「電子基準点」大解剖 [前編]
カーナビやスマートフォンが身近になり、衛星測位は「移動体」が使うものだと思っている方が多いかもしれません。しかし、地面にしっかりと固定され、測位衛星の電波を受信し続ける「電子基準点」という装置が、全国に約1,300点、約20km間隔で国土をくまなくカバーしているのをご存知でしょうか。主要な離島にも配置され、日本の位置や高さの基準にもなっています。今回は、この「電子基準点」を詳しく解剖していきます。
電子基準点をよく知るための10のポイント
※電子基準点の形状は、導入年度により大きく3タイプが存在します。今回の右上の図解で示したのは「二重管八角型」と呼ばれる最新タイプです。
1)アンテナを保護する「レドーム」
直径40~60cmの「レドーム」は、アンテナを風雨から保護します。固定に使うボルトとワッシャーは、磁気を帯びないチタン製です。
2)地上5mに固定された「GNSSアンテナ」
GNSS受信用アンテナは、いたずらやマルチパス(電波が山やビルなどに反射して複数のルートを通って伝播する現象)を避けるため、地上から約5mの位置に固定されています。マルチパス低減、ノイズ排除、多周波受信に適した形状の「チョークリングアンテナ」が使われており、受信機との間の約3mを結ぶアンテナケーブルの規格はRG-58AUです。
3)バックアップ回線となる「携帯電話アンテナ」
携帯電話ネットワークに接続するためのアンテナ、又は衛星携帯電話用のアンテナが取り付けられます。ほとんどの電子基準点は有線のデータ通信回線がメインで、携帯電話ネットワークはバックアップ用です。まれに離島などで、衛星携帯電話がメインにして唯一の通信回線となる場所もあります。
4)「外筒」の輝きに隠された理由
本体は外筒と内筒の二重構造となっており、外筒は1辺55cmの正方形の角を落とした八角柱。日射を受けた面だけが伸び、筒が傾くのを防ぐため、できるだけ日光を反射するよう、表面は鏡面仕上げとなっています。材質は化学プラントなどでも使われる、腐食に強いステンレス(SUS316L)。景観との調和を考え、緑や茶色にペイントされている電子基準点もあります。
5)停電時のバックアップとなる「ソーラーパネル」
停電時のバックアップのため太陽電池を備える場合もあり、その場合、ソーラーパネルは側面4面に貼り付けられます。
6)構造を支える「内筒」は直径40cm
内筒の直径は約40cm。ここには機器収納ボックスやケーブルが收められており、そのパイプが、構造を支えています。
7)詳しすぎる「銘板」
銘板には、識別のための固有番号(数字5~6桁、先頭2桁は西暦年号)と共に、設備について詳細な説明が書かれています。これにより、街灯とまちがえて「電球が切れている」と通報されたり、「怪しい電波を出している」といった誤解を避けることもできるとのこと。
8)頭脳であり心臓である「機器収納ボックス」
機器収納ボックスの鍵は、国土地理院が一括管理しています。用地の管理者も持っておらず、内部にアクセスできるのは保守業者だけとのこと。(※ボックス内の機器構成は、[後編]で詳述します。)
9)「金属標」は、基準点の"裏の顔"
電子基準点の足元には「電子基準点付属標」と呼ばれるドーム状の金属標が設置されており、トータルステーションなどの測量機器を使う場合はこれを基準点として利用します。電子基準点のアンテナ位置(地上約5m)と付属標の中心の位置との相対的な位置関係が計測されており、表面には「この測量標を移転き損すると測量法により罰せられます」との注意書きもあります。
10)ほとんどが公共用地か隣接地。コンクリ製の堅牢な土台
設置場所は、学校や公園など公共用地かその隣接地である場合がほとんど。周辺に観測の支障となる樹木や建物、電波塔などがなく、商用電源・通信ケーブルの工事が可能な場所が選ばれます。また、土台部分は2.5m四方を掘ってコンクリートパイル(基礎杭)を打ち、砕石を敷いた上で、1m以上の厚みのある鉄筋コンクリート製の基礎を地下に構築します。(以下、後編に続く)
▽「後編」を読む
参照サイト
※内容監修/画像提供:国土地理院
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