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東京大学 中須賀真一:将来型の社会インフラで、どう社会を変えていくかを検討する

2014年04月16日
東京大学 航空宇宙工学専攻 教授 工学博士 中須賀真一

今回は、大学宇宙コンソーシアム(UNISEC)などを通じた教育活動や超小型衛星「CanSat」や「CubeSat」の開発、さらには宇宙産業の振興にも長年尽力してこられた東京大学航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授に、準天頂衛星システムの利用拡大に向けての方策を伺いました。

準天頂衛星システムは、重要な社会インフラをつくる道具

── 準天頂衛星システムについて、先生はどのようにお考えになっていますか。

東京大学 中須賀真一 教授

中須賀 準天頂衛星システムとは、宇宙をベースにした社会の重要なインフラをつくるための道具であると考えています。内閣府宇宙戦略室が中心になって、それを整備していく方向に舵を切りました。したがって、これから国を挙げてやっていかなくてはなりません。

これまでは、地上をベースにした社会インフラがあったわけですが、これからは宇宙ベースの社会インフラ、すなわち将来型の社会インフラをつくっていくことになります。それによって、どのように社会を変えていくのかを追求することになります。それをうまい方向に持っていければ、産業化にもつながるし、世の中の人たちの利便性向上や幸福につながっていきます。そういう可能性が出てきたと思っています。

── 宇宙は、将来の社会インフラづくりのための重要な場所になるとお考えになりますか。

中須賀 もちろん。明らかにそうですね。宇宙でしかできないものは、いまも多く行われていますが、地上で行っていることの中でも、宇宙でやった方が効果的なもの、効率的なものはたくさんあるのです。これからは、それらをどんどん宇宙ベースのインフラに変えていかなくてはなりません。

東京大学 中須賀真一 教授

日本でいま大事なのは、準天頂衛星を打ち上げただけではなくて、それによって社会インフラを変えていくというオールジャパンの体制をつくることです。

たとえば中国では、GNSS(全球測位衛星システム)関係の学会があると、数千人規模で人が集まります。企業展示もたくさん行われています。それを超えるぐらいの盛り上がりを実現する策を考えていかなくてはいけません。

これまで宇宙に関係なかった人たちに働きかける

── 準天頂衛星システムに関する情報がもっとオープンになると、全く新しいアイデアが出てくる可能性があるとお考えですか。

中須賀 このシステムを気楽に使える状況をつくれば、少し考えてみようかという人は必ず出てきます。そういう仕掛けが必要です。ですので、コンテストなどももっとやるべきだと思います。そのコンテストもただ良いものを表彰するだけでなく、ちょっとした事業を始めるための資金を付けるのもいいと思います。ヨーロッパではそういうことをしています。

要は、これまで宇宙に関係なかった人を入れていかなければならないということです。そのための努力をもっとやっていかなくてはなりません。

── 準天頂衛星システムにはいろいろビジネスチャンスがあるというお考えですね。

東京大学 中須賀真一 教授

中須賀 ありますよ。たくさんあります。ただし、規制をいろいろ変えていかなくてはならないでしょうね。いま地上で行っていることを宇宙でやろうとすると、法律で制限されてしまうことがいろいろあるはずです。そのためにも、省庁も含めた推進体制が必要な訳です。

── そうした中で、準天頂衛星システムサービス株式会社にはどのような期待をされていますか。

中須賀 地上局のシステムや情報配信システムあたりは、たぶん問題なく行われるだろうと思っていて、そこはあんまり心配していないのです。やっていただきたいのは、利用拡大の核になってほしいということです。これまで宇宙と関係のなかった人たちに働きかけることです。本当にこれでビジネスをやろうという人を集めるためにはどうしたらいいかということを徹底的に考えてほしいですね。

1つはさっき言った多くの人たちにインセンティブを与えるコンテスト、それからもう1つは海外市場。これはすごく大事です。

インフラがない海外でこそ、システムのメリットを活かせる

── それでは、海外展開について伺います。

中須賀 海外展開にはいろいろな議論があります。日本で実証したパッケージを海外に持っていくという考え方がありますが、私はそうではないと思っています。なぜかと言うと、日本はインフラが整い過ぎている面があるからです。それよりも、インフラが全然ないところにいきなり持っていった方が、準天頂衛星システムのメリットを活かせるのです。

