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日本大学 藤村和夫:自動運転は、立場により考え方が違うからこそ法整備が必要

2016年01月07日
日本大学法学部 教授・博士(法学) 藤村和夫

自動運転車による自動走行の実現に向け、センサーや人工知能など車両側の技術開発が急ピッチで進められています。それに伴い、今後の実用化に向けて解決が必要な課題として、「事故が起きた場合の法的責任がどうなるか」といった法律面の問題も提起され始めています。今回は、自動走行が実現した場合の法整備がどのようになるのかを、日本大学法学部の藤村和夫教授に聞きました。

自動運転はレベル1~4の4段階に分類

── 自動車の自動走行システムの開発が活発になっています。それに伴い、関連した法整備が必要になってきました。

日本大学法学部 藤村和夫 教授

藤村 まず自動運転の概念、あるいは運転者の概念自体を明確にする必要があります。1949年の道路交通に関するジュネーブ条約では、運転者のいない自動車は道路を走ってはいけないということが国際的に取り決められており、日本の道路交通法もこれに基づいています。日本は未加盟ですが1968年のウィーン条約にも同様の規定があります。ですから、運転者の概念が非常に大事になってきます。

現在、自動運転システムはレベル1~4の4つの段階に分類されています。レベル1は「加速・操舵・制御のいずれかをシステムが行う状態」で、これは安全運転支援システムといえるもの。レベル2は「加速・操舵・制御のうち複数の操作をシステムが行う状態」、レベル3は「加速・操舵・制御をすべてシステムが行い、システムが要請した時はドライバーが対応する状態」とされており、準自動走行システムというべきものです。レベル4は完全な自動走行システムになり、「加速・操舵・制御をすべてドライバー以外が行い、ドライバーが全く関与しない状態」です。ただし、この場合でも、運転者が全くいないと説明する人もいますし、いざという時には自動車をストップさせる人が乗っていると説明する人もいます。これらを全部ひっくるめて自動運転というのか、あるいは運転者が何もしないでも目的地まで移動が可能なレベル4だけを自動運転とするのか等といった整理も必要です。この点を検討し、関連の法律を整備することが必要と思います。ここでは、レベル4の車を自動走行車と呼ぶことにします。

自動走行車に、自賠法を適用する可能性

── 自動走行の大きな目的の1つは、交通事故の低減です。しかし、実際に自動走行車が道路を走るようになった場合、事故が起きる可能性はゼロではありません。

日本大学法学部 藤村和夫 教授

藤村 私は、自動走行車と普通の自動車が混在して走る場合が問題だと思います。自動走行車と自動走行車の間では、事故はあまり起こらないでしょう。しかし、有効な対策をとらないと、普通の自動車と自動走行車の間の事故が増えるのではないでしょうか。

── 自動走行車が事故を起こし、加害者となってしまった場合、法律的にどんなことが問題になるでしょうか。

藤村 自動車事故が起こった場合、当然のことながら加害者側は被害者に対して損害賠償をしなくてはなりません。現在、自動車事故で人身に損害が発生した場合に、まず適用されるのが、自動車損害賠償保障法(自賠法)です。
自賠法では、事故が起きた場合の責任、損害賠償責任を負うのは「運行供用者」とされています。運行供用者とは自己のために自動車を運行の用に供する者のことです。ただ、注意しなければならないのは、この運行供用者と運転者とはイコールで結べるものではないということです。
自賠法における「運転者」は、通常、我々が考える運転者とは違って、「他人のために自動車の運転または運転の補助に従事する者」をいうと定義されています。自動車を運転していても、他人のために運転しているわけではない人は、自賠法のいわゆる運転者ではないのです。ですから、自賠法を自動走行車に適用しようとした場合、自動走行車にも運転者がいるとして、その運転者と自賠法の運転者との関係をどう考えるのか、これも共通の認識が必要になるでしょう。

