コンテンツです

ユーザー環境性能評価:土木建設(QSS:ダム工事におけるCLAS精度検証)

2022年11月29日

土木建設分野におけるCLAS利活用を目的としまして、立野ダムJV工事事務所および西松建設様のご協力の下、熊本県立野ダム工事現場にて、ケーブルクレーンによる材料運搬制御の測位精度検証を行いました。
ダム工事においては、通信環境が不安定な場所での作業が想定され、谷間でも受信しやすい準天頂衛星を活用することで、通信環境によらず高精度測位を実現する可能性が高いことから、CLASによるクレーン位置制御の実用性について検証いたしました。

 ・計測日時:2021年11月28日~2021年12月13日
 ・計測場所:熊本県立野ダム工事現場
 ・計測機器:AQLOC-V(CLAS:IS-QZSS-L6-004対応)
 ・リファレンス:RTK測位
 ・評価条件:リファレンス、CLAS共にFIX解が得られたものを評価

ダム完成予想図と地形断面図

図1-1.立野ダム完成予想図と地形断面図(国土地理院の地理院地図より掲載)

工事現場の全景とアンテナ・受信機取付位置

図1-2.工事現場の全景とアンテナ・受信機取付位置

ケーブルクレーンの自動運転制御における、吊り荷(コンクリートバケット)の高精度測位を、今回の実証のターゲットとしました。吊り荷上部のフックブロックにGNSSアンテナ及び受信機を設置し、CLASでのFIX率と測位精度を確認しました。今回の計測範囲では周囲地形により河床付近では仰角が平均35度程度と衛星の可視性が制限されているため、評価は遮蔽の影響を考慮し、天端(ダムの一番上部:標高282m)を境として、堤体上部/下部に分類して、統計処理を実施しました。

評価基準のイメージ

図2-1.評価基準のイメージ(天端を境界とした)

水平精度・垂直精度・FIX率

表3-1.天端(標高282m)を境とした水平精度、垂直精度、FIX率

ダムの最深部(河床近く)にフックブロックを下した状態においても、CLASのFIX状況や測位精度が劣化することなく、FIX率が高い状態を維持できていることを確認できました。このことから、CLASを用いた場合でも、従来方式に代わって、コンクリートバケットの自動運搬制御などで、土木建設分野において利用可能であると考えております。

季節ごとの比較・傾向

ダムの最深部(河床近く)にフックブロックを下した状態でも、上空でFIXしている状態であれば、衛星数が減少してもFIXステータスが継続していることが確認できました。

RTKをリファレンス※とした水平精度は約4cm、垂直精度は約9cmの結果となっており、FIX率は98%前後です。また、天端を境として上下に分けても大きな差異は見られませんでした。
※リファレンスとは、弊社受信機と近傍の電子基準点との間でRTK測位演算を実施したもの

作業日ごとの測位精度・FIX率・衛星数の状態

作業日ごとの測位精度・FIX率・衛星数の状態

※測位精度のついては95%値を、FIX率、衛星数については、各作業日の平均値を示している

事例1(2021年12月6日)
事例2(2021年12月9日)

土木建設分野におけるCLASの利活用については、今回の試験結果から以下の成果と課題があることがいえます。

CLASのFIX状況や測位精度については、今回のダム工事現場のように上空が開けた環境において、既設のRTK(私設基準点利用)と同等の精度・FIX率であることを確認できました。このことから、CLASを用いた場合でも、既存のRTKに代わって、コンクリートバケットの自動運搬制御などで、土木建設分野において利用可能であると考えられます。

ダムの最深部(河床近く)にフックブロックを下した状態でも、フックブロックを下げる前にFIXしている状態であれば、衛星数が減少してもFIXステータスが継続していることが確認できます。RTKをリファレンス※とした水平精度は約4cm、垂直精度は約9cmの結果となっており、FIX率は98%前後でした。
※リファレンスとは、弊社受信機と近傍の電子基準点との間でRTK測位演算を実施したもの。

天端を境にした上下では測位衛星の可視環境(測位に使用できる衛星数)が異なるため比較検証しましたが、大きな差異は見られませんでした。

土木建設分野では、様々な環境下での土木工事が想定されるため、さらなるデータ取得及び精度検証が必要と認識しており、引き続き建設業者や研究機関の協力を得ながら、実証・評価を継続していきたいと考えております。

今回の検証結果を踏まえて、次回以降のダム工事において、ケーブルクレーンやその他重機の位置情報を利用する場合は、CLASの活用を優先的に考えております。
また、重機の稼働状況(位置情報とエンジン稼働状況)をモニタリングする際に位置情報に「SLAS」の活用できる可能性があるので、カーボンニュートラルへの適用も視野に利用を検討していきたいと考えています。

※本文中の画像及び図版:©Mitsubishi Electric Corporation

関連記事