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弁護士 前田 博「4機体制の事業成功を経て今後の更なる利活用に期待」

2024年12月23日

「みちびきインタビュー」の5回目は、プロジェクト・ファイナンスを専門に扱う弁護士として「みちびき」の事業推進委員会で委員を務める前田 博氏(森・濱田松本法律事務所 所属)に話を伺いました。

前田氏

── 「みちびき」は4機体制まで事業が進んできたわけですが、先生の立場から見て事業に対する評価はいかがでしょうか。

大成功だと思います。「みちびき」の事業は、大型のインフラ事業に民間の資金を活用するという国の方針から、PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)で進められています。私は弁護士としてプロジェクト・ファイナンスを専門にしており、1999年にPFI法が制定されてからは、PFIの専門家としていくつもの事業に関わってきました。そうした経緯から「みちびき」事業においても事業推進委員会の委員をさせていただいているわけです。
本当の話をすると、「みちびき」のような事業をPFIで実施することは非常に難しいのです。その理由は簡単で、PFIでは事業が行き詰ったときに、その原因となった契約に従ったサービスの提供が出来なくなった事業者に代えて、代替事業者に変更することができる仕組みを組み込む必要があるからです。しかし「みちびき」のような事業は前例がなく、他に同様の事業を実施している事業者がおりません。ですから、何か深刻な事態が発生した場合にプロジェクト全体が実施できなくなってしまう懸念があります。
プロジェクトファイナンスであれPFIであれ、すべて市場経済の原則とそれを支えるミクロ経済学の理論で出来上がった仕組みなので、そこを理解せずに契約書の文言しか見ていないと、事業が順調に進まなくなったときに適切な対応がとれません。契約書に規定されたサービス提供が出来ないという債務不履行のリスクについて言えば、PFI事業に参加している全ての事業者それぞれが当事者になっている契約書の規定に従ったサービスの提供をなされていないから、かかるサービスの提供が出来ないという結果が発生する。PFI事業は、特定の事業者の債務不履行のリスク、言い換えるとクレジットリスクを代替事業者によるサービス提供に委ねるというマーケットリスクに転嫁することが可能な仕組みです。PFIでは代替事業者がやれるかどうかが生命線です。PFIのように民間資金を使って大型のインフラ事業をやる場合は常にその点が問題になって、事実上それができないような先端事業にPFIの仕組みで資金を付けるのは、理屈上は非常に難しいことです。そういう困難さのあるPFI事業でありながら、参加された民間事業者等、関係者の方々の頑張りがあって、「みちびき」はこれまで大きな問題もなく順調に進んできたと思います。

前田氏

── 現在「みちびき」は4機体制ですが、今後7機、11機体制となっても問題ないというお考えでしょうか。

4機体制からだんだん機数を増やしていく。その限りにおいては全然問題なくいけるはずです。スケジュールが大きくずれることもそう考えられないですし、課題があるとすればそれはPFIの問題ではなく、今後の利活用がどうなっていくのかというところではないかと思います。

── 「みちびき」の今後の利活用に関して、どのようにお考えですか。

「みちびき」にはどういう使い方があるか、あるいはどのような使われ方ができるのかといった点に関しては、すでに多くの事業が実施されていると思います。その上で、さらに新しいビジネスチャンスを探す段階にきているのではないでしょうか。そのように考えた場合、私は民需だけでそれを探していくのは結構難しいので、公共事業の中で探してもいいのではないかと思っています。

前田氏

── おっしゃるとおり、今後は社会課題の解決にも向き合えると思います。

「みちびき」のネックは受信機が大きくて高いという点でしたが、それが小さく安くなってきましたので、港湾や道路などでいろいろな使いみちがあると思います。公共事業で活用されれば、それが民間事業にも活用される契機になると思います。
例えば、大規模な都市開発事業にもチャンスはあると思います。日本では主に1960年代後半から例えば筑波研究学園都市を始めとして新都市開発事業が手がけられてきました。その頃の都市整備は、いわば土木工事と建物を建てるだけでしたが、今では、職住近接の点から新都市での職場の確保や住民の生活の点が課題になってきます。そのためには例えば超高圧の電力を引き込み、大量の情報のストレージが可能な大型のサーバーを設置し、それを中心としたネットワークを張り巡らした街を作っていく。共同溝を整備し、電気や上下水道を設置するし、自動運転も当然行えるようにします。こうした都市整備には、「みちびき」が提供する測位情報は極めて重要になると思います。
日本国内ではこうした大規模な都市づくりはすぐには進まないかもしれませんが、海外、例えばオーストラリアではこうした街づくりの検討が進んでいます。ニューサウスウェールズ州では、シドニーから40キロほど西にある西シドニー地区で、同州政府傘下の公社による新空港を中心とした街づくりが進んでおり、これに日本のUR都市機構(独立行政法人都市再生機構)が協力しています。
その際、UR都市機構が狙っておられるのは、各個別民間企業が「うちはこういう商品があります」という御用聞きの単品売りではなくて、「うちの技術を使えばこういうサービスが提供でき、それを使えばこんな街づくりができます」という大きなシナリオを作って技術を売る点をポイントにしているとのことです。
ご存じだと思いますが、自動車専用レーンが活用されているオーストラリアでは今後、この自動車専用レーンに自動運転を導入する可能性が大いにあります。例えば都市間を自動運転の長距離トラックでつなぎ、街に入る手前にトラックのプールを作り、そこでラスト・ワン・マイルだけを通常運転手による配送に切り替えることなども考えておられます。また、NTTグループはラスベガス市に対し、交差点の信号を管理して市内に渋滞が起きないようにするソリューションなどを提供し、スマートシティのプロジェクトを進めておられます。こうした話は当然全て「みちびき」と関係してくるでしょう。地方自治体が公共事業の実施について民間事業者と手を組んだ官民連携事業を推進し、お互いがメリットを得られるようになればいいと思っております。

前田氏

── 「みちびき」の今後の利用拡大は、大きなスケールで見ながらやっていく必要がありますね。

もう一つは、やはり海です。洋上風力発電なども、町おこしとセットで可能性があるのではないでしょうか。原子力発電所1個分くらいの単位で風力発電所をいくつも作っていけば、その整備や維持管理に従事する多数の従業員のことを考えると、近隣の過疎地の経済も活性化すると思います。大規模な洋上発電所を支えるには、必要な部品等の工場の立地も必要でしょう。また、現在の洋上風力発電は全て着床式ですが、これが浮体式になれば造船業も復活するはずです。電力消費地の大都市圏に向けての超高圧送電が不可欠です。これらの実現には、「みちびき」の技術が極めて重要になります。

── 最後に改めて、今後の7機、11機体制に対しての期待をお聞かせください。

大いに期待しています。「みちびき」にはいろいろな利活用の方法があると思います。世の中は資金で回っているので、官民問わずどの産業、どのセクターに資金が集まってくるのかを見定めて、公共事業や風力発電、海外の都市開発などを考えていただければと思います。

── ありがとうございました。

前田氏

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