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CDMA [後編] ── 正確な距離を読み取る

2017年03月26日

前編では、無線通信における最大の敵であるノイズを克服する上で、信号をコードで符号化/復号する通信方式「CDMA(Code Division Multiple Access、符号分割多元接続)」が大きな役割を果たしていることを説明しました。異なる複数の衛星の信号を同じ周波数で同時に受信し、それぞれのメッセージを別々に読み取ることができるのはCDMAのおかげです。加えてCDMAは、別の側面でも衛星測位に不可欠となっています。それがタイミング検出です。

電波の到達時間で距離を測る

(イメージイラスト)

衛星測位の出発点は、衛星から受信機までの“距離”を知ることです。その距離は、電波の到達時間を測ることで求めています。電波をいわば巻き尺のように使い、その上に記された“時刻の目盛り”を読み取ることで、距離を測っているわけです。

電波の速度は真空中で秒速約30万kmととても速いのですが、一方で測位衛星から発せられるメッセージの通信速度は50bps(=bit par second、1秒間に50個の“1”又は“0”の情報)とゆっくりです。秒速の30万kmを50で割ると、メッセージ1ビット当たり6000km。つまり“ひと目盛り6000kmの巻き尺”です。これで正確に距離を測ろうとするのはちょっとムリがあります。

そこでCDMAが登場します。GPS衛星は、50bpsで送信するメッセージに“CODE”をかけ合わせ符号化(暗号化)して送信しています。この“CODE”は1.023Mbps、1秒間に102万3000ビットの速度でメッセージに重ねられて送り出されています。この“CODE”1ビットを「ひと目盛り」として使うことができれば、30万km÷102万3000bps=約293mとなります。メッセージ1ビット分の6000kmより、かなり細かくなります。

“CODE”を少しずつずらして信号を探す

そもそも、受信したデータに“CODE”を重ねて情報を浮かび上がらせるのがCDMAの役割でした。この復号処理には“CODE”を正しく“位置合わせ”する必要があります。“CODE”が重ねられた受信データを固定し、“CODE”を少しずつずらして、ちょうど信号が浮かび上がるタイミングを見つける作業です。1ビットでもずれていたら復号はできません。

この操作、何に似ているかと言えば、ダイヤル錠の総当たり解錠です。4桁なら「0000」~「9999」をすべて試せば、かならずどこかで当たります。正解はただ1つしかありません。CDMAの復号も同様で、繰り返し送信されているメッセージに“CODE”をズラしながら重ねることで、ただ1つだけの正解を探します。

いったん解錠したら、今度は受信機側の工夫で、約293mというひと目盛りをさらに細かく分割します。より細かな部分まで値を読み取り、さらに2桁ほど細かな数値が得られます。それで距離の誤差は数mの範囲に収まってきます。時間の刻みの細かさに換算すると、ナノ秒(10億分の1秒)のオーダー(桁数)となってきます。GPSの測位精度が10数m~数十mと言われるのは、測距(衛星と受信機の距離推定)が数mの精度で実現しているからなのです。
 

文:喜多充成(科学技術ライター)、監修:久保信明(東京海洋大学大学院 准教授)