インフラがないアジアの国々に、いかにこのシステムを拡げていくかですが、そのためには、現地で本当に真剣にビジネスをやろうという人をたくさんつくれるかが大事です。そうすれば、あちこちに基地局を置けるといった可能性も出てきます。準天頂衛星システムサービス株式会社にはそういうトータルの活動の拠点になってほしいと思います。

東京大学 中須賀真一 教授

やる気のある企業と組んで一緒に仕事をして、どういうところに障害があるかを見極めたり、場合によっては法律を変えなくてはならないという提案を政府にしたりするくらいになってほしいと思います。やらなければいけないことはたくさんあります。

── アジア各国では準天頂衛星システムはどんな捉え方をされていますか。

中須賀 まだあまり知られていないのが現実ではないでしょうか。政府レベルのGNSS会議などでは話が出ていますが、一般の人たちには知られていませんので、まずはそこから始めないといけません。

それと、本当に準天頂衛星でビジネスをやろうと思っているアジアの人が、どれだけ日本に勉強に来てくれるかによります。日本に来たら何か良いことがあるというワクワク感みたいなもの、それがほしいですね。自分の国でビジネスをして儲けたいと思う人たちが、たくさん日本を向いてくれなければいけない訳です。

東京大学 中須賀真一 教授

海外から日本に来ることに関して問題となるのは、海外から日本に勉強に来たいと言っても、日本の大学におけるGNSSの研究者が非常に少ないことです。ですので、日本の中に研究拠点をつくらなければならない。それはバーチャルでもいいのです。いくつかの大学との連携でもいいです。いま東京大学、慶應義塾大学、東京海洋大学などいくつかの大学で、文部科学省のお金をもらいながら、細々と外国人研究者に紹介をしているのですが、その規模が小さいのです。その活動をもっと大きくして、たくさんの留学生が来たいと思うよう、外からもはっきり見える研究組織の形にしなければいけません。準天頂衛星の研究者がいろんな国から出てこないといけない訳です。その人たちが自国にやがてもどって事業化に乗り出す、そうしないと利用は拡がらないですから。

── ヨーロッパのGalileoや中国のBeiDouなど、他の測位衛星にはない準天頂衛星の利点を知ってもらわなくてはならないですね。

中須賀 準天頂衛星には良いところがいっぱいあります。ただそれをプロモーションするのがまだ上手くいっていない。センチメータ級測位補強サービスの精密測位などは相当おもしろいです。

平時に衛星安否確認サービスを使うビジネスがあってもいい

── 衛星安否確認サービス機能はいかがですか。

中須賀 衛星安否確認はいいと思います。これは世界の測位衛星にもない機能なので有効活用すべきです。災害時に使うのはいいと思いますが、平時においても、上手く活用されるといいですね。平時に使ってないと、いざという時に使えないことがありますから。平時の安全確保みたいなことだけでなく、もっとエンターテインメント的な利用があっていいと思っています。もっと楽しく考えて、ニーズを掘り起こしてもいい。

── もっとたくさんの人に利用法を考えてもらいたいですね。

東京大学 中須賀真一 教授

中須賀 大事なのは私たちが考えるのではなく、考える人を外から入れるということなのです。私も、超小型衛星の戦略は何かと尋ねられると、「宇宙で何かをやろうと考える人の数を100倍にしましょう。」といつも言っています。その人たちが新しい利用法を考えてくれます。彼らがこっちを向いてくれなければいけません。私たちの仕事はそのために敷居を下げることです。それで初めて、彼らはこっちを向いてくれます。つまり、それと同じようなことを準天頂衛星でもしなくてはいけません。

よく言われていますが、2020年の東京オリンピックでは、日本がGNSSのショーケースになるべきだと思っています。準天頂衛星があるから都市や交通システムがこんなふうになる。会場への誘導もこんなに便利になる。これが将来型の社会インフラなのだという強烈なインパクトを世界から来た人に与えられるかどうかですね。そのためにオールジャパン体制で臨む必要があります

── ありがとうございました。

※所属・肩書はインタビュー時のものです。