CLAS実証実験報告:公益財団法人日本測量調査技術協会
GNSSネットワーク型RTK単点観測法等と同等の測量をCLASで利用できるか確認することを目的として、公益財団法人日本測量調査技術協会(測技協)のご協力のもと、全国数カ所にて、CLASの公共測量における実務的な検証を行いました。
年度 | 測技協GNSS-WGの活動 | みちびきの状況 |
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2010年 | ── | みちびき初号機打ち上げ |
2017年 | 全国5カ所同時実証実験を行うが再観測となる | みちびき3機(準天頂軌道2機、静止軌道1機)追加打ち上げで、4機体制となる |
2018年 | 10月25日全国5カ所でオープンスカイでの同時検証実験を実施 | 11月1日より【みちびき】のサービス(CLAS含む)開始 |
2020~ 2021年 |
全国6カ所でオープンスカイでの実証実験(2020年12月~2021年7月) | 12月1日よりCLAS補強対象衛星数が11機から17機となる |
2022年 | つくば国土地理院構内で上空障害のある場所での実証実験を実施(2022年11月) | ── |
「みちびき」サービス(CLAS含む)開始後、オープンスカイ全国5カ所同時観測による実証実験を行いました。
<実験概要>
・観測日時:2018年10月24日~2018年10月26日
・観測場所:全国5カ所(札幌/新潟/東京/鹿児島/沖縄)
・使用機器:CLAS観測 ⇒ 三菱電機株式会社 AQLOC
スタティック観測・VRS観測 ⇒ Nikon-Trimble R6・R9・R10、Leica GS10
・評価条件:全国5箇所は異なる網番号(ID)の場所とする
CLAS/VRS観測は全国同日・同時刻に実施する
スタティックで使用する電子基準点成果は、2017年1月1日~2018年9月12日
のF3解より推定された9月22日の座標算出(CLAS解析と同様)とする
<観測点状況>
1)札幌 ID10
2)新潟 ID 8
3)東京 ID 7
4)鹿児島 ID 3
5)沖縄 ID 2
<解析結果のまとめ>
今回の実証実験では不安定な時間帯が見受けられましたが、その時間帯を除くと、良好な結果(CLASの測位精度:水平6cm、垂直12cm以内)であり、特にXYについては、北海道、新潟、東京では、10分平均でほぼ3cm以内の測位精度をCLAS補正データから得ることができました。また、CLAS補正データ生成の網ブロックにより、補正データの効果に差異が生じていて、観測点の中で、低緯度に位置する沖縄、鹿児島で不安定要素が多く見られました。
また、ミスFIXが続く時間帯では、初期化により良好な値に戻っているケースもあるので、「再初期化」が有効な可能性があることが分かりました。
そして、FIXするまでの所要時間は、最短で5秒、1分以上かかったケースが3回あり、平均11秒から56秒(鹿児島を除く)でした。この結果から、現状は平均観測時間を1分~数分程度として、日にち・時間帯を変えた複数回観測(再初期化)を行うなどの精度担保の検討が必要であることが分かりました。
CLAS補強対象衛星数が11機から17機となった状態で、オープンスカイ全国6カ所による実証実験を行いました。
<実験概要>
・観測日時:2020年12月、2021年4月~7月
・観測場所:全国6カ所(札幌/盛岡/東京/神奈川/名古屋/大阪)
・使用機器:CLAS観測 ⇒ 三菱電機株式会社 AQLOC
スタティック観測・VRS観測 ⇒ Nikon-Trimble R6・R9・R12、Leica GS10
・実験内容:基準点を設置しGNSSスタティック成果とCLAS成果を比較検証する
CLAS観測モード「静止」「移動」2つのモードで比較を行う
<観測点状況>
1)札幌 ID10
2)盛岡 ID 9
3)東京 ID 7
4)神奈川 ID 7
5)名古屋 ID 6
6)大阪 ID 6
<解析結果のまとめ>
