星の利活用に向けたさまざまな活動に取り組む細井幹広氏にお話を伺いました。
みちびきの実証実験に向け、たった3週間でツールを実装
── 先日開催したGPS・QZSSロボットカーコンテスト2014ではご協力いただき有難うございました。それでは、まず御社の概要と主要な事業展開についてお聞かせください。
細井 基本的にはソフトウェア、システム開発の会社です。もともとは事務機器を販売していましたが、1970年代にプログラム電卓が登場した際に、会計士や土地家屋調査士といったお客様に合わせた業務アプリケーションを作成しました。
'80年代になって自動製図機やパソコンも商材として取り扱い始め、土地家屋調査士向けに業務系の測量システムを開発・販売するようになりました。現在は、測量機器などで測定したデータをもとに、地図や図面から登記所に提出する書類まで幅広く作成・管理できるシステムを開発・販売しています。
── その流れから、衛星測量にも取り組むようになったのですね。
細井 測量の世界に大きな転機があったのは2000年で、法令改正により地図の座標の考え方が「世界座標」に代わり、GPSによる測量データを地図作成の位置情報として使えるようになりました。同時に、GPS測量と従来の測量の精度管理が着目されていたので、わが社はそれを自社技術として取り上げていこうと考え、高度な位置情報と空間情報をさまざまな場面で使いこなすための技術開発に取り組むようになりました。みちびきにも、2007年から関わっています。
最初に取り組んだのは、QZS Prove Toolという、利用実証に使う受信機の観測情報を表示するソフトウェアの開発でして、どうせ作るなら皆さんに使っていただこうということで、実証実験に参加された皆さんに公開したのが最初です。
みちびき初号機の打ち上げが2010年9月で、Windows Moblie用の開発キットが提供されたのが12月、翌年1月には利用実証がスタートする日程だったので、お正月を挟んで3週間ぐらいで一気に組み上げた思い出があります。そこからスタートして、現在はQZPODやQZNAV、QZ1に対応したAndroid版のProve Toolを提供しています。ちょっと試してみようという方が気軽に使えるもの、という位置づけで、衛星の状態、受信状況の確認、位置の表示、軌跡の表示、あとはデータロギングといった本当にプリミティブな機能に絞り込んで提供しています。
クルマで走りながら位置と空間情報を同時に取得する
── では次に、MMS(モービルマッピングシステム。車で走行しながら道路周辺の3次元位置情報を効率的かつ高精度に計測できる)について教えてください。
細井 MMSは、位置情報を利用した新しい測量スタイルの提案ということで、さまざまな業界から50社ほどが集まってMMS研究会を立ち上げ、使い方やどうやれば精度が上がるかなどの議論をしております。みちびき初号機が上がりまして、高度な位置情報が公共測量だけではなくインフラ整備やITS(Intelligent Transport Systems, 高度道路交通システム。道路交通が抱える事故や渋滞、環境対策などの課題を解決する)など周辺分野からも注目されるようになってきました。
── MMSで取得した位置情報からどうやって高精度な地図を作成するのでしょうか。
細井 ひと言でいうと、GPSの座標情報と三次元レーザースキャナの空間情報を合わせて一気に情報を取得して、その情報をもとに地図を作成するというものです。
MMSには2つの機能があり、1つはGPSと距離計などによって位置を特定する機能です。GPSだけでは誤差が入りますが、距離計などを併用すれば、6cm以内ぐらいの精度で決定できます。条件が悪くて精度が上がらない場合は、従来手法の測量も併用して精度を上げます。
もう1つは、カメラ画像とレーザースキャナによって空間情報を作成する機能です。数万のレーザー光で周囲の路面、壁面などへの距離を測り、これらの点をつなぎ合わせることで、CGのような立体モデルができます。このモデルにカメラ画像を貼り付けることにより、さまざまな地図に加工できるという点です。 走るだけで座標付きの空間情報を作れるので、トンネルの形状変化や道路建設後の経年変化の調査、マンホールや電柱の位置といったインフラ系の地図の要望も出ています。
自動運転に欠かせない空間情報と地図
── 名古屋大学大学院やカー・ロボティクス会社「ZMP」と連携して、みちびきを使った「自動車の自動運転公道実証実験」にも取り組んでおられますね。
細井 ZMPさんのロボカーがベースの車両を使用して、今年はまず、愛知県道15号のバス優先レーンで自動走行実験を行います。専用の高精度地図を作成し、ロボカーのマッピングと組み合わせることで自己位置を特定して自動走行するのが今年の目標です。
空間情報を使った位置把握が重要なのは、センサーでは検知できない情報が自動運転に必要だからです。分かりやすい例を挙げれば、たとえば「信号待ち」で止まっている人は静止物ではなく、「止まっている状態の人」だということを自動運転車は判別できなくてはいけません。これは、空間情報まで入れ込んだ地図で自己位置を把握しなくては検知できないので、こうした空間情報をどのように整備し、提供するかというところを、わが社が担当しています。自動車の自動運転実証実験は5カ年計画で今年は最初の年なのですが、目標は2020年のオリンピックで自動車の自動走行を実現することです。まずは今年の成果を見て今後の課題を洗い出し、来年度以降の実験につなげていきます。
── 最後になりますが、みちびきに対する期待をお話しください。
細井 「地理空間情報活用基本法」がすべての始まりで、みんなで高度空間情報を使える社会が、私たちが目指す世界だと思います。その時、利用者にとって大事なのは、「実際に使う時の位置情報の精度はどのくらいなのか」だということを忘れないでほしいと思います。
「仕様を理解しなくては使えないアプリ」では一般の人は使えないし、利用も広がらないと思います。衛星システムというと衛星測位の精度にこだわってしまいますが、実際に利用する時の位置情報は、空間情報を入れ込んだ地図との組み合わせになりますから、どこまで精度が担保され、どういう制約下で利用できるのかということも、気にしていただければと思います。
── ありがとうございました。
※所属・肩書はインタビュー時のものです。
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