JAXA 平林 毅:初号機の技術をさらに発展させ、みちびきを支援する
宇宙航空研究開発機構 第一衛星利用ミッション本部 衛星測位システム技術室 室長 平林 毅
2010年9月11日に打ち上げられたみちびき初号機は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)によって、これまでさまざまな実証実験が行われ、長期運用の実績も積み上げてきました。みちびき初号機の実証実験や運用、そして今後について、担当する衛星測位システム技術室 平林 毅 室長に話を伺いました。
所期の開発目標をクリアしたみちびき初号機
── 「衛星測位システム技術室」の役割について教えてください。
平林 私ども衛星測位システム技術室は2013年6月に設置された部署で、みちびき初号機の運用や技術実証試験、将来に向けた測位技術の研究開発などを行っております。また、現在整備が進められている2号機以降のみちびきに対する技術的な支援を行っています。
みちびき初号機は、2012年度までの3年間に行った実証実験によって、開発目標として定めていた技術的な性能を達成していることが検証できました。衛星としての性能が長期的に安定しているかどうかという評価は、継続して行っていくことになります。また、今後、実用利用につながるような実証実験を行っていきたいとも考えています。
また、日本を含めて13カ国29機関が加盟しているMulti-GNSS Asiaという国連のサポートを受けた活動でJAXAは事務局を担当し、みちびきの利用に関するワークショップや実証実験といった活動を展開しています。アジアの中でテーマを募集し、農業分野、交通分野などそれぞれの国の事情に応じた実証実験を毎年5~6件行っています。
── これまでの実証実験の中で苦労されたことはありますか。
平林 実証実験では小さな苦労はいろいろとありましたが、これといった大きな問題はありませんでした。あえて課題として挙げるなら、原子時計に異常が起きたことです。幸い冗長性を持たせておりましたので、1台に異常が発生した時点でバックアップとして組み込んでいた別系統の原子時計に切り替え、現在でも問題なく運用しています。原子時計はアメリカのGPS衛星に搭載されているものと同じものなので、稼働実績は十分にあったのですが、より信頼性を高めるために地上での信頼性試験の改善などが必要になります。そのような点を、今後の2号機以降のみちびきの開発や運用へフィードバックしようとしています。
みちびきを利用した新しい技術開発にも挑戦
── 現時点で新たな独自技術の研究はされているのでしょうか。
平林 JAXAではみちびき初号機から送信することができるLEX信号を利用して、測位の精度を向上させるMADOCA(Multi-gnss Advanced Demonstration tool for Orbit-and-Clock Analysis)という技術の研究開発に取り組んでいます。この研究では、2012年度までに水平垂直10cm未満という測位精度を達成しています。技術的な可能性としては、3cm以下の測位精度を目指して、いま研究計画を立案しているところです。世の中の動向を踏まえると、やはり1~3cm程度の精度は必要になると思います。
── LEX信号はMADOCAのための信号なのでしょうか。
平林 いいえ、MADOCA以外の情報も送ることが可能です。LEX信号は、GPSを補強してセンチメータ級の測位を可能とする、日本が独自に開発した測位信号で、2,000bpsのデータ転送速度を持っています。LEX信号は、いろいろな使い方ができるようになっており、MADOCAによるセンチメータ級の補正信号のほかにも、電離層遅延に関してみちびき独自の補正情報を送信することにより精度向上を図る技術実証も行いました。また、JAXA以外の機関でも、LEX信号を使って別方式のセンチメータ級測位の実証実験が行われています。
ちなみに、基準点を必要とする精密測位方式では、受信機が2つ必要になったり、補正情報用の通信回線が必要になったりしますが、MADOCA-PPPという精密測位技術では、1つの受信機だけでセンチメートル級の精度を出すことができるという特長を有しています。
── 将来、みちびきの実用稼働が始まっても研究は続けられるのでしょうか。
平林 4機体制になった時にMADOCAが適用されるのか、あるいはその先の次世代のみちびきになるのかはわかりませんが、やはりわれわれは研究開発機関ですので、将来をにらんで新たな技術の研究開発を続けていきたいと思っています。
技術の継承と蓄積の上に信頼性を築いていく
── 2号機以降のみちびきにおいて初号機での知見は、どのように活かされると考えますか。
平林 みちびきの実用段階では、確実に稼働することが大切だと考えています。したがって、できる限り初号機で実証された技術を踏襲していくことが大切だと思います。どうしても追加しなければならない新しい技術は必要最小限にとどめて、可能な限り信頼性の高い確実な技術を使い、将来に向けてステップアップする技術をうまく組み合わせていければいいですね。運用についてもこれまでに実証された方法を継承していくことが必要だと認識しています。
プロジェクトの発足から打ち上げまで、通常の衛星ではおよそ5~6年はかかるのですが、みちびき初号機は3年8か月という短い期間で達成しています。初号機が短期間ですべての開発目標を満足する結果となったのは、これまでに長年JAXAが手がけてきた、さまざまな衛星プロジェクトを通じて積み上げてきた技術や研究開発の成果が結実したものです。やはり技術というものは、積み重ねが大事です。特に実用システムとなるみちびきでは、こうした実績を重視したやりかたが大切ではないかと思います。
── 過去の実績が重要なのですね。
平林 それに加えて、実用となった場合には、サービスが止まらないことも重要となります。みちびき初号機では、沖縄宇宙通信所にある2つのアンテナから指令を出していましたが、万が一を考えればバックアップは必要です。実際、台風で運用が停止したこともあります。実用システムが稼働する際には、日本国内だけでなく海外にもいくつかの拠点が必要になるでしょうね。
── 4機体制となるみちびきに関してJAXAはどのような役割を果たすのでしょう。
平林 みちびき2~4号機の3機に関しては、内閣府と民間企業が直接契約をしていますが、JAXAは初号機での経験を活かして側面から技術的なサポートを行っています。たとえば企業が検討する技術に対してわれわれがレビューして意見を出したり、技術的なチェックを行ったりといったことです。また、前述したMulti-GNSS Asiaでのワークショップや実証実験などの活動を今年度から準天頂衛星システムサービス株式会社と共同で行うこととし、海外への利用推進にも引き続き努力していきます。
これまでも、企業の方々とは、さまざまなプロジェクトで一緒に研究開発を行ってきました。先ほども申しましたように、さまざまな技術の延長線上にみちびき初号機があり、さらにその先に2号機以降のみちびきのプロジェクトがあります。われわれにとっての一番の財産は、これまでのプロジェクトで培った技術であり、人間関係なのだと思います。そうした財産を、今後のプロジェクトに対し最大限活用していかなければいけません。
── ありがとうございました。
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