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セイコーエプソン 森山佳行:ポジショニングをコア技術として、測位精度向上に期待する

2014年09月16日
セイコーエプソン株式会社 業務執行役員 センシングシステム事業部 事業部長 森山佳行

今回は、みちびきによる位置情報測位を取り入れたセイコーエプソンのWristableGPS開発や同社が衛星測位に関わってきた経緯、みちびきに対する期待や要望について、同社センシングシステム事業部の森山佳行事業部長にお話を伺いました。

「測位精度」「バッテリーもち」の不満をみちびきで解決

── 早速ですが、今回ご紹介いただく、みちびきに対応したWristableGPSという製品について教えてください。

セイコーエプソン センシングシステム事業部 森山佳行 事業部長

森山 WristableGPSはスポーツ向けGPS製品というカテゴリーの製品で、時刻と位置情報を記録することで、ランナーの走行距離やランニングのペースを測定し、記録します。商品化するに当たって、同様の製品はすでに市場に出ていましたので、まずは既存製品に対してお客様がどのような不満を持っておられるかを調べました。

WristableGPS「SF-710S」

WristableGPS「SF-710S」

そこでまず出たのは、位置情報の精度です。小型の受信機に対しては、精度の点では不満の声が多く聞かれました。あとは衛星を使っているのでトンネルや屋内での測位精度が低い、バッテリーがもたず長時間使えないといったことが挙がりました。これをエプソン独自の技術で解決すべく製品を開発し、2013年11月に発売したWristableGPS 最新機種ではみちびきに対応いたしました。

── みちびきに対応することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。

WristableGPSに使われている衛星測位チップ

WristableGPSに使われている衛星測位チップ

森山 まずは、測位精度が向上することです。小型・高性能な衛星測位チップとアンテナを独自に開発しました。GPSが弱いとされているビルが多い都心や、建物や木にさえぎられる公園などの環境でも、みちびきに対応したことでより安定した測定が可能です。WristableGPSで使用しているチップは他社には提供しておりませんので、この精度が実現できるのは私どもの製品だけです。

もう一つは、低消費電力。高い位置にいるみちびきを利用することで、衛星サーチの消費電力を少なく設定できるので、他社製品に比べると長いバッテリー寿命を実現しました。2018年までにあと3機の衛星が上がり、24時間体制でみちびきの信号が利用できるようになれば、さらに低消費電力での運用が可能になります。

── 利用者の方の評判はいかがですか。

森山 おかげさまで評判は上々です。みちびき、GPSに加えて、本体内蔵の加速度センサーと歩幅の自動計測をさらに精緻化した独自の高精度ストライド演算システムにより、屋内でも高い精度での測位が可能になりました。WristableGPSを使用されるランナーの方にとって重要なのは、トータルの距離を測定するだけでなく、自分で設定したペースの通りに走れているかどうかを確認することですから、位置情報の精度は非常に重要なのです。ユーザ様を対象にしたアンケートの結果でも、購入時にもっとも魅力を感じたポイントは「測位精度が高い」ことでした。

セイコーエプソン センシングシステム事業部 森山佳行 事業部長

あとは、電池寿命についても評価いただいています。8時間程度の寿命では、1日着けていると夜のトレーニングの途中でバッテリーが切れて大切な記録が消えてしまうこともありますが、WristableGPS の最新機種は30時間持ちますから、1日1回の充電で、いつトレーニングしても電池が切れることはありません。

「省・小・精の技術」がもたらした衛星とのつながり

── ところで衛星測位チップを自社開発されたとのことですが、エプソンと衛星測位の関係はどのようなものだったのでしょうか。

森山 エプソンと衛星測位の関係は、1998年にGPS付き携帯情報端末を発売した時に遡ります。その当時の衛星測位チップといえば、大きくて、小型の携帯機器に対応したものがなかったので、それなら自社で開発しようということになりました。当社のルーツは腕時計のセイコーですが、腕時計というのは世間にある部品を組み合わせるだけでは大きくなりすぎて商品になりませんから、小さくする必要があれば部品は自分で作るのが当たり前でした。「省・小・精の技術」すなわち“エネルギーを省く”、“モノを小さくする”、“精度を追求する”といった技術が、会社のDNAに組み込まれているのです。

── QBIC(高精度衛星測位サービス利用促進協議会)との関わりもそのような経緯からきているのでしょうか。

セイコーエプソン センシングシステム事業部 森山佳行 事業部長

森山 そうですね。エプソンは衛星測位チップの開発者としては先駆けだったこともあり、JAXAの方からみちびきの仕様検討の際に声をかけていただいて「民間の立場からどんな機能が欲しいか」といった意見交換をさせていただいたところから始まっています。

そうした経緯がありましたので、QBICが立ち上がる時も民間企業の立場で参画して欲しいとお話をいただきまして、標準化WGでみちびきの国際標準化、規格化、共通化といったところに取り組んでおります。具体的には、エプソンが得意とするモーションセンサーの技術を利用した産業系アプリを視野に入れた仕様を提案できればと考えています。

測位精度向上と付加情報を活用した新たなサービスを展開

── 海外展開についてはどのようにお考えでしょうか。

森山 アジア地域をほぼ網羅しますから、今の衛星を使ったアジア地域への展開には大いに可能性があると思いますが、国際展開を考える上で一つ課題なのは、今のみちびきは(GPS以外の)衛星との互換性というのが担保されていないという点ではないかと思っています。そのため、複数の衛星を利用できるようにしようと思うと、チップは衛星ごとの対応が必要で消費電力やサイズが大きくなり小型化が難しいという課題があります。

── 今後のみちびきに、どのような期待をされていますでしょうか。

セイコーエプソン センシングシステム事業部 森山佳行 事業部長

森山 まずは4機体制になって、常に日本の衛星が仰角の大きい位置にあるようになることですね。そこまでいけば、街中のビルの谷間でも衛星を簡単に受信できて、より測位精度が上がると期待しています。WristableGPSで使用しているポジショニング技術はエプソンのコア技術になると考えています。ターゲットセグメントはスポーツ、健康、医療の3つで、まずはスポーツ分野のランニングをターゲットにした製品を出しましたが、他のスポーツでも活用するのであれば、さらに高い精度が必要になります。その点でも、衛星が増えることに期待しています。

健康や医療の分野であれば、たとえば、高齢化が進み、在宅介護や高齢者の徘徊が問題となっています。現在の医療の現場ではこれを人海戦術で解決しようとしていますが、ITとセンシングを活用することで、解決策が出てくるのではないでしょうか。

4機体制の運用が始まる2018年には、衛星から測位信号に付加してさまざまな情報を送信できると聞いています。そうしたものを使って、新たなお客様への価値提供ができると思っています。災害時にみちびきを使って被災者の方の安全を確保したり、所在情報をより詳細に表示することで迅速な救助活動を可能にするなど、もう少し仕様をよくかみ砕いて理解する必要はありますが、民間の私どもも、そうしたことに貢献できる製品を企画したいと考えています。

── ありがとうございました。

※所属・肩書はインタビュー時のものです。