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電子航法研究所 坂井丈泰:高い測位精度を実現する信号として普及を支援していきたい

2015年07月27日
国立研究開発法人電子航法研究所 航法システム領域 工学博士 坂井丈泰

電子航法研究所は、電子航法に関するわが国唯一の研究機関です。今回は、この電子航法研究所で、GPSを補強する衛星型補強システムや、準天頂衛星で高い測位精度を実現するための研究開発を行っている坂井丈泰氏に話を伺いました。

GPSを単純に使うのではなく、補強システムで信頼性を確保

電子航法研究所 坂井丈泰氏

── 電子航法とは、どのようなものですか。

坂井 航空機も自動車と同じで航法(ナビゲーション)が必要です。衛星がない時代は地上からの電波でナビゲーションを行っていましたが、現在ではそれに加えてGPSも利用しています。航空機のナビゲーションが自動車と異なる点は、要求される精度と信頼性が高いという点です。正確な位置が得られ、それが飛行中ずっと使えることが必要です。そのため航空機の場合には、GPSを単純に使うのではなく、補強システムで信頼性を確保する方法がとられています。

GPSを補強するシステムにはいくつか方法があり、その1つが電子航法研究所で研究してきたSBAS(Satellite-Based Augmentation System、静止衛星型 衛星航法補強システム)です。日本のシステムはMSAS(MTSAT Satellite-based Augmentation System)と呼ばれており、運輸多目的衛星ひまわりの6号機と7号機を使って2007年から運用しています。

SBAS(静止衛星型 衛星航法補強システム)のイメージ図

補強情報とは、GPSの各衛星について、正常であるか、正常であるなら位置の精度はどのくらいかといった情報です。GPS衛星も機械なので、故障することもあるし、間違った情報を送信することもないわけではありません。ですから、そうしたことをチェックする必要があるのです。航空機上で補強情報を確認して、使えるGPS衛星を判断し、それを使って位置を計算するということをしています。

── 最近運用を開始したひまわり8号にはこの機能は搭載されていませんね。

坂井 はい。気象観測ではひまわり8号に交代しましたが、航法補強のMSASは、引き続きひまわり6号とひまわり7号で運用しています。将来は、みちびきを使ってサービスを続けることを検討していると聞いています。

── MSASを使うと、位置の精度はどのくらい向上するのでしょうか。

坂井 GPSを使うだけだと3~4m、時には10mとかになりますが、MSASによる補強情報を使うと1mないし2mという精度が出ています。

── 海外を飛行する場合にはどうなりますか。

坂井 アメリカにはWAAS(Wide Area Augmentation System)、ヨーロッパにはEGNOS(European Geostationary Navigation Overlay Service)というSBASシステムがあります。MSASもWAASもEGNOSも国際標準規格で作っています。

── MSASの今後の研究課題は何ですか。

坂井 MSASは赤道の近くでは精度が十分でなく、日本でのサービスを考えると沖縄あたりでは使いにくい状態です。GPSの信号が電離層の変動の影響を受けてしまうので、この点を改善したいと考えています。

着陸する航空機には、地上局から補強情報を送る

── SBAS以外のシステムについてはどうですか。

坂井 着陸時に用いるGBAS(Ground-Based Augmentation System、地上型補強システム)を研究しています。これは着陸進入する航空機に対して空港近くの地上局からVHF(超短波)で補強情報を送るシステムです。SBASと同じようにどのGPS衛星が使えるか、その場合の精度はどのくらいかを知らせるのです。

電子航法研究所 坂井丈泰氏

現在、日本の多くの空港には着陸する航空機に対してコースを指示するILS(Instrument Landing System、計器着陸装置)が設置されています。しかしILSは滑走路の端に設置しなければならず、敷地の都合で設置できない空港もあります。そういった空港でもGBASは利用できます。SBASとGBASを連続して利用することにより、航空機は同じ機材で飛行から着陸までを行うことができることになります。

── こうした衛星補強システムにみちびきが使われる可能性はありますか。

坂井 航空機に使われるシステムは、国際標準であることが必要です。世界のどこに行っても同じ機材で同じサービスを受けられる互換性あるいは相互運用性が要求されるのです。現在、民間航空に関する国際機関であるICAO(International Civil Aviation Organization、国際民間航空機関)では、GPSだけでなくロシアのGLONASSやヨーロッパのGalileoなど複数の測位衛星システムを用いた衛星航法システムが検討されています。みちびきも、民間航空用に使われるよう、日本の関係者が一丸となって努力することが必要と思っています。

ムリない範囲でいろいろな信号を出すのは望ましいこと

── みちびきについて伺います。電子航法研究所ではどのような取り組みをしてきたのでしょうか。

坂井 電子航法研究所では航空機向けの研究開発をしていますが、みちびきについては航空機分野に限らず、高い測位精度を実現するための研究開発として、サブメータ級(測位精度1m以下)の精度を目指すL1-SAIF補強信号の研究開発を担当してきました。固定した基準局でデータを取って評価するとか、自動車に積んで走って検証し、考えていた精度が得られています。現在もその実験を続けており、さらに、ロシアのGLONASSに対応するといった機能拡張の実験もしています。

── この信号を使ってもらうことが大事ですね。

坂井 研究所として性能を改善する研究開発を続けてはいますが、一方では、この信号を使っていただくため、実証実験などにもなるべく協力させてもらい、普及活動のサポートもしています。私たちはサービスを提供する側なので、どう使われるかはユーザーの方々にお任せすることになりますが、高い測位精度を実現する信号として、使っていただけるものになっていると思います。

── みちびきの今後の使われ方について、どのようにお考えですか。

電子航法研究所 坂井丈泰氏

坂井 みちびきは「準天頂」衛星と言うくらいですから、頭の上から信号が来るのが特徴です。高層ビルが多い東京都心部のような場所でも上手く機能するため、GPSだけではできなかったサービスが可能になると考えています。カーナビもみちびきに対応したものが増えており、使いやすいものにしていけば利用が広がっていくと思います。

位置の情報というのは、私たちの生活にとって基本的な情報です。これからは位置が分かって当たり前という時代になってくると思います。いつでも簡単に正確な位置が分かるとなれば、さまざまに利用が広がっていくでしょう。

── ありがとうございました。

※所属・肩書はインタビュー時のものです。