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東京海洋大学 久保信明:アカデミズムの立場から「みちびき」を浸透させたい

2015年11月05日
東京海洋大学大学院 海洋工学系 海事システム工学部門 准教授 久保信明

洋上でのナビゲーションに測位システムが欠かせないことから、東京海洋大学では長年にわたりGPS/GNSSの研究が進められています。研究室でどのような取り組みが行われているかや、人材育成やアジアとの連携について、准教授の久保信明氏に伺いました。

少なくともGPSとQZSSは絶対大丈夫という信頼感がある

東京海洋大学大学院 久保信明 准教授

── どういう経緯でこの分野の研究に携わるようになったのでしょうか。

久保 大学では電磁流体のコンピュータ・シミュレーションに関わっていました。航空宇宙分野に興味があり、「GPSを使った航空管制システムを計画」という企業のニュースを新聞で見かけ、記事に出ていたNEC(日本電気株式会社)の門を叩きました。

NECでは開発業務に携わっていましたが、大きなカルチャーショックを受けた出来事がありました。当時の上司とアメリカ西海岸のあるGPS受信機メーカーを訪ねた時のことです。規模は小さいですが社員の半分ぐらいが博士号を持っており、これと決めた分野でトップを走っている会社でした。同じものをつくり続けているように見えて、30年も生き残っている開発型企業で、しかも社屋の前はすぐビーチ。ドアを開けるとサーフィンできるわけです。

大企業にいれば「この仕事がやりたい!」と思っても数ある中のワン・オブ・ゼムに過ぎませんが、小さい企業ならオンリー・ワンを追求できるのではないか。そういった考えもあって再びアカデミズムの世界に足を踏み入れてみようと、3年半在籍したNECを辞してここ(東京海洋大学)に来ました。

── GNSS/GPSがもっと普及し世の中に定着していく上で、必要なことは何だと思いますか?

東京海洋大学大学院 久保信明 准教授

久保 すでに普及も定着もしており、むしろ普通すぎて意識されなくなっていると思います。今後いっそう大事になるのは「信頼感」だと思います。あくまで個人的な印象ですが、少なくともGPSとQZSSは絶対大丈夫だという信頼感があります。

何と言ってもアメリカは、対価を求めず20年以上サービスを続けてきました。SA(*)も廃止を宣言し、それを守っています。一般への普及を考えると、こういう積み重ねで醸成される信頼感が一番大事です。いつなくなるか分からないシステムは使えないし、他のGNSSシステムがGPSほど信頼されていないのは、そういった懸念をまだ拭い切れていないからだと思います。

準天頂衛星「みちびき」もきちんと5年間にわたって運用を続け、情報をオープンにし無償で提供しています。この姿勢はやっぱり海外で評判がいいですね。アジア地域だけでなくヨーロッパの研究者も関心を持っています。機数は少ないながら信頼は得ており、あとはロードマップのとおり、4機、7機と体制を充実させていくことで、現在得られている信頼感がもっと強固なものになっていくと思います。

* SA(Selective Availability):GPSの測位精度を意図的に落とす措置。2000年5月に解除された。

日本がリターンを得る部分をどう組み立てるかが課題

── 測位衛星は国民の税金で運用されるインフラでもありますが、無償で開放という姿勢とどう折り合いをつけていったらいいのでしょう。

久保 ナショナルセキュリティに関わるインフラでありながら、ずっとフリーで使えるという信頼感が醸成されている。これは考えてみれば不思議な話です。フリーだと言いながら、最初に走っているアメリカはそれなりの利益も得ているのだと思います。フリーであることで恩恵を受けるのはコストを負担していない側かと思ったら、逆にアメリカだったりするんです。受信機の特許など調べていくと、やはりオリジナルな部分はしっかり押さえており、世界に普及すればアメリカが潤うような仕組みになっていると思います。

