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測位衛星の3種類の軌道

2015年10月27日

中国は2015年9月末、通算20機目となるBeiDou衛星の打ち上げに成功しました。この衛星は「IGSO(Inclined Geosynchronous Orbit=傾斜対地同期軌道)」と呼ばれる軌道に入ったことが確認されています。

IGSOとは測位衛星に使われる3種類の軌道のうちの一つで、2010年に打ち上げられた日本のみちびき初号機もこの軌道を採用しています。みちびき初号機はIGSOを、北半球では地球から遠ざけることで速度を遅くし、南半球では地球に近づけることで速度を速くして「準天頂軌道」にしているのです(みちびきは2018年度から準天頂軌道2機、静止軌道1機が追加され、4機体制での運用となります)。今回は、測位衛星で使われている軌道にはどんな種類があるのかを順番に説明します。

MEOを使うGPSは、6つの軌道面に4機ずつ配置

MEOの衛星軌跡イメージ

MEOの衛星軌跡イメージ

まず「MEO(Medium Earth Orbit=中高度軌道)」です。最初のGNSS(Global Navigation Satellite System=全球測位衛星システム)である米国のGPSがこの軌道を採用しました。

衛星測位のためには、ある地点から同時に少なくとも4機以上の衛星が可視(電波が受信可能)である必要があります。地球上のどの地点でもその条件が満たされるよう、周期12時間、軌道高度2万200km、軌道傾斜角55度の等間隔に配置された6つの軌道面に4機ずつ衛星を配置するという基本的なデザインが生まれました。

ロシアのGLONASSではGPSに比べ軌道高度がやや低く、周期が短く、軌道傾斜角がより大きい3つの軌道面に衛星を配置し、国土の多くを占める高緯度地方を手厚くカバーしています。

GEOは、衛星の場所がいつも同じ静止軌道

GEOの衛星軌跡イメージ

GEOの衛星軌跡イメージ(東経58度/80度/110度/140度/160度)

次が「GEO(Geostationary Orbit)」と呼ばれる静止軌道です。赤道上空3万6000kmをちょうど1日で周回する軌道で、地球から見ると衛星がいつも空の同じ場所に位置しているため、放送・通信用途で使われています。気象衛星ひまわりシリーズもこの軌道をとります。

測位システムでは、精度向上につながる補強信号を一斉同報するのに好都合なため、静止衛星に補強・補完の役割を担わせる場合があります。これは、SBAS(Satellite-Based Augmentation System=衛星航法補強システム)と呼ばれており、運輸多目的衛星ひまわりの6号機(東経140度)と7号機(同145度)を使って2007年から運用されている日本のMSAS(MTSAT Satellite-based Augmentation System)などがこれに当たります。また、2018年度から4機体制となるみちびきにも、静止軌道1機が加わります。

静止衛星の軌道面を傾けたIGSO

IGSOの衛星軌跡イメージ

IGSOの衛星軌跡イメージ(地上軌跡中心経度:東経95度/118度)

3つめが冒頭でお話しした「IGSO」です。静止衛星の軌道面を傾けた(inclined)もので、この軌道をとる衛星の直下点は、赤道を境に南北に均等に8の字を描きます。先月末に打ち上げられた中国のBeiDou衛星は、20機目であると共に、この軌道をとる衛星としては7機目でした。

みちびき初号機もこの軌道ですが、中国の場合は、高度が約3万6000kmで軌道傾斜角が55度の円軌道に近いのに対し、みちびき初号機は、軌道傾斜角が約40度の少し楕円形になっています。これにより北半球の日本付近で、衛星がより長い時間、天頂に近い場所にとどまるようになっています。

中国のBeiDouは、この3種類の軌道を全て使っている唯一のGNSSとなっています。

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文:喜多充成(科学技術ライター)、監修:久保信明(東京海洋大学大学院 准教授)

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