CLAS補強対象衛星数が11機から17機となったことにより、2018年の実証実験より、全体的にFIX率が向上したため較差が減少し、float解・HDOPともに減少する結果となりました。そして、RMS誤差は水平20mm程度(盛岡以外、名古屋静止以外)となり、2018年度と比較して格段に良い結果を得ることができました。しかし、一部地域では、較差が大きくなる時間帯やfloat解がゼロではないときもありました。したがって、実用に向けて精度が悪いデータを取り除くことや、解を評価する必要があり、利用範囲・観測方法・観測場所の観点から精度管理の検討が必要であることが分かりました。
つくば国土地理院グランド周辺にて上空障害カ所で7測点実証実験を行いました。
5機種の受信機を使用し、10分毎に受信機を変えてローテーション観測を実施しました。
<実験概要>
・観測日時:2022年11月7日
・観測場所:茨城県つくば市国土地理院内グラウンド周辺の上空障害のある7カ所を選点
・使用機器:CLAS受信機(5機種)
・実験内容:10分毎に受信機を変えローテーション観測する
成果値はGNSSスタティック観測+TS観測による
電子基準点成果は「日々の座標値」を使用する
(CLAS補正データ生成時の電子基準点座標使用)
<観測点状況>
<解析結果のまとめ>
一部の受信機ではオープンスカイでもFloat解が発生し、時間帯によってFIX率に変化が見られました。また、建物際や構造物がある場所、樹木の下では、FIX解がわずかとなり、受信機の種類によってFIX率および較差に大きな差が現れました。そして、受信機によっては、10秒平均~8分平均のどのセッションでもFIX率100%を示す受信機もあれば、FIX率が70%程度の受信機もあり、観測時間帯や時間の長さによってFIX率が異なるものや、FIX解の成果値は較差が少ないのですが、Float解の成果値は較差が非常に多いものもありました。
今回(2022年)の実証実験は、実用的な場所よりも厳しい観測条件で行ったため、FIX率そのものが低く、成果との較差は非常に大きな値となりました。また、オープンスカイでも、一部Floatする時間帯があったことは、前回(2020/2021年)の実証実験と同様の結果となりました。そして、実用的に利用する程度の上空障害でもFloat解があり、時間帯や受信機による差が大きいこともあり、実用での利用については、目的を考えた対応が必要となります。しかし、樹木の枝下等のかなりの悪条件でも一部でFIX解が見られたことは、今後に期待の持てる結果となりました。
<実証実験での課題>
・上空障害のある場合は、初期化後にオープンスカイで衛星を捕捉した状態での開始を
検討する必要がある
・受信機毎に初期化時間の差を確認して観測を行う必要がある
・アンテナの性能が大きく影響するため、メーカ指定の受信機とアンテナの利用、
アンテナのグレードアップに注視が必要である
<CLASサービスの課題>
・場所、時間に関わらず、24時間安定した測位の実現が最重要である
・解の評価が確認できるシステムが必要である
・測地成果2011座標系との整合(元期座標)すること
<測量業界での利用の課題>
・必要とする位置座標は、CLASにより精度が上がることではなく、現代測量の持つ精度に
CLASがどれだけ近づけるかがテーマとなるため精度評価が必要である
・CLASによる座標成果そのものが目的ではなく、後続作業での利用の目的があり、
また、その目的も様々である
・観測を行う現地で精度管理を行える仕組みが必要である
・測量機器性能基準を満たす仕様が必要である
・CLAS単点観測における解の良否が、受信機で確認出来る
・2025年の7機体制による更なる安定した解に期待する
実証実験協力いただいた方々(順不同)
・株式会社コア
・合同会社JPS
・三菱電機株式会社
・朝日航洋株式会社
・株式会社パスコ
・アジア航測株式会社
・中日本航空株式会社
・東日本総合計画
・国際航業株式会社
・株式会社ジェノバ
・公益財団法人日本測量調査技術協会 位置情報・応用計測部会GNSSワーキンググループ
※本記事は公益財団法人日本測量調査技術協会の報告書をもとに、Web掲載の抜粋版はQSSで作成いたしました。継続的な評価にご協力いただき、ありがとうございました。