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科学警察研究所 原田 豊:防犯情報を地図に記録する『聞き書きマップ』を推進

2016年09月28日
科学警察研究所 犯罪行動科学部犯罪予防研究室 特任研究官/警察庁技官 博士(犯罪学)原田 豊

今回は、GPSロガーとデジタルカメラ、ICレコーダーを組み合わせて記録しながら、街なかの防犯につながる情報を収集し、地図上で可視化できる『聞き書きマップ』のプロジェクトを推進している科学警察研究所の原田豊氏に、プロジェクトの概要や、準天頂衛星に対する思いなどを伺いました。

GPSロガーで、だれでも簡単に街の情報を記録

── まず『聞き書きマップ』とはどのようなものかを教えてください。

科学警察研究所 犯罪行動科学部犯罪予防研究室 原田 豊 特任研究官

原田 防犯ボランティアなどの方々が、GPSロガーを持って街を歩きながら気付いたことをデジタルカメラやICレコーダーで記録し、その記録を地図にまとめられるソフトウェアです。GIS(=地理情報システム)ソフト「ArcGIS Explorer Desktop」のアドインとして提供しています。これを使うと、現地で録音した音声をあとで聞き書きしてパソコンのデータとすることができます。

GPSロガーで記録した歩行軌跡を、撮影した写真や音声ファイルと共に地図データとして記録し、kmz形式のファイルとして書き出すこともできるため、いつ、どこを歩いて現地の状態がどうだったかが、地図上でひと目で分かります。必要なのはGPSロガーとデジタルカメラ、ICレコーダーの3点で、デジタルカメラを除いた2点とカードリーダーをまとめた「まちあるきセット」として提供することも検討しています。この製品と市販のデジタルカメラを組み合わせれば、だれもが簡単に街歩きを記録することができます。

『聞き書きマップ』の表示画面

『聞き書きマップ』の表示画面

「まちあるきセット」の試作品

「まちあるきセット」の試作品

小学生一人一人にGPSロガーを持たせる実証実験を実施

── もともと原田さんはどのような研究活動をされていたのでしょうか。

科学警察研究所 犯罪行動科学部犯罪予防研究室 原田 豊 特任研究官

原田 私は大学の文学部で社会学を学んでいたのですが、社会と個人との関わりをテーマに研究する中で、どんなメカニズムによって犯罪が起こるのかを追究し、そのような現状を少しでも変えていくことができないか、という課題を持ちました。それが自分のルーツになっています。

科警研に入所した当初も、防犯少年部(現在は、犯罪行動科学部)に入り、子どもの生育環境をテーマに研究していたのですが、そんな中、米国に2年間留学する機会を得て、それが大きな転機になりました。そのころ知り合った研究者を通じて、米国では新しい犯罪研究のあり方として、GISを使った「地理的犯罪分析」という手法が注目されはじめたことを知ったのです。犯罪の頻度が多いエリアをGISで明らかにして、それに基づいて集中的に対策をとることで、効果的に犯罪を抑止できるという考え方です。

私自身もコンピューターが好きで、文科系ではありますが自分でパソコンのプログラムも書いていたので、GISを使ったコンピューターベースの地理的な分析には大きな魅力を感じました。そこで、1999年に研究所が現在の場所に移転した時に、研究室に大型のプロッターを置いて大きな地図を印刷できる環境を整えて、GISを使った犯罪の空間分析に取り組み始めました。

── それが『聞き書きマップ』へとつながった訳ですね。

原田 公共空間での子どもの犯罪被害防止に関する研究に着手したことが、最初のきっかけでした。そのために、まず子どもたちの日常行動を知る必要があると考えたのです。その情報を収集する方法として、最初は紙の大きな地図に書き込んでもらうスタイルで始めたのですが、2006年に国内のメーカーが安価な単体のGPSロガーを発売したのを知って、これを使えば高価なGPS端末を買わなくても、子どもに持たせて使ってもらえると考えました。実際に研究で使ったGPSロガーは、さらに安価な外国製品で、当時の値段で1つ6,000~7,000円ぐらいだったのですが、その時は100個ほど購入しました。

