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ヤマハ発動機 坂本 修:衛星測位の信頼性向上で、無人ヘリのシステム設計も変わる

2015年02月27日
ヤマハ発動機株式会社 ビークル&ソリューション事業本部 UMS事業推進部 開発部長 坂本 修

最近は「ドローン」と呼ばれる無人航空機が注目を集めていますが、準天頂衛星システムの利用で期待される分野の一つが、高精度な位置情報を活用した「自動操縦」。1980年代から農薬散布用の無人ヘリコプターを手がけ、現在では日本の無人ビークル市場をリードしているヤマハ発動機は、その開発において草分けと言っていい存在です。今回は、ヤマハ発動機株式会社 UMS(Unmanned System)事業推進部で開発部長を務める坂本 修 氏に話を伺いました。

無人ヘリでの最初の火山観測は、有珠山噴火

── まず、無人ビークルに取り組んだきっかけをお聞かせいただけますか。

ヤマハ発動機 UMS事業推進部 坂本 修 開発部長

坂本 発端は、弊社の単独事業でなく、農林水産省のプロジェクトに参加したことです。1983年から開発を始めて、事業化は1989年。以来ずっと産業用無人ヘリコプターをやっています。無人化技術の進展に合わせて、レジャービークルや、船舶、四輪バギーなどにも取り組んでいますが、今でも事業の中心は無人ヘリコプターです。全国で約2,700機の農薬散布用ヘリが稼働し、日本の水田の約3分の1強は、私どものヘリで農薬を散布しています。

── 3分の1以上ですか。それはすごい。その後は、どのように用途を広げていったのでしょうか。

1990年代後半、当時カーネギーメロン大学ロボティクス研究所長の金出武雄先生に我々の機体を提供し、GPSや画像認識を使った自律化を研究していただき、農薬散布以外への応用が始まりました。私どもも独自に環境観測や火山観測に無人ヘリを展開できないかと考えていたのですが、大学の研究成果を見せていただき、ようやく自律飛行の可能性が出てきました。

最初に無人ヘリで火山を観測したのは2000年4月、北海道の有珠山噴火の時です。ちょうど前月の展示会で新型無人ヘリを出展し、プログラム飛行で火山観測もできるとアピールしていたら、翌月に有珠山が噴火。すぐに建設省(当時)の土木研究所から撮影の依頼があり、プロトタイプの無人ヘリを飛ばしました。今と比べるとGPSそのものの精度も悪くて苦労しましたが、リアルタイムで噴火活動を撮影したことが高く評価されました。

── 衛星測位を使った自律航行の研究は、そこから?

ヤマハ発動機 UMS事業推進部 坂本 修 開発部長

坂本 そうです。もともと無人機のプログラム飛行は慣性航法で、衛星測位のようにピッタリと位置を合わせて飛ぶことができませんでした。1980年代の終わりにGPSが世に出てからも、最初は、衛星配置によって位置がとれないとか、受信精度が悪いとかでかなり苦労しました。

その自律航行技術が大きく進化したのは、2004年頃のイラク復興支援を目的とした自衛隊派遣です。イラク南部のサマーワに設営された基地周辺を1年半にわたって無人ヘリで夜間パトロールし、機体のトラブルパターン、劣化プロセス、人間による操作のクセなど、さまざまな知見を得ることができました。

衛星測位が安定すれば、ジャイロの性能を下げられる

── 御社にとって、準天頂衛星が実用化することで高精度の衛星測位が安定して利用できるというのは、とても重要なことですね。

坂本 はい。私どもの無人ヘリコプターは現在GPSを利用していますが、万一、信号が途切れてもある程度の距離を飛べるように、姿勢制御に使うジャイロも非常に精度の高い光ファイバージャイロを積んでいます。でも、準天頂衛星システムが4機体制になれば、ジャイロの性能を今より落としても、全体の性能は向上すると考えています。

── 無人ヘリに衛星測位を実装する際は、どんなことに苦労されましたか。

ヤマハ発動機 UMS事業推進部 坂本 修 開発部長

坂本 今でもそうですが、最大の課題は「衛星をどこまで信頼できるか」です。ジャイロや加速度計のような内部センサと違い、衛星は外部センサですから、信頼性をどこに置くかがシステム設計時の課題となります。空では、陸のように「信号が途切れたからしばらくそこで止まりなさい」という訳にいかないので、途切れた時にどう補うかが非常に大事です。撮影用途のようにプログラム飛行する機種はGPSを二重化して冗長性を持たせていますが、それでも両方止まってしまえば、とにかく慣性航法で動かして安全な場所に移し、人が目視で確認して下ろさなければなりません。

信頼性という点では、日本の衛星であることも大きなメリットです。以前、米国が老朽化に伴いGPS衛星を1機入れ替えたら、通信フォーマットが違ってしまい、対応していないシステムが全部止まってしまったことがありました。やはり全部を他国のシステムに任せるのは社会インフラとしては危険だと思います。今は各国それぞれが衛星測位システムを運用し始めており、相互補完でよくなっていますが、準天頂衛星という国産の測位衛星が増えれば、さらに信頼性が増します。

── 無人ヘリは海外へも事業展開されていますが、そうしたノウハウを活かして進められているのでしょうか。

ヤマハ発動機 UMS事業推進部 坂本 修 開発部長

坂本 わが社が農業用ヘリを重点的に海外展開しているのは、韓国、オーストラリア、タイといった国々ですが、これは準天頂衛星を受信できる国と重なっています。同じシステムで日本からオーストラリアまで運用できる、というのはとても助かります。

高精度が要求される火山観測や放射線量の測定

── 無人ヘリの用途で、衛星による正確な測位が特に重要な分野は何でしょうか。

低空を飛行する産業用無人ヘリコプターFAZERの画像

ヤマハ発動機の産業用無人ヘリコプターFAZER

坂本 ヘリの用途は、何かを見る、物を運ぶ、農薬などを散布するの大きく3つですが、よく使われるのが火山観測です。カメラで撮るだけでなく、人が行けないところに観測機器を運搬します。桜島では年3~4回、東大地震研究所の依頼で地震計を山頂に置き、それを回収する作業をしています。そこでは置く場所に数m単位の精度を求められますし、回収も、置いた地点を正確に記録していないと取りに行けません。今の私どもの産業用無人ヘリは高さ約1,000mくらいまでの火山に利用可能ですが、新しいFAZERをベースとした機体であれば、2,000m級の山まで上がれるようになります。そうすれば、もっといろいろな火山で使えるようになります。

また、JAEA(独立行政法人日本原子力研究開発機構)の依頼で福島の原子力発電所周辺の放射線量を震災直後から一緒に測定しています。除染前・除染後の変化を比較したり、何カ月間かの放射線量の変化を調べるには、同じ飛行ルートを同じ飛行条件で飛ぶ必要があり、非常に重宝がられています。

── 最後に、準天頂衛星の今後の課題や期待についてお話しください。

ヤマハ発動機 UMS事業推進部 坂本 修 開発部長

坂本 受信機の小型化を期待したいですね。現状のセンチメーター級の受信機は、無人ヘリにはまだ大きくて、受信機を積むと他の機材が積めなくなってしまいます。製品開発者の立場からは、いつ頃、どのくらいまで小型化できるかというロードマップがあると、目標ができて、開発にも取り組みやすくなります。

── ありがとうございました。

※所属・肩書はインタビュー時のものです。