運転者がいない自動走行には、法律面の手当てが必要

── もう少し説明をお願いします。他人のために運転していなければ、自賠法では運転者ではないわけですね。

日本大学法学部 藤村和夫 教授

藤村:そうです。自賠法では、他人のために運転する場合にだけ運転者になります。これはなぜかというと、事故が起きた場合の責任をだれが負い、だれが自賠法による救済を受けることができるかという問題と関わっています。
運行供用者は、自動車の運行によって「他人」の生命または身体を害した時に責任を負うのですが、現在の判例では、運行供用者・運転者・運転補助者以外のものが他人とされています。ですから、運転者は事故で人身に被害を被っても自賠法による救済を受けることはできないことになる、こういうところで関わってくるのです。

── そうすると、自動走行車の起こした事故を現在の法律で処理することはできないのでしょうか。

藤村 自賠法の適用を考えるのであれば、自動走行車に「運行供用者」を観念し得るのか、あるいはどのように観念するのかが問題となります。レベル1とかレベル2であれば、現行の解釈の枠内で処理することは可能だと思われます。運転者が全くいない自動走行の場合であっても、「この人」が運行供用者だといえる人を観念できれば適用できないことはないと思われますが、それが容易でないとなると、やはり法律面での手当てが必要になるのではないかと思います。

── 自賠法が使えない場合、他にどんな法律で処理することになるでしょうか。

藤村 自動走行車には従来と違って運転者がいるかどうか分からないので製造物責任法(PL法、Product Liability Act)でいこうという考えがあります。

── 製造物責任となると、自動走行車を開発・製造するメーカー側もいろいろ考えておかないといけないですね。

藤村 そうですね。メーカーはそのシステムが安全で大丈夫だとして市場に出すわけですが、事故が起こった場合にどう考えるかを、はっきりさせておかないといけません。

自動走行の専用区域を決めれば、早期実用化の可能性も

日本大学法学部 藤村和夫 教授

── 製造物責任以外の考えはありますか。

藤村 自動走行車にも運転者らしきものはいるのだから、一般法である民法の過失責任でいけるという考えもあります。それから、道路自体に問題があった場合には、道路管理者である国あるいは地方自治体の責任も当然考えなければいけません。事故は1つでも、関係するところがいろいろ出てきます。いずれにしても、最後の最後に自動運転システムにストップをかける人もやはり運転者ではないかと考えるかどうか、それによってずいぶん変わってくると思います。

また、自動走行の方法も、測位衛星を使う、道路に引いた白線を使う、車と車の間での通信を使う等々、いろいろな方法があるようです。それらをどれも同じように考えていいのかどうか、これについても少し整理が必要なのではないでしょうか。

── 考えなくてはならないことは多いですね。

藤村 人によっては、「今までなかった種類の自動車が出てくるのだから自賠法など使えるわけがない、製造物責任だ」といいますが、メーカー側は「それは違いますよ」という可能性が高いでしょう。皆が「責任はそちらにあってこちらにはない」と主張してくると、どうしようもなくなります。責任の所在がはっきりしないということは、被害者の救済にも大きな影響を及ぼすことになります。

── いろいろな立場の人がいろいろな考え方を持つので、決まらない。

藤村 決まらないからこそ法律が必要なわけです。

── そうですね。ところで、先生は自動走行システムの将来をどのようにお考えですか。

日本大学法学部 藤村和夫 教授

藤村 実は私、自動車の運転免許を持っていないのです。ですから、こうしたシステムは使い方によっては非常にありがたいと思います。レベル4の自動走行車が市中を普通の自動車と混在して走るのは、相当技術開発が進んでからと思いますが、一定の区域を決めて、ここは自動走行車しか走らないというところを作れば、早い時期に実用化できるのではないかと思います。

たとえばお年寄りが多く、移動も大変だけど、そもそも移動手段がない、もしくは乏しいというような地域ですね。いろいろな事情で自動車を運転できない人が自動車を利用できるようになるという意味では、自動走行システムには大きな効果が期待できると思います。

── ありがとうございました。

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※所属・肩書はインタビュー時のものです。

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