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日本宇宙フォーラム 吉冨 進:アジア・オセアニアの重要インフラとして定着してほしい

2016年01月03日
一般財団法人日本宇宙フォーラム 常務理事 吉冨 進

吉冨進氏はJAXA(宇宙航空研究開発機構)在籍中に、準天頂衛星「みちびき」初号機のプロジェクトを立ち上げる際の中心的な役割を担い、国内外の宇宙機関や研究機関の調整に携わりました。現在は、日本宇宙フォーラム常務理事を務めます。

2005年、JAXAで準天頂衛星の開発リーダーに

日本宇宙フォーラム 吉冨 進 常務理事

── 吉冨さんはいつ頃から準天頂衛星に関わるようになったのでしょうか。

吉冨 JAXAの前身であるNASDA(宇宙開発事業団)で、衛星開発や海外駐在事務、宇宙ステーションなどの業務に関わっていましたが、2005年4月から、準天頂衛星の開発リーダーとなりました。

── 当時、準天頂衛星の計画は、どのような状況でしたか。

吉冨 2002年に官民の協力で「準天頂衛星システム開発・利用推進協議会」が設置され、放送・通信サービスと測位という2つの機能を備えた衛星を準天頂衛星としていました。主に民間が放送・通信サービスを、国・JAXAが測位サービスという体制となっていました。しかし、2004年に民間が撤退し、国のプロジェクトとして、測位サービスの衛星として仕切り直しをすることになりました。ちょうどJAXAは先行研究として高精度測位実験の研究開発を始めており、着任まもなく衛星測位システム室を立ち上げ、その室長も兼任することで、準天頂衛星に関わるようになったわけです。

── その頃の印象に残っている出来事はありますか?

吉冨 2004年の10月に新潟中越地震が起きています。被災した長岡市の市長に宇宙技術の防災利用について切実なニーズを伺う機会がありました。夜間でも雲があっても地上の様子を知ることができるレーダー衛星が非常に重要だということで、これがその後のALOS-2(だいち2号)につながっていきます。そうした仕事と並行して関わっていましたので、準天頂衛星にも防災の視点は欠かせないだろうと考えていました。

当時の米国は、日本に非常に協力的

日本宇宙フォーラム 吉冨 進 常務理事

── 準天頂衛星の測位機能は、GPSと互換性を持つ形で計画されてきました。

吉冨 準天頂衛星でGPSと互換性を持つためには、アメリカ側からPRNコード(測位衛星の識別コード)を発行してもらう必要があります。当時のアメリカは、欧州が立ち上げたGalileo計画をにらみながら日本を自陣に取り込みたいという思惑があったのだろうと思いますが、非常に協力的でした。第3世代のGPSで新設されるジャミングやマルチパスに強いL1C信号について、日本が信号を出すことをいち早く認めたばかりか、スペックの決定に当たって日本の受信機メーカーやチップメーカーなど関連業界の意向も知りたいと、我々にリサーチを依頼してきました。日本からの提案も、すごく前向きに受け止めてくれていました。

さらに、測位を目的とするからには、それまでの地球観測衛星を上回る精度での軌道決定を行わなければなりません。少なくとも3〜5cmの軌道精度が必要となるため、地上モニター局をなるべく地球上の離れた位置、それも8の字の軌道を東西南北から見るような位置に配置したいわけです。

南側はオーストラリアが協力してくれることになっていましたが、東側ではハワイでどうかということで、調査に行きました。この際も米国務省や国防総省が全面的なバックアップのもと、オアフ島やカウアイ島の施設を視察させてもらい、最終的にはオアフ島の北西にあるカエナポイントに地上モニター局を設置することになりました。

アンテナなどの問題を解決しシステム設計を進める

── 準天頂衛星「みちびき」初号機の仕様や性能は、どのように固められていったのでしょうか。

吉冨 当初考えられていた放送・通信サービスは、日本国内限定のものでした。一方、測位サービスも国内限定なのか、それともアジアやオーストラリアに展開するのか、大きな議論となりました。私自身は、気象衛星「ひまわり」などのように国際貢献の意味合いも含め、測位のサービスはアジア・オセアニア地域に幅広く提供すべきだと思っていましたが、一方でシステム設計の段階で問題も抱えていました。

日本宇宙フォーラム 吉冨 進 常務理事

中でも大きな障害となっていたのが衛星のアンテナの問題です。地表で受信できる信号レベルを全ての衛星で揃える必要があるわけですが、衛星から地表までの距離が近い衛星の真下と、距離が遠くなる周辺部とでは、電波の強さと信号レベルが変わってしまうという問題がありました。ちょうどライトで照らしたとき、中央部分と周辺部で照度が違ってしまうのと似た問題です。これを周辺部が明るくなるように調整する必要がありました。

地表の凸に合うよう、上手い具合に凹んだ電波の放射パターンにしたいわけですが、3回の試作を経てもなかなか上手くいかなかった。「実現は無理ではないか。電波のビームを日本周辺に絞れば問題は解決する。測位サービスは日本周辺に限定するべきだ」という声も出てきた。税金でまかなわれるインフラサービスですから日本限定も一理はあるのですが、やはり「せっかく準天頂をやるんだったらアジア全体にサービス出来るようにやるべきだ」と考え、アンテナ専業メーカーなどの支援を得ながら、もう一度、挑戦することにしました。

そしてミッション機器担当のNEC東芝スペースシステム(現・NECスペーステクノロジー株式会社)が「ヘリカルアレイ・アンテナ」という素晴らしいアンテナを仕上げてくれました。19本のアンテナのうち、中央の1本が強い電波を出し、周囲の18本で地表のカーブに沿うように放射パターンを凹型に調整し、受信範囲ならどこでも同じような信号レベルとなるというものです。このほかにもLバンドの進行波管を使う電源部分や、ルビジウム原子時計の調達にも苦労しましたが、何とかメドが立ったところで初代プロジェクトマネージャー(打ち上げ時も担当したJAXA寺田弘慈氏)に引き継ぎました。

プレーヤーの多いプロジェクトで、調整が大変

── 準天頂衛星を開発し、システムを立ち上げていく難しさはどのような部分にあったのでしょうか。

吉冨 国だけで進めるプロジェクトになったとはいえ、非常にプレーヤーの多いプロジェクトであったことは間違いありません。文科省、総務省、経産省、国交省の4省の下にJAXA、情報通信研究機構、産業技術総合研究所、電子航法研究所、国土技術政策総合研究所、国土地理院と、たくさんの研究機関が関わっています。さらに交通安全環境研究所や鉄道総合技術研究所が利用機関として参画するなど、非常にインタフェース調整が大変でした。

運用に関しても、それまで通信衛星や地球観測衛星の追跡管制のノウハウがそのままでは通用しませんでした。測位衛星は、軌道決定の頻度が多く、精度もさらに高めなければなりません。いろいろなモニター局から集まってくる軌道データを統合して軌道決定し、それを軌道情報として送信しました。独自に技術を磨き、それまで7cm前後だった精度を誤差3〜5cmに高め、それが現在の準天頂衛星の運用に活かされています。

── 準天頂衛星の現状についてどのような感慨を持っていますか?

吉冨 準天頂衛星は「宇宙基本計画」において目玉中の目玉、一丁目一番地です。民間撤退や測位単独衛星としての再出発があり、ここまでこぎつけられたのは感無量です。ロードマップに示された4機体制、7機体制の整備が粛々と進み、日本だけでなくアジア・オセアニア地域の重要インフラとして信頼を得つつ定着していってほしいと願っています。

── ありがとうございました。

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※所属・肩書はインタビュー時のものです。