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防衛大学校 浪江宏宗:有益なシステムになるよう専門的見地から関わりたい

2016年08月22日
防衛大学校 電気電子工学科 防衛教官/日本航海学会 GPS/GNSS研究会 会長 浪江宏宗

今回は、1990年代半ば、当時の東京商船大学でGPS/GNSS研究にその黎明期から携わり、2000年以降は防衛大学校の教官として通信システムの講義を担当する浪江宏宗氏に、当時から現在に至る衛星測位をめぐる状況と最近の研究内容について伺いました。

「ジー・エス・ピーをやりたい」からスタート

── どういう経緯で、衛星測位の研究に関わられたのでしょうか。

防衛大学校 電気電子工学科 防衛教官 浪江宏宗氏

1994年、東京商船大(現・東京海洋大)の安田明生先生の研究室に入ったのがきっかけです。最初、安田先生に「君は何がやりたいんだ?」と訊かれ、「ジー・エス・ピーというものをやりたいと思います」と答えたところ、先生から「GSPって何だ?」と。そこで「えっ? 人工衛星の電波を受けて位置を…」と説明しようとしたら、「それはGPSだよ」とあきれられました。最初はそんな程度でした(笑)。当時は決して人気のある研究室ではなかったですが、今となってはこれ以上ないほど素晴らしい出会いだったと思います。

修士課程に入った1996年頃のことです。安田先生が日本航海学会でGPSに関わるシンポジウムを呼びかけたところ、300名以上が集まる大盛会となりました。ちょうどGPS利用が一気に広がっていた時期で、関心を持ち勉強したいという方が急に増えるタイミングでした。

それを背景に、安田先生が航海学会の中にGPS研究会を設立され、補佐する立場でずっと関わってきました。情報交換のための電子メールによるGNSSメーリングリスト(Navigation GPS ML → GPS USER ML → GNSS ML)を立ち上げ、関心のある方を見つけては輪に入ってもらうといった活動も、地道に続けてきました。ML(メーリングリスト)はまだ続けています。

測位信号を使った実験も、手探りで開始

防衛大学校 電気電子工学科 防衛教官 浪江宏宗氏

測位信号を使った実験も手探りで始めていました。当時、三浦半島先端の剱埼(つるぎざき)にある海上保安庁の施設から、中波ビーコン電波にディファレンシャルGPSの補正データが出始めた頃でした。それを使うことで測位精度がどの程度向上するか評価するため、ガムテープでアンテナを貼り付けたクルマで都心部を走り、受信実験を行いました。

海上保安庁 剱埼中波ビーコン局

海上保安庁 剱埼中波ビーコン局

皇居前広場では警察に呼び止められたのですが、安田先生が運転されていたので「私は国立大学の教授で、実験中なんです」とか言ってくださると思ったら、「今、衛星からの電波を受信しているのです」とおっしゃって、余計に怪しまれたりということもありました(笑)。

── 日本でのGPS/GNSS研究の黎明期だったのですね。

その後、テレビの地上波にRTKの補正データを重畳して放送する試みや、静止衛星、テレビ塔の送信電波を利用して測位を行い、GPSのバックアップに使う試みをお手伝いさせていただきました。民間の静止衛星オペレーターの協力を取り付け、静止衛星からGPSのネットワーク型RTKの補正データを降らせる実験も行いました。2001年当時は、世界にも例のなかった試みだと思っています。

おさいふケータイの仕組みで「災害対応自販機」

── 最近は、どんな研究をされていますか。

民生利用や災害対策に関わる技術開発や用途開発も私の研究室の大きなテーマです。2020年の東京オリンピック・パラリンピックをにらみながら、屋内外のシームレスな測位で、非接触型ICカードの仕組みを使い、利用者に位置情報やメッセージを伝えるシステムを実証中です。

展示会でブースで研究内容を説明する浪江氏

横浜市の交通局と協力し、横浜市営地下鉄の蒔田駅構内にある自動販売機を情報キオスクとして使い、ユーザーにGPS互換の位置情報、電子地図等を渡すシステムです。

手持ちの端末をタッチするだけで情報が届く仕組み

端末をかざすと情報が届く仕組み

── かざすと「ピッ」と情報が届く訳ですか?

そうなんです。まずはおさいふケータイの仕組みを使って試みています。自販機そのものが、災害時に停電になった場合、ドリンクを無償供給するなどの機能を備えた災害対応自動販売機が検討されていますよね。その時に、みちびきから届いた災害や危機管理に関わるメッセージや、被災者の安否確認メッセージも、手持ちの端末をタッチするだけでピッと渡せたらよいのではないか、と思っています。

ものすごく世話になってるのに、大切さが知られてない

── 今後4機体制でのみちびき実用化に向け、どのような期待をお持ちですか。

そもそも、使い方や仕組みを知らなくても、位置情報は出てきてくれるものと思われています。ものすごく世話になっているはずなのに、その大切さが知られていない状況からなかなか先へ進まない。最近になって、自動走行だったりドローンだったりで、意識される機会は増えているのかもしれませんが。

衛星測位をカリキュラムに据える大学も少なく、冒頭に申し上げたシンポジウムの参加人数を見ましても、実は最近は減りつつあるんですね。みちびきの話で多少盛り返しましたが、日本では何かずっと黎明期のままでいるのかなという気さえします。その間に中国はあっという間に測位衛星を30機近く打ち上げ、インドも自前のシステムを完成させてしまった。GLONASSも数を盛り返したし、Galileoも打ち上がります。今後、日本も追いつけ追い越せと技術向上、事業展開してゆければと希望しています。

防衛大学校 電気電子工学科 防衛教官 浪江宏宗氏

税金を使って行われている事業ですので、何とか役に立つものにできるよう微力ながらお手伝いをしたい。衛星測位の技術の部分で、ちゃんと有益となるようなシステムに仕上がっているかについて、これまでの衛星測位研究の経験を生かして関わっていければと思っています。

── ありがとうございました。

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