準天頂衛星「みちびき」もフリーで使ってもらって普及を進める部分と、日本がリターンを得る部分をどう分けていくか、どう組み立てていくかが課題となるでしょう。難しい戦略が必要とは思いますが、きっと可能だと思います。国民の税金で運営されているシステムですからね。

東京海洋大学大学院 久保信明 准教授

そのために私たちアカデミズムの人間ができることは何だろうかと考えると、1つは国際学会などに参加して研究成果をアピールし、日本のプレゼンスを示していくことだと思います。

企業にも優秀な方々がたくさんいますが、論文を書いて発表することはなかなかできません。一方、国際学会の本流は、スタンフォードやオハイオ州立大など有名大学を通じ人脈的にもDoD(Department of Defense、米国国防総省)ともつながっている。そうした人たちに「日本にもこれぐらいの技術力はあるんだよ」と見せておきたい。決してフリーの信号にタダ乗りして商売しているだけじゃない、と言いたいですね。自由に研究発表すれば、多少技術は盗まれるかもしれません。けれども、自由闊達に対等な議論をし、そうしたコミュニティとつながっていくことは、それ以上に重要なことだと思います。

3大学連携の「G-SPASE」は大きなウェイトを占める

── 人材育成の取り組みについては?

久保 日々の講義やゼミはもちろん、学生をできるだけ学会に連れていくことを意識してやっています。さらに大きなウェイトを占めているのが、東大、慶応大と海洋大の3大学連携での「G-SPASE」(宇宙インフラ利活用人材育成のための大学連携国際教育プログラム)という活動です。

東大の柴崎亮介先生、慶應大の神武直彦先生とご一緒させていただき、1大学ではできないレベルでの活動ができています。特にアジアの主要大学との協力関係の構築は、非常に重要な任務だと思っています。その国のしかるべき大学の先生方は、その国の意思決定に近いところで関わっています。そういう方々には当然ながらヨーロッパからも中国からもアプローチはあります。そんな中で我々は「日本は信頼できる国だ」と分かってもらおうとしています。

東京海洋大学大学院 久保信明 准教授

私自身も非常に勉強になるのは、柴崎先生と渡航し、現地の政府高官や大学関係者との会合でご一緒させていただき、講演を聞かせてもらうと、それはもう素晴らしい講演をされるわけです。いったんスイッチが入った柴崎先生は、「基準点を建てたらこんなメリットがある」「日本と仲良くすると、こんないいことがある」と、まさに日本そのものを背負っているかのごとく、すさまじい説得力を発揮します。まさに味方を増やすための「戦い」なんです。こういうことを、学生たちにも事あるごとに伝えていこうとしています。

ともあれ「G-SPASE」の取り組みは、まずは3大学でスタートし、非常に上手く機能していると思います。将来的には大学共同利用施設として、GNSSに関連する研究をしたいという学生をどこからでも受け入れられるような仕組みがつくれると素晴らしいなぁと思います。

── GNSSや準天頂衛星のさらなる普及に向け、どのような将来のイメージをお持ちですか?

久保 学生と話していても、GPS/GNSSが大事なものであることは分かっていますね。身近なカーナビやスマホなど、あらゆるところに使われていますから。そういう意味では、定着させようと無理に思わなくても自然に広がっていくと思います。

一方、準天頂衛星に絞ってみると、測位衛星システムは、気象衛星などのように成果物を見せられるものではありませんし、「みちびき」という名前もまだ浸透しているとは言えません。ただ、現在1機が上手くいっている。こうした例や、得られる効果を実際に見せていくことが重要になると思います。4機、7機と整備していくわけですからそれを確実に遂行し、補正データも確実に送信していくことが、定着のカギだと思っています。

── ありがとうございました。

東京海洋大学大学院 久保信明 准教授

研究室がある越中島キャンパスの校舎屋上で。手前は衛星信号の受信アンテナ

 

※所属・肩書はインタビュー時のものです。