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ユーザー環境性能評価:鉄道(QSS:道南いさりび鉄道におけるCLAS測位状況調査)

2022年10月20日

<計測>

 CLASの利用拡大事業では、さまざまな事業分野へのCLAS適用を推進するため、事業者と協力してCLASの効果を確認する計測評価を実施しています。
 本資料は、国土交通省鉄道局の調査事業の一環として、独立行政法人自動車技術総合機構 交通安全環境研究所、道南いさりび鉄道株式会社の協力のもと、鉄道の営業路線で計測を実施した結果をまとめたものです。2020年12月よりCLASの補強対象衛星機数が17機に増加(従来は11機)しており、その効果も合わせて評価しました。

<測位処理>

・2020/10/21、11/10、11/11の計測データに、後処理を実施しました。
・観測量は貸出端末のログ(RAWデータ)を使用しました。
・補強情報(CLASデータ) は、従来フォーマット(最大11機)と新フォーマット
 (最大17機)の2種類を使用し、結果を比較しました。
 ※補強データはサーバログを使用し、従来/新フォーマットの差なく、
  常時使用可能である条件で比較可能としました。
・後処理S/Wは、CLASLIBを使用しました。
・精度評価は、リファレンス受信機(VRS)のFIX解に対して実施しました。

計測経路

地図出典:国土地理院「地理院地図」

<2020/10/21の計測状況>

計測機器構成

※本報告では、CLAS 11/17機対応受信機(PFI事業貸出端末)の評価結果を示します。

 CLASの従来フォーマット(最大11機対応)と新フォーマット(最大17機対応)の比較を実施した結果を示します。衛星からは両方のフォーマットを同時に配信できないことから、CLASデータはサーバでのログを用いて、両フォーマットを同条件で比較しています。

測位評価(FIX率、95%精度)

 従来/新フォーマットの比較では、精度・FIX率とも新フォーマットで改善した数値となっています。特に山間部や片側遮蔽のエリアで新フォーマットが良くFIXしており、補強対象衛星数増加の効果が見られます。
 50cm単位(50/100/150/200cm)で評価すると、レーン識別が可能な150cm以下の精度が得られる割合が向上していることを確認しました。

<精度(95%値)の算出方法>

 リファレンスであるVRSのFIX解がある区間において、CLASの測位結果のうち高精度解であるFIX解が得られた区間を評価しています。
 ※FIX率はCLASの測位結果のうちFIXした割合を示し、精度表示とは評価の母数が異なります。
 複数回の計測を行いましたが、往復・時刻などの計測条件によらず、最大17衛星対応の新フォーマットの信号を使用することで、FIX率が従来フォーマットの信号の結果より向上しており、補強対象衛星数の増加による可用性の向上が分かります。

※各走行における測位結果の詳細は、下記のページでご確認ください。

 鉄道分野でのユースケースを想定し、精度別での測位率の視点で集計した結果を示します。CLASの高精度測位を活用することを想定し、特にレーン判定で必要となる水平方向で50cm~2mの精度レベルでの測位状況を分析しました。それぞれの測位レベルでのレーン判定レベルを表に示します。

それぞれの測位レベルでのレーン判定レベル

※CLAS測位での高精度解(FIX解)に注目し、それ以外のFloat解、単独測位解は精度レベルの評価に含めていません。

 各計測走行における精度レベルの割合を図に示します。従来フォーマットでは150cm以下の精度レベルが得られるのは59.9%でしたが、新フォーマットでは72.7%と改善が確認できます。

精度レベルの割合(全測位解に対する割合)

各計測走行における精度レベルの割合

※トンネルや陸橋下などを除いた、衛星測位が可能なエリアを母数とした割合を示しています。

 各計測走行でのCLASのFIX解に対して、精度レベルの割合を表に示します。従来フォーマットでは150cm以下の精度レベルとなるのが98.05%であるのに対し、新フォーマットでは99.98%となり、新フォーマットによる測位では、衛星数増により測位率が向上するだけでなく、測位精度がより安定し、FIX解が得られた場合の信頼性が向上していることが確認できます。

精度レベルの割合(FIX解に対する割合)

CLASのFIX解での精度レベル

※100%より小さいほど濃い色でハッチングしている。

 鉄道分野におけるCLASをはじめとした衛星測位の利活用については引き続き衛星測位データの蓄積と分析が必要ですが、今回の試験結果から以下の成果と課題があるといえます。

<成果>

 オープンスカイ等の衛星測位の環境が良好であったところではCLASのFIX解の精度が全般的に高かったことが確認されたことから、CLASの利用によって列車の走行位置を正確に把握できる可能性が高いと考えています。
 試験走行中は対向列車との行き違いで駅に長時間停車することがありましたが、衛星測位の環境が良好な駅においては停車中もCLASのFIX解の精度が高かったことから、列車が駅のどの番線に停車しているかを正確に把握(番線検知)できる可能性が高いと考えています。
 番線検知の可能性を踏まえると、衛星測位の環境が良好なところでは、どの線路を走行しているか(複線の下り線 or 上り線、複々線の急行線 or 緩行線等)を識別できる可能性があると考えています。

<課題>

 車内放送を自動で行う仕組みや車内電光表示器の自動表示切り替え等のサービスに係るものについてはCLASを利用して正確に提供できる可能性がありますが、列車を安全に走行させるシステムへの利活用にはさらなる精度検証等が必要と考えています。
 トンネル区間では衛星測位できず、CLASによる補強も利用できないほか、長いトンネルを出た後は測位再開・CLASによるFIX解出力までに時間を要したことから、電波が受からない箇所への対策(慣性航法装置等他のセンサとのセンサフュージョン)が必要と考えています。

<今後の予定>

 引き続き研究機関や鉄道事業者等と連携して、精度検証や実証等を進めていく予定です。

※本文中の画像及び図版:© Mitsubishi Electric Corporation

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