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ゼンリン竹川道郎:地図情報は、自動運転を支援する“第2のセンサー”

2016年11月01日
株式会社ゼンリン ADAS事業推進室 室長 竹川道郎

今回は住宅地図やカーナビ、パソコン用の地図ソフトなど、さまざまな地図情報を提供する株式会社ゼンリンが、その特性を生かして取り組む高精度空間データベースの研究開発について、同社ADAS事業推進室の竹川道郎室長に伺いました。

ドライバーの安全運転を支援する「ADAS」

── 自動運転システムにおいて、地図情報はどのような役割を担うのでしょうか。

株式会社ゼンリン ADAS事業推進室 竹川道郎室長

自動運転システムは、認知・判断・操作といった運転に必要な人間の行動を、センサー等による認識情報を利用し、システムが代替するもので、そのために必要な補完情報として「地図情報」が注目されています。私どもは、地図情報による静的情報を、インフラからの情報や車載センサー情報を補完する、言わば“第2のセンサー”だと考えています。

たとえば、自動運転車で右左折レーンが複雑な交差点を走行する場合、進入レーンと退出レーンがどのようにつながっているのか、その交差点にどのような交通規制や構造物が存在するか、レーン同士のつながりや交通ルール、交差点領域を表現したレーンネットワークデータが必要になると考えられます。車載センサーでは見えない範囲の走行ルートや交差点構造を先読みすることで、適切な走行レーンを事前に選択し、走行プランを推定することができます。

また、自動運転には、レーン単位の細かい自車位置特定が必要ですが、自動運転車に搭載された各種センサーが捉えた地物(信号機や標識、停止線、路面表示などの道路構造物)と地図情報を照合することで、高精度な自車位置特定を支援できると考えられます。さらに、信号機や横断歩道の位置など、車載センサーがリアルタイムにセンシングすべき情報をあらかじめ地図情報として提供することで、地物の認識確度の向上にも役立つと考えています。

── 御社は、これまでどのように取り組んで来られたのですか。

株式会社ゼンリン ADAS事業推進室 竹川道郎室長

ADAS(Advanced Driver Assistance System、先進運転支援システム)への取り組みは2008年にスタートしました。ADASはドライバーの安全運転を支援するシステムであり、そこに当社の地図情報が役立つのではないかと考えていました。そこで、当社が長年カーナビゲーション用の地図整備で培った地図生成技術やノウハウを活用し、MMS(モービルマッピングシステム)を搭載した高精度計測車両を使ってレーザーセンサーで取得した点群データとカメラ画像、高精度位置測位情報から、高精度な3Dの空間データベースを作るための研究を開始しました。

その後、社会的に自動運転システムへの注目が高まっていった中で、それまで研究開発していた高精度空間データベースの生成技術が自動運転システムにも寄与できると考え、今年4月から社長直下の部署としてADAS事業推進室が立ち上がったのです。

日本では「加速・操舵・制動をすべて自動車が行い、緊急時のみドライバーが対応する」という準自動走行システム“レベル3”の2020年市場化に向けて、官民が協調して取り組んでおり、私どももこのロードマップを念頭に置いて、ADAS事業推進室で高精度空間データベース実現への取り組みをさらに強化しようと考えました。現在は日本の東京と北九州、米国のサンフランシスコ、ドイツのデュッセルドルフの4カ所を拠点として高精度空間データベースの研究開発・商品企画をしています。

新整備システムによる「高精度空間DB」の逐次、差分提供

── 既存の地図情報とは、どのような点が異なるのでしょうか。

株式会社ゼンリン ADAS事業推進室 竹川道郎室長

従来のカーナビ向けの地図データは、道路は1本の線と接続点で表現し、「交差点付近で右折レーンが増えて4車線が5車線に増える」といった情報は属性情報として付加する形になっていました。それが高精度空間データベースになると、レーンごとの中心線でネットワークデータを作り、交差点ではそれぞれのレーンが右左折時にどのレーンにつながっていくかという点も正確に反映します。

さらに、その空間内にある標識や看板など、自動運転車が走行する時に参照・照合するような空間的な地物についてもレーンネットワーク情報に関連づけるというデータベースになります。従来のカーナビの概念である道路単位のネットワークデータと、高精度空間データベースのレーン情報や地物情報を相互に参照するような、階層的に構造化された仕組みになるのではないかと考えています。

