「電子基準点」大解剖 [後編]
前編に引き続き、全国に約1,300点、約20km間隔で国土をくまなくカバーし、主要な離島にも配置されている電子基準点を解説していきます。まずは、電子基準点の心臓部とも言うべき「機器収納ボックス」の中味を解剖します。
機器収納ボックスは、頭脳であり心臓部
1)「GNSS受信機」
マルチGNSS対応の多周波受信機。市販品から選ばれた高性能の機種が設置されています。
2)「携帯電話ネットワーク通信装置」
バックアップの通信回線には携帯電話のネットワークを利用します。バックアップなので基本料金の安い従量制の契約になっています。離島など地上の携帯電話回線にアクセスできないエリアでは衛星携帯電話回線がメイン回線となり、そのためのアンテナも必要です。
3)「電源監視装置」「UPS」「バッテリー」
基本的に商用電源で動作しますが、外部電源が途絶えた場合に備え、電源監視装置やバッテリー、UPS(無停電電源装置)を備え、数日間のデータを記録したり安全なシャットダウンを行います。
4)「IPルーター」「パケットモジュール」
内部の機器はLANで接続され、IPルーターでネットワークに接続、茨城県つくば市にある国土地理院のサーバーで一括管理されます。IP-VPNによるクローズドなネットワークが構築され、インターネットからの接続は不可。各電子基準点とサーバーからなる観測網全体は「GEONET(GNSS連続観測システム、GNSS Earth Observation Network System)」と呼ばれます。
5)「傾斜計」
電子基準点の健全性を確認するため、傾斜計が設置されています。異常値が出た場合、土砂崩れなどで設置場所そのものに何らかの障害が出ていると考えられるためです。
6)「ヒーター」:寒冷地でも機器が正常に動作するようヒーターが設置されています。
7)「保安器」:雷などによるサージ電流を排除します。
衛星の信号を24時間連続で観測
電子基準点は、全国にほぼ均等に配置されていますが、東海地震への備えとして中部地方の太平洋岸に密に配置されています。離島もほぼカバーしています。
日本全国に設置された電子基準点では、GNSS衛星からの信号を24時間連続で観測しています。電子基準点で取得されたデータはBINEX(Binary Exchange Format)と呼ばれる、受信機に依存しない共通形式の生データとしてつくば市の国土地理院(測地観測センター)に送られます。このデータを演算処理して初めて位置が求められるのです。
設置する環境に合わせた特殊な形状も
電子基準点には、設置する環境に合わせた特殊な形状のものがあります。インフラの制約がある離島では、通信回線を衛星携帯電話に、電力を太陽電池パネルに頼る場合もあります(南鳥島)。
また、国立公園等に設置されている電子基準点では、景観配慮のため、外筒が緑や茶色にカラーリングされている場合もあります。
東日本大震災による津波で、根こそぎ破壊された電子基準点は、意外にも1カ所だけでした(S南相馬)。台風の最大風速に耐えるよう設計されており、津波を受けながら構造的には壊れなかった電子基準点もありました(田老)。
天頂近くの「193」は、とても頼りになる
電子基準点は、準天頂衛星「みちびき」、GPS、GLONASSなど測位衛星の電波を休みなく受信し続けています。解析されたデータは、地図作成や測量の基準として、また地震や火山噴火に関わる地殻変動の監視に役立てられています。
電子基準点を運用する国土地理院(測地観測センター)の担当者は「みちびき」への期待を次のように語ってくれました。
「空の開けた場所に設置すべき電子基準点ですが、山間地では樹木が茂ったり、都市部では後から周囲に建物が立ってしまったりすることがあります。筑波から全国の電子基準点にアクセスして、そこでどんな衛星が見えているか確認すると、193(=みちびきのPRN番号、受信機ではそう表示される)が見える時は、いつも天頂近くに居てくれて、とても頼りになります。4機体制が整えば、より安定した基準点の運用ができると期待しています」
参照サイト
※内容監修/画像提供:国土地理院(No.960578「鳥越」画像を除く)
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