これを茨城のつくば市の小学生に1人ずつ持たせる実証実験を行い、2週間ずっと放課後の軌跡ログを記録して、それをもとに小学生の日常の行動パターンを密度分布図にしました。ただ、この時は非常勤の職員が2週間、学校に通い詰めてバッテリーを充電したりする必要がありました。そこで、何とか学校現場などだけでできる防犯活動の支援の仕掛けがつくれないかと思い、たどり着いたのが『聞き書きマップ』なのです。

科学警察研究所 犯罪行動科学部犯罪予防研究室 原田 豊 特任研究官

街の歴史や災害などの記録ツールとしても有効

── この『聞き書きマップ』の利点を教えてください。

原田 現地でメモ書きするのではなく、ICレコーダーを録音し続けるという形をとっているので、操作ミスの可能性が少なく、雨や雪など悪天候の時にも情報を漏らさずに効率よく記録できます。また、音声を録音する際に、記録者の声だけでなく周りの人の声も一緒に録音できるため、たとえば地元で子どもの見守りを長年続けてきた方と一緒に歩くような場合でも、話したことを余さず録音できます。

こうすることで、地元の人しか知らない情報を掘り起こして記録できるツールとして使えます。現在は、学校教育の現場で通学路の安全点検などを中心に使い始めていただいていますが、ゆくゆくは、地域の語り部が伝える街の歴史や災害、戦争の記憶などを記録するツールとしても使えると考えています。他にも、東京オリンピック・パラリンピックに向けて外国人観光客を呼び込むために、ボランティアによる“地域のお宝情報探検ツアー”を行って観光情報を収集したり、それと併せて改善が必要な場所を見つけて改修につなげたりするためのツールとしても使えると思います。

── 今後、さらに進化していくのでしょうか。

科学警察研究所 犯罪行動科学部犯罪予防研究室 原田 豊 特任研究官

原田 年内を目標に、Androidスマートフォン用アプリのリリースを計画していて、現在開発中です。このアプリでは、データの取得中には「アプリ上で地図を見せない」ことをポイントにしようと考えています。最近、位置情報ゲームなどで“歩きスマホ”の危険性が指摘されていますが、安全対策のためのアプリなのに、それで人とぶつかってケガをしてしまったという事態を引き起こす訳にはいかないと思うからです。

『聞き書きマップ』のアプリでは、地図の画面は一切出さないで、使用中はポケットに入れっ放しの状態で使います。スマートフォンのカメラ機能もあえて使わず、デジカメは別に持って撮影し、音声録音とGPSログだけをスマートフォンで記録するというやり方を基本にするつもりです。ただ、スマートフォンはまだまだそれなりの値段はしますし、行政などが消耗品として購入してボランティアに無償貸与するようなことは難しいでしょうから、自分たちがめざしている「エンドユーザには無償で」使えるしくみづくりのためには、単体のGPSロガーを使うのがベストだと考えています。

安価で質の高いQZSS対応ロガーに期待

── 準天頂衛星「みちびき」に対する期待をお聞かせください。

科学警察研究所 犯罪行動科学部犯罪予防研究室 原田 豊 特任研究官

原田 4機体制となる2018年がいよいよ近づいてきた訳ですが、私がテーマとしている犯罪現象というのは、基本的に大都市の問題なのです。犯罪に対して、切実に「何とかしなければいけない」と思っているのは大都市の人が多いにもかかわらず、そこで衛星測位を利用すると、ビルの反射波などによって軌跡ログが悲惨な結果になってしまうことがあります。そうなると、いちばん切実に必要としている人が上手く利用できないという結果になってしまうので、高い仰角から衛星電波を取得できる準天頂衛星システムを、もうずっと心待ちにしている状況です。

ただ、そこで必要となるのが、ジャパンクオリティの安価で質の高いQZSS対応のGPSロガーです。『聞き書きマップ』では現在、海外製の安価なロガーを使用しているのですが、以前、小学生が使った時に、パソコンに接続しても認識されないというトラブルが発生してしまいました。子どもに使わせるものだからこそ、きちんとした製品でなければいけないし、準天頂衛星システムの運用開始によって、これまで衛星測位に関係のなかった人たちに大きなマーケットが開けるビッグチャンスが目の前にできる訳ですから、そこに切り込んでいく商品が欲しいと常々思っています。関係者の皆さまにも事ある毎にお話ししており、大いに期待しております。

── ありがとうございました。

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