── 具体的な取り組みについて教えていただけますか。

高精度空間データベースとそれを活用したソリューションは、新たな製品コンセプト「ZGM Auto(Zenrin Geospatial data Model for Automotive)」として開発を進めています。この「ZGM Auto」は、「ZGM NW for Horizon」と「ZGM HD for Sensing」の2つで構成されています。

株式会社ゼンリン ADAS事業推進室 竹川道郎室長

「ZGM NW for Horizon」は、目的地までの経路検索や走行レーン検索に役立つレーン単位のネットワークデータ、及び先読み情報コンテンツ群。「ZGM HD for Sensing」は、車載センサーのセンシング支援や高精度な自車位置特定に役立つ高精度3D空間データ群です。

この両コンテンツを生成し、逐次、差分データを提供するための新整備システムを開発しています。新整備システムでは、これまで当社が持っていた住宅地図のデータやカーナビ向けの道路ネットワークのデータも含め、すべての情報を地物として一元管理します。その地物から必要な情報を選択してデータベースを生成し、自動運転向けに限らず、さまざまな要件に最適化されたデータベースを逐次、差分で提供することができます。

── 他社や行政と連携した取り組みについてはいかがですか。

静的情報に、信号・歩行者情報や事故・渋滞・気象情報、交通規制・工事情報などの動的情報を組み込んだデジタル地図「ダイナミックマップ」の開発に関する標準化活動に取り組んでいます。SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)のダイナミックマップに関する地図調査業務委託では、国内7社で構成されたコンソーシアムがあり、当社もこれに参画しています。また、2016年6月には三菱電機や当社、自動車メーカーなど15社が出資して「ダイナミックマップ基盤企画株式会社」を設立しました。ダイナミックマップのうち、高精度な基盤的地図データの早期実用化や、持続可能な地図データのメンテナンス手法などの諸課題を検討すると共に、官民協調で地図情報の仕様策定に取り組んでいます。

みちびきで簡易に正確な位置測定が可能に

── みちびきは自動運転システムにどのように役立つと思いますか。

株式会社ゼンリン ADAS事業推進室 竹川道郎室長

みちびきによる測位精度の向上は、“地図を作る側の利点”と“自動運転の利用者側の利点”の2つがあると考えています。

地図を作る側の利点としては、MMSを利用した高精度計測車両で地物などを取得することによる、位置情報の高精度化が挙げられます。高精度計測車両は現在もRTK-GPS(Realtime Kinematic GPS、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方式)やIMU(Inertial Measurement Unit、慣性計測装置)、ジャイロなどを搭載しており、高い位置精度を実現していますが、やはり衛星の電波を受信しにくい都市部や山間部においては位置精度が悪くなる場合もあります。みちびきが整備されることにより、既存のGPSに加えて、衛星そのものの台数も増え、またみちびき経由で送信される補正信号を利用して、より簡易に正確な位置が測定できるようになり、高精度な地図をつくるコストも下げられるのではないかと期待しています。

一方、利用者側の利点としては、みちびきを使うことでより簡易に高精度な自車位置の把握を行うことが期待できるし、システムやハードウェアの価格が下がることで、より多くの人へ自動運転の普及が期待できると考えています。

── これから自動運転システムの時代へと向かうに当たって、御社の強みはどこにあるとお考えですか。

私どもは、全国各地の調査員が実際に歩いて調査した膨大な情報を住宅地図データベースとして整備しているほか、道路地図でもネットワークデータを整備すると同時に、調査車両が全国を走行して撮影した連続走行写真をもとにした規制や看板、信号機などの膨大な情報を持っています。また、このような広範囲の地図データ整備を可能にする調査力、メンテナンスを行う運用ノウハウも当社ならではと考えています。

株式会社ゼンリン ADAS事業推進室 竹川道郎室長

そして何よりも、このような鮮度・精度・出所の異なる膨大な情報をマージ(統合)して管理し、用途に応じたデータベースを生成し、一定の品質と鮮度で提供できるシステムを持っていることが最大の強みだと思います。
今後は、IoT情報が地図情報と連携し、新たな付加価値を創造することで、さまざまな企業とのコラボレーションも広がっていくと考えます。調査員が足を使って稼いだ情報、走行計測して蓄積した情報も含めて、時代や技術の進化に合ったデータベースを提供していきたいと考えています。

── ありがとうございました。

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