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大林組 松田 隆:衛星測位の即時性を、施工管理や災害時の避難誘導に役立てる

2014年12月22日
株式会社大林組 理事 技術本部 技術研究所 副所長 松田 隆

建設業の現場では、測位や施工管理に衛星測位が活用されています。その現状と、準天頂衛星が広げる可能性について、大手建設会社の中では初期から準天頂衛星システムの事業に参加している大林組の松田 隆 氏にお話を伺いました。

衛星測位のメリットは「時間」と「精度」

── 御社では、衛星測位による位置情報をどのように活用されているのでしょうか。

大林組 松田 隆 理事

松田 1つは、大型工事における測量に利用しています。大きな施設を造る時には、土地を平坦にするため、斜面を切ったり盛ったりしますが、土の量がムダにならないようにするには、高さの管理が重要です。

今までは、従来手法の測量で管理していましたが、10年ほど前からショベルカーなどに付けたGPS受信機で測量し、精度の向上と工期短縮が可能になりました。

また、盛土にブルドーザーで圧力をかけ強度を出す、土地の「締固め」にもGPSを活用しています。ブルドーザーが走行した場所と回数を記録して進捗状況を把握し、翌日どこから作業を始めればよいのかを即時に知ることができます。将来は、最初の試験工事で締固め管理方法のメドをつけて、あとは全部、運行管理データを使えば、大幅な効率化が可能になります。

ブルドーザーのGPSアンテナで平面の高さを管理

ブルドーザーのGPSアンテナで平面の高さを管理

受信したGPS情報をモニタに映して掘削

受信したGPS情報をモニタに映して掘削

── 土地ができたら次は建物ですが、こちらはどのように活用されていますか。

松田 大林組で施工したスカイツリーのような大きな建造物では衛星測位を活用しています。高い建物では、地面との間をレーザー光で測量して上部の施工状況を管理しますが、高さ方向を測る場合、仮設の足場などにさえぎられるため、小刻みに測定する必要があります。

600mの高さを10m刻みの測ると60回繰り返すので誤差が累積してしまいますが、衛星測位であれば一度で正確に測れます。高い建物は、風で揺れたり、日射によって日が当たる南側が膨張して曲がったりしますが、衛星測位なら、そうした影響がない時間帯に瞬時に測定することができます。

一方、水平方向の測量では、「地球が丸い」ことの影響が出てきます。横方向にまっすぐ「水平」というと地球の球面に沿った曲線になりますが、レーザー光は直進するので距離が長くなると水平線とずれてきます。2.5km離れると、およそ1mずれます。衛星測位であれば地球に沿った形で「標高」を出せますので、非常に有効です。

大林組 松田 隆 理事

衛星測位を使うメリットは、測量計算をしなくても即時に結果が出ることです。たとえば、建築工事では、1階ができ上がったら、その結果を測量して2階をどう建てるかを検討しています。衛星測位なら、随時出てくる結果を見て、その場で翌日の作業について検討できるので、時間的なメリットも大きいです。

── 今後、建設現場の測量は、全て衛星を利用することになるのでしょうか。

松田 衛星だけでは当然、限界があります。たとえばミリ単位の精度は無理ですから、そこにはレーザー測量を使用しています。地上の他の構造物との距離といったものには衛星測位を使用して、構内の測量にはレーザーを使うといった使い分けもしています。

いちばん大事なのは情報の共有

── 施工管理に位置情報を活用する事例として、他にどのようなものがありますか。

松田 建築においてはBIM(ビル・インフォメーション・モデリング)と呼ばれていますが、これも位置情報が重要になります。どこにどんな部品を運び、それが設計どおりの場所に収まっているかといった点について、部品にICタグを付けて管理ができます。

資材や土砂の搬出入をする車両や重機の運行管理についても、衛星測位を利用して効率化しています。また、建設現場には数百人以上が出入りするため、誰がどこにいるかも含め、すべてICタグで管理している現場もあります。今後は衛星測位を組み合わせ、それぞれの場所にいる作業員にタブレットを持たせて適切な作業を指示するとか、安全に誘導するといったこともできるでしょう。

こうした管理でいちばん重要なのは、情報の共有です。発注者、設計者、工事管理者、施工者が同じ情報を持ち、衛星測位を用いることにより、作業の進捗状況を共有することができ、ムダのない、手直しのない工事につながっていきます。

大林組 松田 隆 理事

「即時性」が、広範囲の被災状況の素早い把握に役立つ

── 社会インフラの整備や都市計画への活用についてはいかがでしょうか。

松田 わが社では、衛星測位のセンサーを使って、橋梁などの人工構造物の変位を高精度かつ高効率で計測することや、斜面の安定性を評価する技術を研究しています。

たとえば地震による損傷は、揺れの大きさの計測より建物の変形を直接測るほうが被害状況の把握に効果的です。建物の被害状況を広範囲に自動診断して収集し、被害が大きい地域を即時に把握できるように研究を進めています。また、センサーの性能を確認する実験も行っていて、地震の長周期振動や風揺れも十分に測定できることがわかっています。

あとは災害時の避難誘導では、道路の損傷や建物の倒壊で通れなかったりするところがあります。衛星測位による即時情報を参照し、その時点で安全に通れる道を提示して避難誘導するといった技術を提案しています。

── 御社と準天頂衛星システム関わりについても教えてください。

松田 大手建設会社で準天頂衛星システムサービスに株主として参加しているのはわが社だけと聞いております。建設業以外の企業と交流できるのは非常に重要と考えていて、私どもの業界では当然であっても、他の業界では新鮮に感じてもらえることもあるでしょうし、逆に異業種の方が考えている使い方を建設業界に持ってくることができるかもしれません。

たとえば交通関係で行われている車両運行管理を、工事車両の運行管理のブラッシュアップに使うとか、小売業で人の誘導に使われている仕組みを、建設現場での作業員の誘導に活用できないかといったことです。そうした点に期待して、積極的に情報交換させていただいています。

大林組 松田 隆 理事

── 最後に、準天頂衛星4機体制への期待をひと言、お願いします。

松田 構造物の損傷まで判別するには、ミリ単位の測位が必要なので、精度をもっと上げてほしいです。あとは、受信機が普及して多くのデータがとれれば、ビッグデータとしてそこから新しいことがわかります。たとえば構造物の振動の具合から異常を把握するといった、今とは違う使い方ができるようになるでしょう。4機体制で普及が進み、受信機が安くなることを期待しています。

── ありがとうございました。

※所属・肩書はインタビュー時のものです。