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アルマナックとエフェメリスは、測位衛星の“時刻表”

2017年06月13日

鉄道の運行管理に使われる「ダイヤグラム」と呼ばれる図表。縦軸に路線の経路、横軸に時刻を示し、各列車は斜めに表を上下する「斜線」として表示されます。ある瞬間にある列車が路線上のどこにいるかを、ダイヤ(ダイヤグラム)に引いた縦線と列車を示す斜線の交点から読み取って探します。
たとえば何も目印のない原野を横断する鉄道があり、そこでダイヤどおりに列車が運行されているとします。もし自分の位置が分からなくなっても、正確な時計とダイヤと路線図があれば、その列車を見かけた時に自分の位置を知ることができるのです。

鉄道の運行管理に使われるダイヤグラム

時刻表は、このダイヤグラムから時刻を抜き出して、表の形に並べたものです。時刻表では縦軸が駅名、横軸が列車名になっており、利用者は、記された時刻を指でたどって、旅行の予定を立てたり、架空の旅行を楽しんだりします。鉄道のプロが使うダイヤグラムとは情報の詳しさや網羅性に違いがありますが、列車の運行を記述した表という点では同じものです。

衛星の位置把握にも、高精度な時計が欠かせない

測位衛星に限らずすべての人工衛星は物理法則に従って地球を周回しており、衛星が通る道すじは「軌道」と呼ばれます。この軌道は数式で表すことができ、「衛星の位置を時刻の関数として表現する」ことが可能です。高精度に軌道を表現する数式に、きわめて正確な時刻を入力すれば、その瞬間における衛星の正確な座標が判明します。衛星測位に高精度な原子時計が欠かせないのは、衛星と受信者間の距離を知るだけでなく、衛星の座標を正確に知るためでもあるのです。

受信側ではそれらの情報をもとに計算し、ある瞬間における衛星の位置を求めます。衛星の位置と、その瞬間における衛星~受信機間の距離がセットとなったものが3つ以上の衛星で判明すれば、受信側は計算によって自分の位置を知ることができます(現実には、時刻の正確さを保証するため4つ目の衛星が必要です)。時刻と軌道の情報が正確であるほど、測位精度も向上します。

大まかなアルマナックと、詳細なエフェメリス

測位衛星は、こうした計算が可能になるように、アルマナックとエフェメリスという2種類の軌道情報を送信しています。放送暦と訳されるエフェメリスは、鉄道のダイヤグラムに相当する詳細なもので、これを正しく使うことで1m前後まで衛星の座標を追い込むことができます(ただし測位衛星は自機のエフェメリスしか送信していません)。

これに対してアルマナックは、鉄道でいえば時刻表に相当する大まかでざっくりした情報を示すものです。精度は数百m~数kmとなりますが、自機だけでなく他の衛星の軌道情報も含まれており、どれか1機の衛星のメッセージを解読すれば、同じシステムに属する他の衛星がおおよそどの位置にいるかが分かるようになっています。どの列車に乗るかを時刻表で決めるのと同じで、測位に使う衛星を選ぶのにアルマナックは役立ちます。これらアルマナックやエフェメリスの情報は、衛星から送信されるだけでなくインターネットや携帯電話回線を通じても入手でき、スマートフォンなどで測位計算をする際の時間短縮に役立っています。

鉄道における時刻表に当たるものがアルマナックで、ダイヤグラムがエフェメリスに相当するわけですが、衛星測位の世界ではさらに詳細な「精密暦」というものも存在します。ダイヤグラムやエフェメリスはあくまで運営側が公表する「予定」ですが、精密暦には多地点での観測で得られたデータを基にしたごく近い未来の「予測」や「結果」の情報も含まれており、精度も数cmのオーダーとなっています。こうした暦を利用して、より高精度の測位演算や解析が行われます。

精度に着目して整理すると、「アルマナック(精度:数百m~数km) > エフェメリス(放送暦)(精度:数m) > 精密暦(精度:数cm)」という順番になります。なお、アルマナックやエフェメリスという格調高い名称の由来は、かつて英国王立グリニッジ天文台が船乗りのために発刊していた天体暦“The Nautical Almanac and Astronomical Ephemeris”にちなんだものです。


文:喜多充成(科学技術ライター)、監修:久保信明(東京海洋大学大学院 准教授)

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※ヘッダの座標「35.665806/139.761487」は、旧新橋駅停車場ゼロマイルポスト(=日本の鉄道発祥の地)を地理院地図で読み取った値